第39話 魔王へ続く道

「書類選考通過! やったあ!」


 スマホを手に一人の少女が喜びの声を上げた。

 彼女の名前は熊谷くまがい綾香あやか。群馬の片田舎に住む女子中学生だ。

 彼女がいつものように動画配信サイトを巡回中に目に入ったのが【アーニャチャンネル】。

 可愛い女の子たちがダンジョンを舞台にド派手な魔法をバンバン使ってモンスターを倒すという配信動画だったが、その動画に綾香は魅入られた。

 新作映画のPVか何かだと綾香は思ったが、すべてのクオリティがあまりに高すぎた。出て来る女の子は全員がテレビに映っている下手なアイドルより可愛いし、モンスターのCGは恐ろしすぎて画面越しでも漏らすかと思うほど怖かったし、女の子たちの使う魔法はとても綺麗で迫力に満ちていた。


 この子たちは絶対に人気が出る!と即座にチャンネル登録をした綾香だったが、配信の最後でアーニャが放った言葉が彼女のハートを貫いた。


『私たちと一緒にダンジョンの探索をしてくれる探索者を募集しているわ。興味がある人はHPから応募してちょうだい』


(アーニャたちと一緒にダンジョンを探索する――それってもしかして、アーニャたちのを募集するってこと!?)


 すっかり映画のPVだと思い込んでいた綾香はすぐにHPへ飛んで申込窓口から必要事項を記入して応募した。申し込みの注意として守秘義務がどうとか書かれていたがその辺は読み飛ばしてさっさとサインをしてしまった。


 こうして勘違いを勘違いだと気がつかないまま応募した綾香だったが、厳しい書類審査を潜り抜けて無事に合格を勝ち取り、二次審査について書かれたメールを受け取ったのだった。


「あ、そうだ。二次審査の会場はどこだろう? 東京ならいいけど他の場所だと厳しいかも……え?」


 メールの文章を見て、二度見て、もう一度見て。何度見ても変わらない。


『二次審査では面接を行います。準備完了後に下記の【面接に参加する】のボタンを押してください』


「ボタンを押せってどういうこと? ――あ、ビデオ通話かな? このボタンを押したら面接担当の人と繋がるのかも。だったら可愛い服を着ないとダメだよね」


 そうしてお気に入りの服を出して髪やメイクも整え、出来る限りめかしこんだ綾香がメール画面の【面接に参加する】ボタンを押した。


 ――次の瞬間、綾香は見知らぬ部屋の中にいた。


「え……?」


「ようこそお越しくださいました。熊谷綾香様ですね」

「きゃあああっ!!!」


 部屋の中にいた鎧姿の女性にいきなり声をかけられて大声で叫ぶ。

 だが、そんな綾香の様子を意に介さず、女兵士は部屋のドを開けた。


「面接はこちらで行います。準備が整いましたらお進みください」

「……め、面接……?」


 綾香が何が起きたのかと目を白黒させているが、女兵士は感情の感じられない態度で扉の横に佇んでいる。

 扉の向こうには夜空を背景に浮かび上がる漆黒と黄金で彩られた豪奢な城が見えた。


「ど、どういうこと……ここ、どこなの……?」


 綾香の面接はまだまだ始まったばかりである。


 ◇


 広場エリアで探索者候補の面接が行われている頃、達哉は練兵場でメイファから講義を受けていた。

 最初はダンジョン三階をトークンとカードの物量で押し通ろうとしていた達哉だったが実行前にメイファに止められ基本的なことを教わっているのだ。


「ユニットやモンスターにはレアリティが存在しています。N、R、SR、SSRの四種類ですね。これはそのまま技能や戦闘力の目安になります」


 N:技能なし。基本性能のみ。最弱。

 R:Rスキル持ち。一芸を使

 SR:SRスキル持ち。一芸を使

 SSR:SSRスキル持ち。最上級。


 練兵場にある塔の中の一室でメイファのマンツーマン指導。もちろん講義の内容はとても真面目だ。


「R、SR、SSRのスキルは何が違うんだ?」

「単純に威力が違う場合もありますが、RスキルとSRスキルの違いを端的に表すならこうなります」


 Rスキル【剣術】 “剣を扱う術”を身に着ける

 SRスキル【剣士】 “剣を使って戦う方法”を身に着ける


「【剣術】は剣術を習っただけの素人です。上手に剣を振れるというだけ。

 それに対し【剣士】は剣を使った戦闘方法も熟知しています。相手との駆け引き、地形を利用した戦闘方法、体力配分や周囲に対する気の配り方など、【剣士】は戦闘のエキスパートと言えるでしょう。これと同じことがユニットにも言えます」


 Nユニット:戦闘スキルを持っていない

 Rユニット:戦闘スキルを使える

 SRユニット:戦闘スキルを使いこなしている


「NとR、RとSRの差はとても大きいのですが、モンスターにも同様のことが言えます。一階、二階、三階のゴブリンたちですね」


 一階:Nゴブリン。木の棒を振り回しているだけの素人

 二階:Nゴブリン複数。数が増えただけの素人集団

 三階:Rゴブリン複数。戦闘スキルを持ったゴブリンたちの集団


「これは主様の持ち帰ったデータを分析したものですが、三階から先はRやSRスキルを持ったゴブリンたちが出て来ると予想されます。それに対抗するには敵を上回るだけの数を集めるか、個々の質を高める必要があります」


 ①大量のトークンやカードのユニットを集めて物量で押しつぶす

 ②SRやSSRカードの力で相手を上回る


「三階に出てきたRゴブリンの集団。主様は一度引きましたが、SRやSSRをカードを使えばあの程度は鎧袖一触で蹴散らせたはずなのです。それなのに主様にはできなかった」


 達哉が使っていたSRスキル【魔法剣士】やSR防具のランクが低かったから。

 達哉が連れていたゴブリンたちのランクが低かったから。

 昼間の時間だったので【夜の帝王】の効果が失われていたから。


「多くの理由がありますが、最たる理由は主様がまだSSRの力を完全に引き出せていないのが原因でしょう。

 主様はSSRカードを使ようになったばかりで、使のです」


 RとSRで違いがあるように、達哉は集めたSSRカードの能力をまた十全に使いこなせていない。

 そしてそれはSSRカードに限った話ではなかった。


「魔神クトネ様から授かった【魔王】の称号。その称号に紐づけられたスキルの数々が主様の中に眠っているのです。それを自覚し、自らの意思で手足のように扱えるようになることが主様の第一歩でしょう」


 メイファの導きによって達哉は【魔王】の力を使いこなす修行を始めたのだった。

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【一章完結】魔王誕生~ガチャで引いたSSRスキル【夜の帝王】を使ってダンジョン無双。最強の魔王が誕生しました~ カタリ @tkr2022

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