第38話 ブームは起こすもの
「配信終了時のチャンネル登録数1800人でしたが、現在5000人を超えて順調に増加中。初回の配信は成功と言っていいでしょう」
「そう……」
撮影担当のルルが杏奈に現在の状況を報告するが、すっかり憔悴して心あらずという様子で頷いていた。
「うう……どうして私が配信なんて……」
「あら。達哉の提案を引き受けた時はあんなにやる気満々だったじゃない」
「そうだけど……そうなんだけど……!」
最初は達哉の周りに杏奈とベアトリーチェしかいなかったのに、あれよあれよと女たちが増えてしまった。
しかも誰もかれもがSSRという一芸持ちの上に、魔神のクトネと【運命の少女】のアリーチェが強力なライバルとして存在している。
焦った杏奈がここで何か役に立つところを示さなければと思っていたところで“ダンジョン配信”を持ちかけられたのだ。
『今後を見据えてダンジョンに関する情報を発する場とダンジョンを探索する人手の確保がしたい。杏奈が配信者になってダンジョン配信をしてくれない?』
『わかったわ! 私に任せてちょうだい、あっという間に人を集めてみせるわ!』
達哉に頼まれた瞬間に一も二もなく了承し、あれよあれよという間に配信の準備が完了。ちょうど親バレして使徒活動に専念することも了承を得ていたというタイミングの良さもあって、杏奈の初配信は何の障害もなく世界に発信された。
「……私、配信中に変なことを言ってなかったかしら……」
「恋人がいるのかってコメントにいますと答えていたわね」
「いやああああああああああ!? パパやママも見ているかもしれないのに!?」
視聴者からの質問についポロっと答えてしまい、彼氏バレしてしまったことを思い出す。というかチカにママと呼ばせていることも含めて、どう説明しよう。
「い、いえ、まだ有名というわけではないし、パパとママも気がついていないはず。次回以降の配信で気をつければ、まだなんとか――」
「杏奈様。おめでとうございます。登録者数十万人突破です。そして現在も順調に増え続けております」
「なんで!?」
杏奈の配信は大反響となって登録者数は右肩上がり、あっという間に十万人の大台に乗ってしまった。
もちろん杏奈をはじめとした出演者たちの見目の良さや、ダンジョンでの迫力に溢れた戦闘シーンがウケたこと、ダンジョンやモンスターとは何なのかという考察がネット上で物議をかもしているという人気の出る要素が多かったこともあるのだが。
「SNS・配信サイトの両方をハッキングしました。注目の新作としてサイトのトップに出て来るようにしております。また、切り抜き動画の作成、一分程度のショート動画の投稿、杏奈様をはじめとしたキャストたちの紹介動画などを順次公開しております」
「このメイドが有能すぎる……!!!」
大量の動画作成を一瞬でこなし、ハッキングすら誰にも悟られずに行える電脳世界の偽神メイド。ルルの存在がこの唐突なダンジョン配信ブームの仕掛け人となっていた。
正確には魔神宮殿の素材に使用した【電脳の城】や【未来研究所】の設備機能、多くの機械系SSRを用いて作られてルル本体の性能、そして大量生産されているメイドロイドたちのバックアップがあってこその力技である。
この布陣にもし対抗するのなら最低でも同数以上の機械系SSRを揃える必要があるが、今のところルルの同類の存在は確認されていなかった。
「探索者の応募も殺到しています。応募書類の偽造や探索者に明らかに不向きな方たちは選考から除外しております」
「本当にこの子の性能はとんでもないわね。ネット全盛期の今の地球で最強の能力じゃないかしら」
ベアトリーチェがあきれ返るが、応募のメールを送ってきた相手の個人情報を特定して全員の調査をしてしまったのだから当然の反応だろう。
「見込みのありそうな方たちを招待する準備もできています。すぐに面接を開始しますか?」
「……お願いだから、少し心の準備をさせてちょうだい」
「かしこまりました」
書類選考(個人情報のハッキング付き)である程度絞った後はこのクトネが創った世界に呼んで面接を行う予定だったが、面接官を予定した杏奈が音を上げた。
ちなみに達哉が考案した計画では三十人分のダンジョンに五人一組で探索者を送れるので一度に最大百五十人。それが時間ごとに入れ替わるので例えば三交代なら四百五十人まで受け入れが可能だ。
もちろん、探索者たちが必ず五人一組になるとは限らないし、出入りの時間の調整なども必要になるが、それでも大量の人員を動員できるのは確かだった。
「……そういえば、ベアトリーチェ。大勢の人がこの世界に来ることになるけど、犯罪とかそういうのは大丈夫なのかしら? もっと人手が必要じゃない?」
「それなら問題ないわ。こっちから送る招待状のメールに仕掛けがしてあるの」
この世界――【聖なる地】から【魔神降臨の地】へと変貌して一つの独立世界になった――の外部からの攻撃に対する防衛能力は非常に高いが、内部の防衛力はまだ稼働し始めたばかりだ。内部で無法者たちが暴れ出せば対応に追われることになるだろう。
そのことに対する懸念だったが、当然のように達哉たちは対処済みだった。
「メールに添付したアプリを介してこの世界に来れるようにしているんだけど、その時に【契約】をさせて悪事を働けないようにしたわ。犯罪への利用や喧嘩などもできなくなるの」
ちなみにこれは【契約魔法】ではなく、ココに用意させた【契約の呪い】である。アプリの中に呪いを組み込むのはかなり大変だったと言っていたココだったが、現在は【契約の呪い】を紙に組み込んだ【ギアスペーパー】作りをさせられていた。
「そういうわけだから心配はいらないわ」
「やっぱりいろいろと考えているのね。……私も負けてはいられないか。ベアトリーチェ、ルル。面接の準備をお願い。さっそく始めましょう」
こうして始まった面接。応募者は千人を超えていたが第一弾としてまずは三十人の採用が決定したのだった。
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