【4-26】 実子のコナリイ 連れ子のアルイル 下

【第4章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023213408306965

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 帝国宰相・ネムグラン=オーラム元帥の着席が、帝国軍合同戦略会議――4半期に1度開かれる最高峰軍議――その幕開けの合図となった。


 今回の議題は、帝国東部方面征討軍によるヴァナヘイム国侵攻作戦についての総括、それに今後のイーストコノート大陸における仕置きについてである。


【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編 第4章追記

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16818093075431061948



 陸軍大将の1人・フアン=マクアークが、形式ばったセリフと所作で進行役を務めていく。


 2年前、ヴァ国を地図上から消し去った戦役において、作戦を主導したセラ=レイス中佐の有能ぶり以外、ネムグランにとって聴くべき点はない。



 この若者の才を見抜き重用したとは、さすがはアトロン老将農夫といったところか。


 だが、これほどの逸材を東部方面で埋もれさせておくには勿体ない――我が娘・コナリイの下に付けることにした。


 ――人材の有効活用だ。農夫よ、悪く思うな。


 優秀な若者を引き抜いては、愛娘の陣営に加えることに、最近では財界の長老どもも苦言を呈するようになってきた。


【12-16】 青空と暗室

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817139555171885912



 ――だが、それがどうした!!


 ネムグランは断言する。


 コナリイの金言名句を得るためには、五大陸七大海すべて組織・国家を敵に回すこともいとわぬ、と。


「パパ、だいすきッ!」

 少女の「金言名句」とともに、しばし帝国宰相の脳内に広がるコナリイ(4歳児頃)の映像をお楽しみください。




 ネムグランは、相好を崩しかけたのを間一髪でとどめる。鼻先でややずれた老眼鏡の向こうは、相も変らぬ退屈な軍議だった。


 帝国流の「儀式」につきあう馬鹿馬鹿しさには、この歳になっても慣れず、時が経つにつれ、宰相の機嫌は悪いものになっていく。



 議事は実戦のに差し掛かる。どれだけの兵馬を投入し、どれだけの損害を被り、どれだけの実入りある土地を制したか――総ざらいだ。


 脂肪で軍服ごと膨れ上がった若い将官が立ち上がると、壁面にかけられた大きな地図の前まで進み、指示棒を片手に説明を始めた。


 帝国東征軍オーナー・アルイル=オーラム上級大将である。



 ネムグランは、この醜怪な長男が嫌いであった。


 長男と言っても実子ではない。彼は正妻のほかに多くの妾を持ってきたが、実子はコナリイだけであり、1人として男子を成さなかった。


 正妻は、コーク=キーヴァンの娘・クリーナであった。ネムグランが他氏排斥はいせき・権力闘争に奔走していた過程で利用した貴族である。


 コークの人物眼は確かであった。若きネムグランがこの先 大成することを見越し、名を成す前に彼を縁戚に取り込むこととしたのである。


 ところが、当時のキーヴァン家では、適齢の娘がみな他家に嫁いでいた。そのため、コークはクリーナを離縁させたうえで嫁ぎ先から連れ戻し、ネムグランにあてがったのである。


 突然、離縁を突き付けられた相手方も激怒した。だが、格上たるキーヴァン家の決定を前に、どうにもならなかった。


 すると、腹いせのように、クリーナとともにアルイル風采才覚冴えぬその息子まで送り返してきたのである。


 仮にも跡継ぎ候補たる男児である。それを厄介払いするかのように手放すとは、少年・アルイルの出来損ないぶりを物語っていると言えよう。


 当時のネムグランは、国内四方に政敵を抱え、キーヴァン家の援助は不可欠な状況にあった。そのため、コークから年上の妻と、暗愚な連れ子を押し付けられても、拒絶することはできなかった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


コナリイに対するネムグランのキャラ崩壊ぶりに戸惑われた方(秋山挙手します)、

ネムグランとアルイル、体型と女好きはそっくりなのに、実の親子ではなかったのね、と驚かれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


ネムグランたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「ここらで、ブレギアの小僧の鼻をへし折るか」お楽しみに。


「で、我が軍の損害はいかほどだ」

ネムグランは、好意のかけらもない声で息子を問いただした。


不意に重低音の響きにさらされるや、アルイルは動揺し硬直した。


このは、物心がついた時から父親が苦手のようだ。威厳と尊厳の塊のような父の声を浴び、彼は思考言論に支障が出るほどあがってしまった。

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