【4-14】 銀髪の若者の自嘲――オーラム家とルイド教 下

【第4章 登場人物】

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 銀髪の若者が籍を置く最高学府――それを運営するのは、太陽神を崇めるルイド教・オーク教派だ。


 この帝国国教 本家は、同国創立時より、帝室・宰相府・陸軍省……権力機構からは治外法権を認められてきた。


 祭場から学びまでが立ち並ぶ帝都郊外の丘上は、太陽信仰の神域である。帝国本土各地に点在するオーク教派の私領ともども聖域とされ、そこでは自治が許されているのだ。


 同教派による独立独歩の気風は、最高学府においても色濃く現れている。オーク大学もちろん、キャンパスを共にする系列校においても、五大陸に向けて広く門戸を開いてきた。


 帝国の仇敵・ブレギア国――その宰相・キアン=ラヴァーダの子息を留学生として受け入れたのも、そうした事情による。


 今回、学問の師・ダラン僧正が、ブレギア政府より前国主の法要、新国主の就位式について主催を依頼され、それを引き受けたことも、帝国政府は黙認している。


 ところが、銀髪の若者が「自分もブレギアに連れていってほしい」と申し出たものの、ダランに却下されてしまった。私が海を渡るに際し、君を帝都に残すこと――それが、帝国宰相から突き付けられた条件なのだ、と。


 どうやら、帝国宰相という最高権力者は、神域にも干渉を始めたのようである。銀髪の若者は、対ブレギアと対オーク教派、双方における体のいい人質であった。


 すなわち、これまでのオーク教派における独立独歩の姿勢も、いつまで許されるか分からない。


 おまけに、シャムロック教派は、分派元を権力闘争の場に引きずり込み、その地位に取って代わる気満々なのだ。


 案の定、僧正が草原の国に向かう道中、帝国東岸領では随分と足止めや嫌がらせを受けたようである。


【図解】帝国 オーラム家・ルイド教 対立図

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16818093074034236645



 帝都に閉じ込められたまま、危害が及ぶようになった場合はどうしたものか。


 銀髪の若者は、生来頑健な身体とは縁遠い。季節の変わり目には、必ず風邪を引いては寝込んだ。


 いくら鍛えようとしても、バンブライ、ブイク、ナトフランタル……爺様たちのような腕力は身に付かなかった。


 ボルハンは元気だろうか。父にまたこき使われていなければいいのだが。そういえば、レオンのヤツは小さい頃から彼のことを誤解していたっけ。


【1-20】 少年と宝箱

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 ボルハンをする少年レオンの構図を思い出し、若者はプッと笑ってしまう。だが、旧友はそれ以上に父君のことを――昔日に想いをめぐらす彼の前に、エプロン姿の大きな影が、立ち塞がった。


「坊ちゃんに危害を加えようとする輩るあぁは、このアタシがただじゃおきませんからぬえぇ!?」

 世話役ネエヤことフィンコム=アルスターは、今日も頼もしい。彼も窓外の物々しい様子に気が付いたようだ。


 こん棒のような二の腕の先、鷲掴みにしている小さな赤い玉は――林檎か。林檎が小さいのではない、の手が大きすぎるのだ。


 自由を失った哀れな果物は、ミキミキという音と共に、握りつぶされてしまった。


 書棚が幅を利かせるこの部屋はただでさえ狭い。おまけにネエヤまで入ってきてしまっては、息が詰まりそうだ。


「た、頼りにしているよ、ネエヤ……」

 本日のティータイムは、搾りたての林檎ジュースだろうか。



 若者は、再び故国における事情に想いを巡らす。


 前国主の御親類衆、前国主を支えてきた爺様たち、そしてレオンを支える補佐官衆――3者の相性は最悪だ。ケルのヤツは相変わらずオヤジさんに頭が上がらないか。


【1-28】 軍靴を一歩先へ 上

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330661506260739



 父上……レオンを頼みます。


 銀髪の若者は、宰相閣下御令嬢向け個別授業の準備――ブレギア国史の取りまとめを再開した。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


前回、今回と銀髪の若者の正体を知って驚かれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


ブレギア宰相父子の乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「 銀髪の若者の自嘲――離合集散」


――嗚呼、いけない。


1回の講義分としては、また内容過多になってしまったようだ。


これでは、御令嬢が、また舟を漕いでしまう――口をわずかに開けて金髪を前後に揺らす様子はとても可愛らしいのだが。

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