【1-20】 少年と宝箱

【第1章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330660761303801

【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330667919950277

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 ヴァーガル河会戦からさかのぼること10年(帝国暦374年)。遅い春の到来を歓迎している草原の都・ダーナ――。


 陽は中天をとうに過ぎ、間もなく夕陽に変わろうとする時刻、金の髪と茶の髪をした2人の少年が、城の裏方へつながる通路を進んでいた。


 彼らが小走りで目指すは、粗大ゴミ置き場である。


 そこには、老朽化した鎧や破れた古地図など、少年たちの好奇心をくすぐるが発掘されることがあり、彼らは大人の目をかいくぐっては、度々そこへ忍びこんでいた。


「ルフは誘っていないのかい」

 ケルトハは茶色い顔を振り、周囲を見回す。


「あいつがいると、探検がしにくいだろう」

 レオンは小さな腕を組み、顔をしかめた。


「……」

 確かに、とケルトハは黙した。


 以前、3人で宝探しをした際には、やれベリーク産の皿だ、やれステンカ王国産の甲冑だなどと、銀髪の少年による解説が始まってしまった。


 そのまま、レオンとケルトハは、ゴミ捨て場で、友人によるを受講する羽目になったからだ。



 少年たちは、最後のにさしかかった。粗大ゴミ置き場までの道中、城内で最も人通りの多い回廊だ。


 前回は、ここでボルハン将軍に確保されかけたのだ。


 あの鍛え上げられたかいなに捕まったら最後、子どもたちでは振り払うことは出来ない。ぶん回されて、黒ひげ生い茂る頬を寄せられたあげく、御館みたちの居住区へ追い払われるのが関の山だ。


 先日は、レオンの必死の防戦――すねを蹴り上げ、将軍の猛禽類のような瞳が苦痛に歪むすきに、走り抜けたのだった。



「また、あいつが襲ってきたら、今度はかみついてやるからな」

「……?」

 金髪を揺らし、勇ましいことを口にする友を前に、今度はケルトハが小さな腕を組み、首をひねった。


 茶髪の少年は何となく気が付いていた。あの草原生まれの武人は、恐ろしい見かけとは異なり、心優しい一面を持っているのではないか、と。


 非番の折だろうか、城下で幼子たちの世話をしたり、捨て猫に餌を与えている姿を度々目撃してきたからだ。


 おそらく、自分たちをぶん回すのはであり、髭面を寄せられるのはであり、追い払うのは安全な居住区まで送り届けてくれているのだろう。城内とはいえ、兵士から料理人まで行き交うこの一帯は危ないから、と。


 もっとも、それらについて、まったく言葉が足りないことや、送り届ける際、彼の両腰で丸太のように引っ提げられるのは、閉口モノだ。


 そのような猛将の心配りなど、一切み取れていないのだろう。レオンは、ところどころ乳歯の抜け落ちた口をひんいている。


 どこまでも寡黙で不器用なボルハン将軍を、金髪の幼馴染が理解する日は、もう少し先なのかもしれない。




 2人は周囲に大人たちがいないことを確認して、そっと粗大ゴミ置き場お宝部屋の扉を開けた。


「「……?」」

 侵入後まもなく、少年たちは足を止めた。


 この日のは、明らかに様子が異なったからだ。


「こ、これって……」


「ああ、間違いない……」


 国主のサーベルが、「処分」と記された木箱へ無造作に収められていた。


 金髪の少年の父親が、腰に下げていたサーベル――口にしなくても、2人の見解は一致した。銀髪の少年の解説がなくとも、鞘や柄に施された装飾を、彼等はよく覚えていたからだ。


 この細身のサーベル1本だけではなかった。そこには、重臣たちの剣も一緒に放り込まれているではないか。


「そういえば、ルフのお父さんが、新しい剣を採用すると聞いたけど……」


 友の言葉をきっかけに、レオンは思い出していた。宰相・ラヴァーダ――銀髪の少年の父親が、新たに極東の異国ハング国の剣を採用することを提唱し、それが採択されたとの噂を。


 ――ッ。

 あの宰相様は、白い民族衣装だけでは飽きたらないのか。帝国貴族の誇りだけでなく、魂まで捨てるというのか。


 レオンは、お払い箱行きのサーベルを再び見下ろす。


 ――まるで俺みたいだ。

 レオンはうめき声をわずかにらすと、小さな手で父のサーベルをつかんだ。


 両手に力を込め、わずかばかり鞘から引き抜く。鈍い銀色の光を帯びた剣身がのぞいた。


「こいつは、俺がもらいうける」


「ま、まずいのでは」

 このお宝は、子どもの遊びの領分を越えていることを、明敏なケルトハはよく理解していた。


 ――構うものか。


 レオンは、異国の剣など腰に下げるつもりはない。


 金髪の少年は、サーベルを勢いよく鞘に収めた。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。

レオンの少年時代は、後ほどまとめて投稿する予定です。お楽しみに。


捨てられたサーベルに自身を重ね合わせたレオン――その心情が気になる方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「帝国の後詰ごづめ動く 下」お楽しみに。

時間軸は、再びヴァーガル河の戦場へ戻ります。


帝国暦384年11月5日深夜――ヴァーガル河畔に展開するブレギア露営群に偵騎が駆け戻った。


けたたましく蹄の音を立てながら飛び込んだのは、所属先たるレオン=カーヴァルの陣営である。


「帝国軍が動き始めました」

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