【1-19】 形勢逆転 下
【第1章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330660761303801
【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330667919950277
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ヴァーガル河を挟んで、ブレギア・帝国両軍の対陣は続いている。
早い時間の夕食を済ませたあと、ウテカは御親類衆を引き連れ河辺を歩いていた。
偵察などではなく、食ごなしの散歩だ。川幅の広い――対岸の帝国軍からの射程外――の安全地帯に限られる。
そこへ、宰相・ラヴァーダからの電報を手にしたケルトハが、騎馬で追いついたのだった。
下馬した息子は、父の前で威儀を正すと、通信筒と老眼鏡を差し出した。
「電報だと?」
ホーンスキン家の家長は、それらをひったくった。しぶしぶといった様子で用紙を取り出すと、通信筒はその場に打ち捨てる。
そして、大きな目を細め、眼鏡越しに紙片へ視線を落としていく。河の向こうに沈みつつある夕陽の残光を文字列に当てて。
中身を失い地面に転がった銀製の筒を、ケルトハは拾い上げた。その薄茶色の頭へ、父の言葉がこぼれてくる。
「1,200キロも離れた戦況にまで、口出ししてくるとは片腹痛い……」
あばたの残るウテカの頬は、歪んでいった。心底、不愉快そうに。
ラヴァーダ宰相は、東の国境にあるトゥメン城塞で、シイナ国軍を食い止めているはずである。西の国境を超えたこの陣営まで、宰相からのメッセージが到達するのに、一体どれだけの無電中継基地を経由したことだろうか。
【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249
ケルトハによる中継地点のカウントは、ビリビリという音で中断された。
見上げると、ウテカは電報用紙を2つに破り、さらにそれを細かく引きちぎっていく。
「ち、父上……」
ケルトハの眼前を、数枚の紙片が風に舞っていく。それらは黄金色に光りながら、はらはらと河原へ落ちていった。
ヴァーガル河畔に布陣するブレギア軍――その軍議の席は、いつの間にか作戦検討ではなく、戦後の恩賞検討が主題となった。
「今回の遠征で、うちは5,500人の兵を出しておる。それ相応の所領をいただかんと、配下たちが納得せんわい」
「うちは5,800だ。ジャルグチ様、われらにもそれなりに恩賞をいただかねば」
「いやいや、それは当家とて同じ」
「……」
「……」
ブラン・スコローンにその分家の者たちといった、欲の面が丸出しとなった御親類衆の激論を前に、前国主子息のレオンはもちろんのこと、御親類衆筆頭のウテカさえ呆気にとられていた。
「貴様の家は、2,800しか引き連れてきておらんだろが」
「なにを!お前たちは5年前の会戦の際も、国主から多くの領土を頂戴しているではないか」
先代国主や宰相が居たころは、陣幕で取っ組み合いなど起こったことなど無かったのだが。前者が亡くなり、後者もはるか東の戦地にあっては、気も抜けたのだろうか。
繰り広げられる醜いやり取りを、苦虫をかみつぶしたかのような表情で見つめていた宿将たちも、我慢の限界が来たようだった。
「見るに堪えんわ」
「聞くに堪えんな」
気の短いブイクやナトフランタルは、バンブライの制止を振り切り、軍議の場を出ていってしまった。
以降、軍議――気の早い
「初戦を終えたばかりで、もう恩賞談義ですか」
「……まったく気の早いことだ」
若君・レオンは、筆頭補佐官・トゥレムの用意した一番水を喉の奥へ押し込んだ。苛立ちを呑み込むようにして。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
帝国軍と同じ軍制――所領規模に応じた軍役負担を採っている以上、論功行賞に陥るのも同じか、と思われた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533
第1部【4-1】皮算用 上
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700427543296453
レオンたちが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「少年と宝箱」お楽しみに。
ほんの少しだけですが、レオンたちの少年の頃に時間軸を戻します。
金の髪と茶の髪をした2人の少年が、城の裏方へつながる通路を進んでいた。
彼らが小走りで目指すは、粗大ゴミ置き場である。
そこには、少年たちの好奇心をくすぐるお宝がたくさん発掘されることがあり、彼らは定期的に大人の目をかいくぐっては、そこへ忍びこんでいた。
「ルフは誘っていないのかい」
ケルトハは茶色い顔を振り、周囲を見回す。
「あいつがいると、探検がしにくいだろう」
レオンは小さな腕を組み、顔をしかめた。
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