【1-21】 帝国の後詰動く 上

【第1章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330660761303801

【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249

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 帝国暦384年11月5日深夜――ヴァーガル河畔に展開するブレギア露営群に偵騎が駆け戻った。


 けたたましく蹄の音を立てながら飛び込んだのは、所属先たるレオン=カーヴァルの陣営である。


 下馬した斥候兵を連れ、筆頭補佐官・ドーク=トゥレムは、あわただしく主人の天幕をめくり上げた。

「若君、夜分に失礼いたします」


「……どしたぁ」

 寝入りばなを起こされたのだろう。レオンは目をこすりながら、不機嫌そうに身を起こす。


 この前国主ジュニアを不愉快たらしめているものは、睡魔だけではあるまい。宰相・ラヴァーダが偵騎兵どもは、職務に忠実すぎるのである。


【1-17】 初勝利

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330661504251072


 彼は寝付きが悪い。枕元にはカンテラとステンカ王国の伝記――大人が読むにしてはやや子ども向けの本が置かれていた。


「……」

 有事の際に供えて軍服を脱がずにおられるのは立派なことだ。金色の髪の上に乗っかっている可愛らしいナイトキャップについては、トゥレムは見ないことに決め込んだ。


 一連の若君の様子に構わず、黒毛の筆頭補佐官は勤勉な斥候兵に報告を促す。




 しかし、今宵はその勤勉さによって、事態が動き始める。


「帝国軍が動き始めました」


「な、なに!?」

 眠気眼ねむけまなこのレオンは、理解力と言語中枢を同時稼働させることができなかった。


 対岸の帝国軍(初戦に敗北した各隊)は、相変わらず息を潜めたままだ。動き出したのは、後方にある援軍の方だろうか。


【10月26日8時】ヴァーガル河の戦い 地図①

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668835049580



 帝国陣営は、双方ともしばらく守りを固めるものと、御親類衆はもちろん、宿老衆までも思いこんでいる。


 だからこそ、ホーンスキンの腰巾着こしぎんちゃくたちは、論功行賞に連日明け暮れ、それに辟易へきえきした老将たちは欠席を決め込んでいるのだ。


【1-19】 形勢逆転 下

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330668773955359



 どうやら、その前提が崩れたらしい。


「詳しく話せッ」

 レオンは簡易ベッドから勢いよく飛び降りた。




 夜中にもかかわらず、


筆頭補佐官・ドーク=トゥレム(頭脳派)をはじめ、

補佐官・ムネイ=ブリアン(肉体派)、

補佐官・マセイ=ユーハ(智勇兼備型)、

補佐官・ダン=ハーヴァ等(乳兄弟)、


直属の青年将校たちが、続々とレオンの幕舎に参集した。


 夜分にすまない、と前置きの上、若君は配下たちに事情を説明しようとする。

「一大事が出来しゅったいした……」


 しかし、補佐官たちは、一大事よりもが気になって仕方がない。


 ――先ほど、注意申し上げればよかった。

 ――むぅ、絵柄はお馬さんとお月さまか。

 ――可愛らしいナイトキャップだな。

 ――かか様が作ってくださったものをまだ使っているのか。

 

 全員が、主人の頭のいただきを見つめていた。


「……」

 4人の視線を集めて、レオンはようやく気が付いたらしい――円錐形の布を頭頂部からそっと取り、下を向く。


 カンテラの光だけでも、金髪の合間に見えるオデコは真っ赤であることが見て取れた。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レオンの就寝時の様子が可愛らしいと思われた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「帝国の後詰動く 下」お楽しみに。

帝国軍の動きが激しいものになります。


「旧都に撤退するのであれば、前衛を河辺に置き去りにしたまま、夜中にこそこそ移動などすまい」


トゥレムは持ち前の神経質そうな声を隠さずに続ける。西進は恐らく擬態ぎたいであり、どこかで必ず北上か南下をするだろう――と。


「帝国増援軍の狙いは、あくまでも我等ブレギア軍であり……」


「申し上げます!」

筆頭補佐官による推論を遮ったのは、後続の斥候兵であった。

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