【1-22】 帝国の後詰動く 下

【第1章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330660761303801

【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249

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 夜更けにもかかわらず、若君・レオンの天幕に、補佐官衆が集合している。


 斥候兵からの報告は次のとおりだった。


 後方に位置する帝国増援軍各部隊は、夜陰にまぎれ西へ出立したとのこと。その数は約7万。


【10月26日8時】ヴァーガル河の戦い 地図①

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668835049580



「7万だと……」

 レオン以下、若者たちは息を飲んだ。


 帝国軍は後詰について、そのほぼ全軍を移動させ始めたわけである。


 前面河向こうの帝国陣営では、篝火かがりびが変わらず燦然さんぜんとしているが、その後方20キロの地点では、帝国軍兵馬は既にいないというのか。


【11月5日23時】ヴァーガル河の戦い 地図②

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330669095121587



「西方へ動き出した――帝国兵は、ノーアトゥーンに引き揚げるつもりでしょうか」

 補佐官・ブリアンが気を鎮めながらたずねた。


「旧都に撤退するのであれば、前衛を河辺に置き去りにしたまま、夜中にこそこそ移動などすまい」


 トゥレムは持ち前の神経質そうな声を隠さずに続ける。西進は恐らく擬態ぎたいであり、どこかで必ず北上か南下をするだろう――と。


「帝国増援軍の狙いは、あくまでも我等ブレギア軍であり……」


「申し上げます!」

 筆頭補佐官による推論を遮ったのは、後続の斥候兵であった。


 帝国軍後詰は一度西方に向かい、ヴァナヘイム旧都へ引き揚げるように見られた。ところが、突如進路を南方へ変更し、遠くヴァーガル河に平行するようにして南下しつつあるという。


【11月6日3時】ヴァーガル河の戦い 地図③

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330669097651566



 見事だ――と言わんばかりに、レオンは力強くうなずく。


 帝国軍後詰は、筆頭補佐官の読み通りに動いている。彼に称賛の視線が集まっていく。


 トゥレムは、泰然としたていを装っているようだ。しかし、最も手ごたえを感じているのも彼なのだろう。癖のある黒髪が得意げに揺れてしまうのは、どうしようもなさそうだ。



「南下する敵は、どこかでまた東進し、ヴァーガル河をこちらに向けて渡るでしょうか」

 ハーヴァが質問を継ぐ。帝国軍はブレギア軍のどこをいてくるというのか。


 御親類衆筆頭・ウテカ=ホーンスキンが敷いたブレギアの陣形に隙は見られない――図上、鳥が美しい翼を広げている。


【1-18】 形勢逆転 上

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330661504959713



「おそらくは……我が軍の左翼を側面からやくすつもりなのだろう」

 トゥレムは絵図に指を添えながら答える。



 最左翼……ナトフランタルとブイク両宿将の陣営である。



 御親族衆に比べ彼らの自領は狭小であり、自然じねん彼らが動員している兵数は多くない。


「帝国軍の狙いは、まずは薄い左翼を粉砕し、崩した同区域を梃子てこの起点にして、ブレギア本軍を突き崩すことにあろうかと」

 トゥレムは、自軍の弱点を冷静に指摘して推論を結ぶ。


 他の若者たちは、誰もが言葉を失っていた。筆頭補佐官は、最後に主人に対し黙礼する。


 ややに口を引き結んで、レオンが応じる。しかし、それは精一杯の強がりであった。


 このまま筆頭補佐官の読みどおりに戦況が推移した場合、自軍は最左翼を皮切りに全軍が浸食されよう。


 仕上げとばかりに、対岸の帝国敗残兵まで押し寄せてきたら、


 ――ぞっとしないな。


 若者たちは一斉に息を呑んだ。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


筆頭補佐官・トゥレムの頭脳が冴えわたっていると思われた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


レオンたちが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「闇夜の行軍」お楽しみに。


今夜の偵察の難易度は、星空の下とは比べ物にならないだろう。御親類衆はもちろん他の部隊の斥候兵も、帝国軍の動きをまるでつかめていないようだ。


 ――掴めたのは、宰相あいつだけか。

レオンの口からは、無自覚にため息が洩れた。

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