【4-13】 銀髪の若者の自嘲――オーラム家とルイド教 上

【第4章 登場人物】

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 帝国暦386年3月に入りしばらくしても、新国主・レオン=カーヴァルの快進撃は続いている。


 彼は自ら発した大動員令のとおり、国主に就任早々、旧ヴァナヘイム領へ大規模な出兵を敢行した。


【4-8】 凱旋と就位 下

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 帝都・オーク大学構内、教員たちの個室が並ぶ研究棟――その一室では、銀髪の若者が新聞をデスクに置いた。


 紙上はブレギアの若き英雄の写真とそれを讃える記事で埋め尽くされている。


「レオン……」

 若者は書棚の合間から窓外を見つめる。旧友の身を案じるようにして。


 彼は銀色のポニーテールがよく映えた。小柄で華奢な体躯、幼さがわずかに残りながらも整い過ぎた顔立ち。それに切れ長の目――すみれ色の瞳は、彼の知性を感じさせる。


 初対面の者には、必ず女性に見間違えられた――それにももう慣れている。



 銀髪の若者は、助教として大学に籍を置きながら、帝国宰相息女の家庭教師を受け持つことになった。


 10歳そこそこにして将官となり、一軍の率いる身となった御令嬢が存在しようとは――昇進が早すぎて、陸軍幼年学校に学ぶ暇すらなくなってしまうのは、本末転倒ではなかろうか。


 実地に生かす知識を、急いで身に付けようとしておられるとは――帝国貴族という権力体制は、時におかしな現象を生みだすものだ。



 そこで若者は失笑する。



 かくいう自分は、10歳そこそこで帝都に留学してからというもの、勉学にしか打ち込んで来なかった。


 その結果、飛び級を重ね、二十歳そこそこで学ぶことも無くなってしまった。だが、学び得た知識を実地に生かす機会なく、今日も研究室の書架のなかに埋もれている。


【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編

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 故国では、幼馴染が二代目国主の座に就き、連戦連勝――ブレギア軍は鎧袖一触がいしゅういっしょくの様相が続いていた。


 旧友は1日も早く、先代国主父親を上回ろうとしている。そのためには、倒す敵は強ければ強いほど良い。


 要害のエルドフリーム城塞を落とした以上、もはや、旧ヴァナヘイム領の城塞では満足できなくなったのだろう。より強い敵を求めて行きつく先は、帝国正規軍あたりか。


 だがレオン、このままではだめだ――ブレギア軍は息切れしてしまう。


 若者は旧友のもとにせ参じたいところだが、大海アロードはおろか、帝都を逃れることも難しいだろう。


「……」

 窓下に菫色の視線を下げると、黒みがかった軍服姿の男が数名……今日もまたご苦労なことだ。


 このところ、張り込みの人数がさらに増えている。


 若者の父親は、草原の国の宰相貴婦人である。帝国政府に要注意人物としてマークするな、と注文する方が無理な話だろう。



 一方で、帝都と東都――オーラム家父子の間では、きな臭さが漂いはじめている。


【図解】帝国 オーラム家・ルイド教 対立図

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 宰相・ネムグラン=オーラムの後は、嫡男・アルイル=オーラムの下にその権勢が転がり込んで来るだろうに。


 何を焦っているのか、アルイル一派によって帝都を牛耳るための準備が、嫡男の傅役もりやく・ターン=ブリクリウ大将の差配により、着実に進められている。


 そのような不穏な空気を生み出す最大の動機なのだろう――嫡男(兄)派閥が、かの令嬢(妹)一派を必要以上に警戒しているように思えてならない。


 父・ネムグランが、兄・アルイルではなく、妹・コナリイを後継者にするのではないか、と。



 そうしたアルイル派による蠢動しゅんどうの一環として、黒狐・ブリクリウ大将が、シャムロック教派と手を携えて久しい。


 数代前の帝室の策謀によって、分派した太陽神教派の対立も、いよいよ激しいものになってきている。


 皮肉なことに、時の権力によって分派させられた教派は、時の権力と無縁ではいられないようだ。


 自衛のため、オーク教派がネムグラン派閥に接近したのも、やむを得ない判断であっただろう。そもそもネムグランは、娘の教師に早くから僧正を充てている。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


彼のことをレクレナたちが銀髪美女だと言っていたのを思い出された方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

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【4-11】コナリイのお客様 上

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銀髪の若者が乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「銀髪の若者の自嘲――オーラム家とルイド教 下」


ボルハンは元気だろうか。父にまたこき使われていなければいいのだが。そういえば、レオンのヤツは小さい頃から彼のことを誤解していたっけ。


ボルハンをする少年レオンの構図を思い出し、若者はプッと笑ってしまう。

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