【3-18】 降伏など論外 上

【第3章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575

【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407

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 この日、ブレギア軍の総司令部は、慌ただしい雰囲気に包まれていた。大天幕には多くの者が出入りし、出入口たる扉はひっきりなしに開閉が続いている。


「なぜ、記者どもが入り込んでおるのだ」

 宿将・ブイクが戦場焼けの顔を曇らせ、周囲を見回す。


 幕内は、カメラや筆記具を手にした者たちが、ひしめき合っていた。


「己の功績を見せびらかすためであろう」

 宿将・ナトフランタルは鼻を鳴らす。上座にて差配している黒癖毛の若者に向けて。



 帝国暦385年3月16日――レオン=カーヴァル以下ブレギアの重臣たちが、ウルズ城塞からの使者を引見した。


【地図】ヴァナヘイム・ブレギア国境 第2部

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330668554055249



 金髪の若君は、中央の椅子に深く腰掛けていた。


 大ぶりの金縁紺地のマント――先代愛用の外套がいとう――そのすそからのぞくは、こころもち開いた2対のブーツ。左右の肘掛けには、両の手をそれぞれ置いている。


 の前には補佐官たちが、さらにその先には筆頭補佐官が立っていた。左右には、御親類衆と宿老衆が居並ぶ。



 使者は2名であった。


 旧ヴァナヘイム軍の礼服に袖を通している――軍人にしては、1人は太りじし、もう1人は瘦せぎすだった。草原の国の勇将たちを前に、2人ともどことなく落ち着きがない。


 彼等は体躯を縮めて、ブレギア主君に礼を取る。しかし、立ち位置上、筆頭補佐官の足下にひれ伏す形となった。


 一斉にフラッシュが焚かれる。


 閃光粉の飛散が落ち着くと、御親類衆末席・ケルトハ=ホーンスキンは父譲りの大きな瞳で、城塞からの使いの者を注視した。


 一城の命運を背負った使者にしては、両名とも軽薄な印象を拭えない。飾りの少ない軍服ごしから、衰弱した様子は見られないものの、妙に首筋が浮き出し、髭の合間に見える目は血走っていた。


 ここからも、水不足に悩む城内の苦しい状況が伝わって来る。



 城塞からの使者たちは、時候の挨拶を終えると本題に入る。


「我があるじ・ドラル=ウルズは、貴軍の尋常ならざる犠牲に心を痛めております。この辺りでお互い銃剣を収めてはいかがでしょう。以後、このウルズ城塞は貴国の傘下に入り、有事の折には先鋒を受け持つ所存……」


 まるで両軍の形勢が互角であるかのような言いようであった。水の手を絶たれ、進退窮まった孤城ごときが、とうそぶいているのだ。


 確かにアトロン防御網の突破の折、ブレギア軍は少なくない犠牲を強いられた。しかしウルズ城塞では、それら守備陣もすり潰され、頼みの石橋も木端微塵にされた。


【3-13】 同族同士の肉弾戦

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330662306599160


【3-15】 苦痛にのたうつ

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330662307194254



 城主に命じられているのだろうが、そうした戦況を忘れたかのような、あまりにも図々しい物言いである。水道橋を破却された衝撃を引きずり、神妙になっていればまだ可愛げがあろうものを。



 肥えた使者はひざまずいたまま、かすれた声で継続する。

「つきましては……」


「降伏は認めぬ。早々に立ち去られよ」


 城塞からの使いの者たちだけでなく、ブレギアの老将軍たち、それに各国の記者たちまでもが、神経質な声の主――ドーク=トゥレム筆頭補佐官に驚きの視線を向ける。


 太り肉は押し黙ったが、痩せぎすは言上をやめようとしない。

「しかし、わが城主としましては、此度こたびの不幸な攻防による……」


「だから、貴城の降伏など認めぬと申している」

 トゥレムは冷厳に言い放った。帝国傘下へと鞍替くらがえされた当初の勢いは、どうなさったのか、と。



 その後もしばらく続いた会話の平行線に、筆頭補佐官は終止符を打つ。

「草原育ちの田舎騎兵ではあるが、最後までお相手致そう」



 会談は終了となった。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


ウルズ城塞の者たちは、これまでのような調子のいいが通用すると思っていたのだな、と思われた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


トゥレムたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「降伏など論外 下」お楽しみに。


「ここで、降伏を許したら、我らの撤退後、彼らは再び背き、これからもこの地から戦火は消えぬでしょう」

トゥレムから発言権を引き継いだユーハは、口調まで上席の真似をしているようだ。


「若君は、何とおっしゃっておる」


「降伏など論外」


「貴様ではないッ。レオン様はどのようなお考えかと聞いておる」


ブイクの剣幕に押され、ユーハの口調は乱れる。


「ですから、『ここで甘い態度を取れば、周辺の豪族に示しがつかぬ』と、おおせです」

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