【3-19】 降伏など論外 下

【第3章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16818023211874721575

【地図】ヴァナヘイム国 (第1部16章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330656021434407

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 ウルズ城塞からの使者は、ブレギアの国主筆頭補佐官によって追い払われた。


「『交渉決裂』の原稿を使えッ」

「見出しは、『継続』だ!」

「そうだ、『戦闘継続』ッ」


 興奮した新聞記者たちが、大天幕を出入りする。



 そのような喧騒など構うことなく、ケルトハ=ホーンスキンは、レオン=カーヴァルの様子をずっと見つめている。


 御親類衆筆頭の子息は、哀れな使者には早々に見切りをつけ、途中からは幼馴染たる若君の様子に着目していた。


【1-20】 少年と宝箱

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533/episodes/16817330661505744201



 引見開始当初から肘掛けに置かれたレオンの両手は、いつの間にか膝の上で固く握られていた。


 拳だけでない。いにしえの鎧を身にまとったように、全身が強張っている。金色の髪もかぶとのように動きを失っていた。


 幼馴染のそうした姿を、ケルトハは何度か目にしたことがある。父王にぞんざいに扱われたあとは、決まってあのように硬直していた――まるで、不満と怒りと寂しさを押し留めているかのように。



「先方から降伏を申し出てきたものを、あのように追い返すとは、気でもふれたかッ」

 要塞の使者を追い返した翌日、バンブライ、ブイク、ナトフランタルほか各将軍が、鬼気迫る表情を総司令部に並べていた。


 しかし、そうした宿老衆を目の前にしても、筆頭補佐官は悪びれた様子も見せずに反論する。

「方々はお忘れでしょうか。この城塞は、先王の御代からヴァナヘイム・ブレギア・帝国と、勢いがある方になびいてきたことを」


 なるほど、宰相閣下が水道橋を占拠して降したあとも、わが軍が引き揚げるや、この城塞はヴァナヘイムに服従している。


 その後、帝国東征軍がヴァナヘイム領に侵攻するや、再びブレギアに庇護を申し出た。


 それでいながら、国主が崩御するや、早々と帝国へのである。


 ウルズ城塞のそうした節操なき動きに、周辺の中小豪族たちもみな足並みを揃えている。ウルズの日和見ひよりみ主義は、結果としてこの地域一帯におけるブレギア離反の端緒となったのだ。



 若造から老人への昔語りという、いつもとは逆の流れである。


「しかし、このような対応をして参ったら、今後我らに降る者はいなくなるぞッ」

 やりにくそうに、ブイクが口を開いた。


「ここで降伏を許したら、我らの撤退後、彼らは再び背き、これからもこの地から戦火は消えぬでしょう」

 トゥレムから発言権を引き継いだユーハは、口調まで上席の真似をしているようだ。


「若君は、何とおっしゃっておる」


「降伏など論外」


「貴様ではないッ。レオン様はどのようなお考えかと聞いておる」


 ブイクの剣幕に押され、ユーハの口調は乱れる。


「ですから、『ここで甘い態度を取れば、周辺の豪族に示しがつかぬ』と、おおせです」


 レオンは、この日、体調不良を理由に大天幕に姿を現さなかった。


 補佐官と宿老による、歩み寄ることのない――際限なき――議論は、城塞使者の再来訪によってようやく中断した。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


国主補佐官と宿老衆の衝突が心配な方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


ブレギアの若者と老人たちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「風見鶏」お楽しみに。


城内に戻ったビフレストを、領民たちが出迎えた。


防御指揮官の無事を喜びながらも、誰もが不安そうな表情を浮かべている。城外の旗色が悪いことは、敵味方の喚声だけで彼等に伝わっていたようだ。


子どもたちは、問わずにはいられない。

は、やはり強いの?」

「領主様がまた上手く交渉して、切り抜けてくれるよね」

が帰ったら、また領主さまはお祭りをしてくれるよね」


ビフレストは大丈夫だ、と1人1人の小さな頭を撫でていった。


草原の人たちは、君たちが生まれる前、我々のために病院を整え、食べ物を配ってくれたんだ。 だから、そのような呼び方をしてはいけないよ、と優しくたしなめながら。

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