式2

 アーメン。




 レイモクエンには勿論プロテスタントもカトリックもないし、俺自身がキリスト教というわけではない。カール・テイラーに対して正しく贈る言葉が他に見つからなかったため、半分反射的にそう毒吐いたのである。あるいは「南無」や「お気の毒様」といった用語でも差し支えなかったとも思う。何を言おうとも本人に伝わる事はないし、なにかしら影響が出るわけでもないのだからどうでもいい話だ。




「レイン君」




 カール・テイラーを呪っているところ、ギャビン・モーダントが俺の肩を叩いた。




「テイラー君ではないが、プリンセスティアラの最終花婿候補に選ばれるというのは大変栄誉な事だ。全世界に中継もされるから、そのつもりで」




 カール・テイラー程ではないにしろ、ギャビン・モーダントも俺は嫌いであった。気取った態度と、さも「私は器が大きいですよ」とでも言わんばかりの物腰が鼻につくのである。おまけにこいつは上級貴族であり真実を知っている側だった。白々しく「栄誉な事だ」などと口にするその面の皮の厚さはある種尊敬にすら値する。


 しかし、そんな事よりも俺は、ある一言が気になった。




「モーダントさん」


「なにかな?」


「世界中継されるんですか、花婿の選抜は」


「そうとも。それだけではない。もし花婿に選ばれた暁には後世に名が残り世界を救った英雄として崇められるだろうね」


 いけしゃあしゃあとそんな事を述べるギャビン・モーダントに俺は「そうですか」と返し一思案。すぐさま、「電話をしてきます」といってその場を離れ、デバイスにて通話の操作を開始した。荷電先は……




「……なんだ」


「アドベール。今、時間あるか?」


「ない。切るぞ」


「お前の望みが叶うかも知れんぞ」


「……どういう意味だ」


「恐らく、この後讃美歌卿……ルブランさんからお前に屋敷へ来いと連絡が入る。その後、上手くいけばきっちり仕事ができるだろう」


「……」


「ただし、チャンスは恐らく一回だ。もたもたしていると機会は永久に失われる。しっかり気を張っておけ」


「……分かった。切るぞ」


「あぁ」





 通話完了。次は讃美歌卿である。




「……あ、恐れ入ります。そちら、ルブラン様のお屋敷でしょうか」


「はい。どちら様でしょうか」


「私、ロジャーズ・レインと申します」


「あぁ、レイン様。ベルナールでございます」


「ベルナールさん。ご対応ありがとうございます。ルブランさんに繋いでいただきたいのですが、今大丈夫でしょうか?」


「旦那様は現在職務中となっております。ご用件いただければ私からお伝えいたしますが」


「申し訳ございません。こちら、火急の用事となっております。“例の件”とお伝えいただければ、恐らくご対応いただけるかと思いますので、一度お願いいただいてもよろしいでしょうか」

 

「……承知いたしました。少々お待ちください」


「……」


「……」


「……」


「……ルブランだ」


「あ、ご対応いただきありがとうございますルブランさん。私、ロジャーズ・レインでございます」


「知っているよ。ベルナールから聞いている」


「それはどうも」


「レイン君。私は君を買っているが、友達になったつもりはない。こう気安く呼ばれては困る」


「そちらにつきましては大変申し訳ございません。ですが、取り急ぎお伝えしたい事がございまして」


「なんだ? この期に及んで、まだ仕事の斡旋を頼むつもりか?」


「恐れながら、その通りでございます」


「馬鹿な。君にはウィンフリーを紹介してやっただろう。仕事はすっかり終わったと報告を受けているぞ」


「はい。私の分は完了しておりますが、アドベールが困っているようでして」


「アドベール?」


「はい。どうも、ルブランさんとお近づきになりたく、なんでもいいからお手伝いをしたいと言っておりました。彼とは引き続きより良い関係を築き、密に連絡を取っていきたいと考えております。本日傍らに置いていただければきっと役に立つ証明ができると自分でも言っておりましたので、どうぞ、使ってやっていただけると助かります」


「……そんなにアドベールと仲が良いのか?」


「はい。お互い、厚い信頼関係で結ばれております」


「……まぁ、分かった。それでは手配しよう。それにしても、君はどうも遠慮のない部分があるね」


「恐縮です」


「褒めているわけではないんだがね……まぁいい。他にはなにもないな?」


「とくには……あぁ、そうだ。美味い酒が飲みたいですね。花婿に選ばれるかもしれませんので」


「……用意しておこう。アーレントに出し抜かれない事を期待している」


「誠心誠意、努力いたします」




 準備は完了した。ウィンフリーが讃美歌卿の屋敷にいる事は把握済みである。もし失敗した時の事を考えて、互いにどうするか改めて話をする算段なのだろうが、好都合であった。


 これで懸念の一つは払拭できるかもしれない。あとは、プリンセスティアラ、プリンスデケム、そしてシュバルツをどうするか……頭を働かせながら、俺はウィンフリーが所有するサーバルームで制作した簡易型のウィルスが入ったデバイスを握りしめ、ゆっくりと元の場所へ戻っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

救え異世界 その身果てるまで 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説