第5話

 俺はこうして初めて地下アイドルのライブに行った。その日は土曜日だったが、俺は目立たないように地味なレンガ色のTシャツにジーンズの恰好で行った。はっきり言って、地下アイドルのライブにいるのを人に見られたら恥ずかしい。もっと有名どころを応援するならともかく、無名の子を応援して、育ててるつもりになっているおっさんだと思われたくなかった。


 俺は入場開始時間と同時に到着して、後から入って来る客を見ていた。すると、A君が前の方にいるじゃないか。それまではスーツ姿しか見たことがなかったけど、私服は洗いざらしの色褪せたポロシャツでダサかった。申し訳ないけど、その場にいた人はみな冴えない感じで、多分、俺と同じく独身だろうと思った。特に最前列に座っている古参風の人たちは、見た目からして明らかなオタクだった。


 客の年齢層はまちまちだが男が九割以上だった。女性もわずかにはいて、十代から二十代が中心だろうか。中にはアイドル並みにかわいい子もいた。どさくさに紛れてナンパしようかと思うくらいだった。そうでなかったら、こんなくだらないイベントに来る意味がない。俺はその子の方ばかり見ていたが、次第に人が増えて行って見えなくなってしまった。

 

 そして、ライブが始まった。みんな小柄でスタイルがいまいちだったが、ダンスを頑張っていて、妙に筋肉質だった。言っては悪いけど、どの子もあまりかわいくない。

 

 最前列の人たちはライブが始まってからもずっとステージに掛け声を掛けたりして、うるさかった。会場を盛り上げていると思っているらしい。歌の間も踊っているし、俺がアイドルだったら目を合わせたくないだろう。多分、普段女性が目を合わせてくれないから、アイドルにはまってしまうんじゃないかと思う。俺はお前たちとは違う。そう思いたかったが、実際は似たようなものだし、その会場で自分がかなり年配であることは間違いなかった。


 アイドルのライブに行ったのは初めてだったけど、じゃんけんしたり、ゲームコーナーがあったりと、アイドルが健気に頑張っていたのが印象的だった。また行くかと言ったら、二度と行かないだろう。そういうイベントを楽しいと思えないからだ。


 しかも、犯人はわからず仕舞だったが、人生最後に地下アイドルコンサートを経験できたことは感謝したい。


 せっかくだから、最後にA君に声を掛けることにした。そして、俺は最前列の席まで移動する時、一番目立っていたアイドルオタクの顔をちらっと見てやった。ちょっと小太りで、黒縁の眼鏡をかけていた。俺と同世代だろうか。ちょっと剥げている。

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