第6話
「あ、こいつ」
その瞬間、時が止まった。
その男に見覚えがあったからだ。
「ちょっと!」
俺はつい怒鳴ってしまった。すると、あっちはぎょっとした顔をして俺を見ていた。
「あ、どうも…」そいつはちょっと頭を下げた。
「お前さぁ!」
俺はじっとそいつの顔を見た。俺はその時、そいつが犯人だとはっきりと確信した。
そいつは、俺のオフィスに掃除夫として出入りしていた人だった。
数年前に俺のデスク周りをうろちょろしていて、邪魔だと思っていたら、急に話しかけて来たのだ。
「江田だよね」
「え?」
その馴れ馴れしい態度に俺はむっとした。周囲に部下がいるからどう返事していいか迷った。そんな知り合いはいないはずだった。
「俺のこと忘れた?中学で一緒だった斎藤」
「え?」
俺は誰だか思い出せなかった。
「同じクラスだったじゃん」
「すいません、ちょっと思い出せなくて…」
本当に誰かわからなかった。卒業アルバムはもう残っていないから、確かめようがなかった。
「あ、そう…〇〇の〇〇中学だろ?」確かに俺の出身地だった。
「ええ、まあ」
風采の上がらない男で、小柄で黒縁の眼鏡をかけていた。
俺はど田舎の出身で、地元から出て来た人はそうしたサービス業に従事していることが多い。
「俺のふりしてインスタやってんのお前だろ‼」
「え、す、すいません」
そいつはぺこりと頭を下げると、慌てて荷物をまとめて逃げるように去って行った。なぜかわからないけど、異常に荷物が多くて、リュックを背負ってさらに両脇に荷物を抱えていた。斉藤は怖いくらいに逃げ足が速かった。俺はあっけに取られて後姿を見送っていた。
そして、気が付いた時、A君はいなくなっていた。その場にいたらA君に誰が犯人だったか言ったかもしれないが、後で冷静になって必要もないと思った。
その後、斎藤がどうしたか知らないが、その後、会うことはなかった。新しい偽アカウントも俺が帰りの電車で見た時にはもうなくなっていた。
なりすまし 連喜 @toushikibu
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