序章 エンディング

 二〇二三年にせんにじゅうさんねん


 高校進学こうこうしんがくけた受験じゅけんシーズンが、ゆっくりと、でもたしかに近付ちかづいてきた。

 みんなとはクラスえでバラバラになっちゃったし、勉強べんきょう受験じゅけん準備じゅんびいそがしくて、毎週開催まいしゅうかいさいしていた集会しゅうかい回数かいすうっちゃった。

 みんなのこいバナをくの、たのしみにしてたのに。

 残念ざんねん


 三年生さんねんせいになっても、相変あいかわらず彼氏かれしはいない。

 一度いちどだけ告白こくはくされたことがあったんだけどね。

 でも全然ぜんぜんらないひとで、興味きょうみてなかった。

友達ともだちからおねがいしますっ!」

 ってあたまげられたの。

 でも友達ともだちになろうとおもえなくって。

「ごめんなさいっ」

 って即座そくざにおことわりしちゃったんだ。

 だって、らずのおとこ友達ともだちって、なんだか抵抗ていこうあるよね?

 お友達ともだちになるにしても、もうちょっとこう、なにおな趣味しゅみがあるとか、接点せってんがないと無理むりだもん。

 集会しゅうかいでそのはなしをしたら、

「あ~、あいつはダメだよ」

 ってりんちゃんがってたの。

 誰彼構だれかれかまわずこくっては、フラれてるやつなんだって。

「そうだよね。めげないよね、あいつ」

 って陽菜ひなちゃんもくちをそろえたから、間違まちがいないとおもう。

 おもづくりがしたいのか、たんなる女好おんなずきか、それともばつゲームでこくってるんじゃないかって、みんないたい放題ほうだい

「どんな気持きもちで告白こくはくしているのかなんて、からないからむずかしいよね」

 ってミサキンの結論けつろんには、わたしふくめた一同いちどう完全かんぜん同意どういするところだった。


 そんな日々ひびごしていた、ある休日きゅうじつ昼下ひるさがり。

 わたし運命うんめいおおきくうごはじめたの!


 ――コン、コン。

 かぜおと

 まどたたかすかなおとがした。

 部屋へや勉強机べんきょうづくえかって、参考書さんこうしょひらいていたわたし

 なに物音ものおとがしたけど、のせいかな?

 とおもってすぐ勉強べんきょうもどっちゃった。

効率こうりつちるからやめたほういよ」

 ってわれてるんだけどね、勉強中べんきょうちゅうはずっとラジオをけているんだ。

 いつも地元じもとFM局えふえむきょくのラジオをきながらつくえかっているの。

 お便たよりコーナーにも何度なんど手紙てがみしたんだ。

 でも、一度いちどまれたことはないかな。


 ――コン。コン。コン。カリカリ。

 ラジオのおとじゃない……よね?

 なにやわらかいものまどガラスにぶつかるようなおとから、次第しだいまどっかくようなおとわった。

 まどそとに……だれかいる?


 ――カリカリカリ。

 間違まちがいない。

 なんだろう?

 太陽光たいようこう遮断しゃだんする厚手あつでのカーテンを、おそおそるめくってみると……すりガラスのこうがわに、ひとつのくろかげがあったの!

 人間にんげんかげじゃない。

 もっとちいさな、それは両手りょうてかかえられる程度ていどおおきさのかげだった。

 その瞬間しゅんかん、ビビッとたんだ。

 かる、かるよ!

 そのかげだけで!

 そこにいるのは、わたし最愛さいあい家族かぞく


 大慌おおあわてでかぎはずし、ガラッとまどける。

 みみかおくろく、ひとみあおく、全身灰色ぜんしんはいいろのシャムねこ

 見紛みまごことなき姿すがた

「グレイス! グレイス……」

 何故なぜからない、大粒おおつぶなみだがあふれる。

 っすぐに両手りょうてばすと、そのあいだあたまをすりせてから、つめてないよう慎重しんちょうひざうえのぼってる。

 ぬれたほほをペロッとなめると、グレイスがやさしいこえうの。

ゆいかないでよなー」

「だってぇ……」

「もう、ゆいむしなのなー」

「だって、だって~」

「こういうときは、ただいまってえばいいのかなー」

「うん! そうだよ、グレイス。おかえり!」

ゆい。ただいまなー」

「でも、どうして?」

ゆいのぞんでくれたからなのなー」

わたしが?」

なないでって。猫又ねこまたになってかえっててねって。ねがってくれたでしょう? だから猫又ねこまたになれたのよなー」

 それからわたしせびらかすように、尻尾しっぽをゆっくり、何度なんどる。

「ほらて。尻尾しっぽさきふたつにかれてるでしょう? これが猫又ねこまたになったあかしなのよなー」

「うれしい! またえて、うれしいよ! グレイスっ」

「アテシもうれしいよ。またゆいいてもらえて。あたたかいなー」

「うん。あたたかいね。ねえ、これからは、ずっと一緒いっしょ? 一緒いっしょにいられるの?」

「ずっと……は無理むりだけど。ゆいが、そうね、素敵すてき彼氏かれしつくって、しあわせになるまでは。ちかくで見守みまもりたいなー」

「もう、どこかにっちゃいやだよ?」

「それは約束やくそくできないの。でも……」

「でもじゃないが」

「フフッ、でも、だなんてゆいみたいだったかなー」

ひどい!」

「いつもってるじゃない? でもぉ~だってぇ~ってなー」

「そんなことわないもん!」

「フフッ。でもね、ゆいしあわせになるまでは、ここにいるわ。それだけは約束やくそくなー」

「うん! って、あれ!?」

「どうしたのなー?」

「グレイス、日本語にほんごしゃべってる?」

「フフッ、気付きづくのおそいわよなー」

「どうして!?」

ねこくに修業しゅぎょうしたからなー」

「そう、なんだ」

「おかしいなー? ってるって、ちゃんとつたえたはずなんだけどなー?」

「あれ……ゆめ……じゃ、なかったんだ……そうだ! ね、お風呂ふろ一緒いっしょはいろっか?」

「また背中せなかながしてくれるのなー?」

「もちろん! すぐお風呂沸ふろわかすね!」

「なー」

「グレイスっ! あの、あのね……大好だいすきだよっ! 世界せかい一番好いちばんすき!」




 これは、猫又ねこまたになったグレイスのたすけをりて、一人ひとり少女しょうじょ本当ほんとうしあわせをつかむ物語ものがたりである。


(グレイス-あいのキューピッド- 序章じょしょうかん

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

グレイス-愛のキューピッド- 武藤勇城 @k-d-k-w-yoro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ