第5話「竹返し(たけがえし)」

【場所】学校・特別活動室(放課後)


 五日目の放課後。二人はいつもの教室に集合するが、主人公はある事を舞生に打ち明ける。


「今日で……生徒手帳を探すのを、やめる?」


(主人公からの話を受けて、複雑な心境の舞生。しかしわがままを言う訳にいかず、現実的な事を口にする)


「そう……ですよね、身分証明書でもあるものを何日も紛失したままに出来ないでしょうし。わたくしも模擬試験があるので、遊びもほどほどにしないといけませんから……」

「だッ、大丈夫です。こちらこそ、何日も変な事に付き合わせてしまってすみません。おかげさまで、良い気分転換になりました」


(少々無理している声。主人公に迷惑をかけたくない思いを全面に出していく)


「では……本日で最後になりますので——遊びは何に致しましょうか?」


《SE》ガサゴソ(昔遊びダンボールを漁る音。今まで遊んだ道具の音も含む)


「そうですね。ここは、あまり知られていないものを四番君に教えておく事にします」


《SE》カラン(スティック状の竹を束ねて見せる)


「これは『竹返たけがえし』です。割り箸のような竹べらを使うのですが、こちらは江戸時代から存在していた遊びで、独自のルールを作れる事が特徴なんですよ。名称も地域によって違っていたりと、一番自由度のある昔遊びだと祖父も言っていました」


《SE》トン、トン(竹の束を机で整える音)


「遊び方によく挙げられるのは、手の甲に乗せてから掴んだり、散らして表裏の数を競ったりするものでしょうか。単純な竹の板に対して手を使うだけなのですが奥が深くて、いくらでもルールを考えられそうですよね」

「四番君、私の目の前の席にどうぞ」


《SE》ギィ(主人公は席に座り、舞生と見合わせる形になる)


「うぅん……どのルールにしようか悩みますね。では——私が色々実践してみせるので、見ていて下さい。まず、『おこし』という遊び方です。竹べらを五本程片手で握り、空中に放り投げて手の甲で受け止めます」


《SE》カラランッ


「竹の緑色が表、内側の白が裏なのですが。今、一本だけ表で手の甲に乗っていますよね。まず、裏の竹だけをこうして——スッと抜いて……」


《SE》ジャララッ(机の上に竹が散る音)


「残った表の竹を……裏返る様に、落とします」


《SE》カラッ


「これが『おこし』です。単純ですが、やってみると結構夢中になるんですよ? 他にも『わけ』、『まえ』、『たて』、『きり』という遊び方があって……」


《SE》ジャララ……(机にある竹べらを集めて、静かにまとめる舞生)


「……。あの、四番君——。四番君だったら、この竹べらでどのように遊びますか?」


《SE》ジャラ(竹べらを主人公に渡す)


「すみません、急に押し付けてしまって。竹返しは、自分で遊び方を決められるものですから——四番君ならどうするのかなって、知っておきたくて……」


(主人公は竹べらを倒したり、机に散らしたり、まとめたりして遊び方を考案しようとする。それを舞生は静かに見つめる《竹が鳴るSE含む》)


「なるほど……それは面白そうですね! ——ふふ、四番君は遊びとなると、本当に素敵な笑顔を浮かべますね」


(竹返しで遊ぶ主人公を見て、舞生の心が動き始める)


「わたくし——球技大会で四番君を初めて見た時、祖父の面影を重ねたんです。他の生徒は勝敗を気にしたり、行事を面倒くさく感じたりしているのに……あなただけは——心からドッジボールを楽しんでいました」

「こんな遊び相手がいたらいいなって……わたくし、ずっと————」


(言葉に詰まる舞生。内に秘めた想いが出そうになる中、今度は舞生が遊び方を提案する)


「——では、今度はわたくしが遊びを考案しますね。……『わけ』と『まえ』の間を取った形にはなりますが、竹べらを十本使って——」


《SE》ジャラ、トントン(竹べらを集めて、まとめる舞生。その後、はぁ……と緊張を漏らす息を吐く)


「わたくしが上からまとめて落としますので、四番君は落下した竹べらを片手でキャッチして頂けますか。——それで……、殆ど取りこぼさなかったら————」


(ドキドキしてしまう舞生。上手く言葉にできず、声を震わせてそのまま強行する)


「いき……ますよ?」


《SE》カラ……ン(ゆっくり落下していく、竹べらの束)

《SE》カランッ(落下した竹がまとまる音)


「……うそ。全部、——受け取る、なんて……」


(放心状態の舞生。この時間を終わらせたくない想いが、彼女を動かして竹べらを握る主人公の片手を掴む)


「……ッ、四番君……。わたくし、やっぱりこの時間を手放したく、ありません……」

「あの日から、あなたの笑顔が忘れられなくて。この教室がわたくし達を巡り合わせてくれて——、遊びを通じて、確信致しました」


《SE》ギュッ……カラン(両手で包んだ主人公の手を握る舞生と更にまとまる竹)


「わたくし……四番君が、やっぱり好きなんです。あなたと遊ぶこの時間が、大好きなんです……!」

「だから——これからも、わたくしの……愉快な遊び相手で居て、くれま……せんか?」


(主人公の返事を、赤面して待つ舞生。そして、返ってくる言葉)


「——四番君、それ……本当、ですか? これからも、わたくしと……遊んで、下さるんですか?」


《SE》カラカラカラッ!(主人公の手から竹が滑って机に落ちる音)


「……。ふッ、ふふ。あはは! すみません、四番君が緊張を隠せていないのが可笑おかしくって……はい、そうですね。一旦、場を和ませましょうか」


《SE》カラ、カラ、カラ トントン(机の竹べらを集めて、まとめる舞生)


「四番君。次は——何して、遊びますか?」

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竹馬舞生の遊び相手!? 篤永ぎゃ丸 @TKNG_GMR

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