第4話「御手玉(おてだま)」
【場所】学校・特別活動室(放課後)
主人公と昔遊びをして四日目。関係も慣れてきて、見合わせるように椅子に座る舞生と主人公。
「昨日はおはじきでしたから、今日は
《SE》ジャラッジャラッ(軽く手で投げて受けとめる舞生)
「わたくし達に馴染み深い、今の形のおてだまになったのは江戸時代から。戦時中には、疎開した子供に持たせる親が多かったと言われています。中に小豆を入れていたのは、食糧難に備える為とか……。昔遊びの中でも特に歴史説が多いものですし、本当かどうか定かではありませんが、乾燥した小豆は水で戻すと食せるようですね」
《SE》ジャラ……ジャララ(手に取ったお手玉を、一度握る舞生
「お手玉といえば、この手触りの良さですよね。穀物や豆が一番心地良い音なのですが……熱湯に通して天日干ししないと、虫が————。ちなみにこちらのお手玉の中身は、
(主人公の答えを聞いて、クスリと笑う舞生)
「ふふ、四番君ならそう言うと思ってました。数珠玉はイネ科植物で、これはその実を縫いくるんでいるんですよ。では、遊び方に入りましょう」
《SE》ジャラッ、ジャラッ、ジャラ(お手玉二つを用いて、投げ上げたり受け止める)
「これが『投げ玉』というもので、ジャグリングのようにお手玉を投げて受けます。今、私は二個でやっていますが慣れたら三つに挑戦してみてもいいと思います」
(説明を終えた舞生は、主人公にお手玉を渡す《お手玉が鳴るSE含む》)
「では、四番君。まずは二つからやってみて下さい」
(舞生から受け取った主人公は、安易にやってみせる)
「ふふ……流石に二個でしたら、簡単すぎますか。この様に手を用いた動きを元に、様々な技があるんですよ〜。例えば、お手玉一個を使って童歌を絡めたり——」
《SE》ジャラッ、ジャラ、ジャラ、ジャラ!(あんたがたどこさを唄いながらリズミカルにお手玉。『さ』の部分で、大きめに中身が擦れる音。
「——あんたがたどこさ。
「せんば山には たぬきがおってさ それをりょうしが
《SE》ジャラッ
「……こんな感じですね。一人で行うイメージのあるお手玉ですが、複数人で遊ぶ事もできますよ。地域によって様々な唄や遊び方がありますが——今回は引き続き『あんたがたどこさ』でいきましょう」
「その前に、少し受け渡しに慣れましょうか。いきますよ〜……はいッ」
《SE》ジャラ……ジャラ……(お手玉を投げ合う二人、投げて受ける度に音がする)
「本当に、心地良い音がしますよね。このお手玉」
《SE》ジャラッ
「実はこのお手玉……わたくしの祖父から頂いたもので。この教室にある昔遊びの道具は、殆どが祖父の手作りなんです」
《SE》ジャラッ(話しながら、交互にSEが鳴っていく)
「小さい頃は——習い事ばかりさせられていたので、友達と……両親と、遊ぶ時間が全くありませんでした。そんな事もあって同級生からは一人が好きだと認識され、孤立していて……」
「そんな私に、遊びを教えてくれたのが祖父でした。一人だった私は遊びを通じて少しずつ、同年代と馴染めるようになったんです」
「昔遊びは時代の人気と需要に流されない、ありのままの形で人の肌に馴染むもの。そこには言葉の壁も、年齢も、性別も関係ありません。祖父はこう言って下さいました、『遊びは笑って泣いて、怒って喜ぶ。それは全て、みんなと自身の心からの顔なんだ』と」
《SE》じゃり……(投げるのをやめた舞生の手が、お手玉を握る音)
「祖父が遊びを教えてくれなかったら——わたくしは空っぽなままだったと思います。そんな心の支えを亡くした今、また孤立してしまっていますが……四番君は、いつも心から笑ってくれて。嬉しいんです、わたくし」
「だから…………。——すみません、また変な話をしてしまって。では、『あんたがたどこさ』で投げ玉し合いましょうか。今回はリズミカルに、一緒に
(舞生が『あんたがたどこさ』を唄う。テンポに合わせて、お手玉の音が場を心地よくしていく)
「——にてさ 焼いてさ 食ってさ それを木の葉で チョッとかーぶせッ……はい。流石に一個ですから、落とさず出来ましたね。 ん? 他に遊び方はあるか、ですか。あるには……ありますけど、その……お互い、近づいて——」
(主人公から尋ねられるが、モジモジする舞生。手が触れ合ったり、距離感が近いものが多い為なかなか提案出来ない。話を逸らそうとしてしまう)
「えぇと……そッ、そういえば『あんたがたどこさ』は熊本の事を唄っているのですが、歌詞が地方の田舎言葉じゃないのが特徴なんですよね! それに関して面白い裏話があるので、わたくしが解説致しますね!」
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