第3話「御弾き(おはじき)」

【場所】学校・特別活動室(放課後)


 主人公と遊び始めて三日目。放課後の狭い教室で机一つを共有し、見合わせて座る舞生と主人公。


舞生まう

「今日は、これで遊びましょうか」


《SE》ジャラ……パラパラパラ(巾着袋orジャーの中から、いつくものおはじきを出す舞生)


「そう。ドロップ……ではなく、おはじきです。江戸時代から、女の子の遊びとして親しまれているものですね」


《SE》パチッ パチッ(おはじきの歴史を話しながら、散ったおはじきを一個一個机に並べる舞生)


「おはじきの起源は、中国から渡来したと言われる奈良時代まで遡ります。昔は石や木の実、貝殻が用いられていましたが、このようなガラス製になったのは明治時代後期からなんですよ。こちらは、遊び方が複数あるのが特徴で——たとえば」


《SE》スーッ……ピンッ、パチッ……スーッ……(指で机を撫で、おはじきを弾いて当てた後、再び指で撫でる)


「当てるおはじきを決めて、弾いて当てた上で指を通す事が出来れば自分のものになる、ポピュラーなルールですね。狙いのおはじきが弾けなかったり、他のおはじきに当たったら失敗です。それと——」


《SE》パチ、パチ、パチ、パチ(おはじきを積み上げる音)


「一個一個順番に積み上げていく、おはじき積みというものもあります。あとは——……あっ、すみません。わたくしばかり、言いたい放題してしまって……!」


《SE》バラバラバラッ(おはじきが崩れ、机の外にまで落ちる)


「ああッ、ごめんなさい! 狭いのに、積み上げ過ぎてしまいました……、わたくしも拾います!」


(主人公と舞生で床に散らかったおはじきを集める)


「ふぅ……。とりあえず、集まりましたかね?」


《SE》ジャラッ(おはじきを一箇所に集める音)


「わたくし、昔遊びの中でおはじきが一番好きなんです。手先の器用さが鍛えられますし、色取り取りで綺麗ですし、ルールもたくさんありますし……一人でも、遊べますから」

「……。……あッ、なんでもないんです。ごめんなさい、遊び相手をお願いしておきながら、退屈なお話を持ち出すのは良くないですよね! では、早速おはじき弾きをやりましょうか!」


《SE》パラパラパラッ(いくつかのおはじきを机にばらまく舞生)


「わたくしは後攻で良いので、四番君からお先にどうぞ。この中から、弾くおはじきと当てるおはじきを決めて、その間を指を通して合図するのが基本的な流れです」


《SE》スーッ、……パチッ、パチ! (机を指で撫でた主人公がおはじきを弾くが、他のおはじきに当たってしまう)


「あー……弾いたものが、他のおはじきに当たってしまいましたね。ふふ、結構簡単そうに見えて力加減が難しいでしょう? では——次は、わたくしの番ですね」


《SE》スー……ッ、パチ……ッ


「はい! 成功しましたので、こちらは私のものですね。こうして順番に弾き合って、多くのおはじきを獲得した方が勝ちですよ、さあ次は四番君です、頑張って下さいね!」


《SE》スーッ、……パチッ!


(上手くいって、拍手する舞生 《手を叩くSE含む》)


「今回はうまく行きましたね! 今度は私ですね……ッ 自信がある遊びなんで、負けませんよ!」


(交互に机を指を擦って、おはじきを弾き合うSEが3ターン続く。その後、主人公が舞生に尋ねようとする)


「……うぅん。追い上げられてきましたね。……ん? ——ええ、わたくしは楽しめていますよ。四番君はこのような遊びすら本気で取り組んでくれますし、とても気が楽です。なので、そんな風に謙遜けんそんなさらないで下さい」


(舞生は話しながら、主人公とおはじきを継続していく《机の擦れと弾くSEは継続》)


「わたくしは、高校を主席で卒業するよう両親から期待されていまして——放課後も勉強の時間に充てないといけないんです。なので、こんな風に誰かと遊んだり……出来なくて」

「学校の物置きみたいな教室を勉強に使わせて頂いているのも……家に居たくないから、なんですよ」


《SE》パチッ(弾いたおはじきがぶつかる音)


「毎日のように、両親は友人を招いてパーティーをしていて、部屋まで騒ぎ声が筒抜けでとても落ち着けないんです。差し入れの食事も、冷めたピザや……あまり物のお寿司、ペットボトル飲料ばかり。家族で食卓を囲んだのは、いつだったか……もう思い出せません」


(おはじきで遊ぶ手が止まる舞生)


「……ごめんなさい。こんな事、打ち明けても仕方ないのに。でも、四番君とこうして遊んでいると——本当に、心が安らぐんです。わたくしの為に少し時間を割いて下さって、とても感謝しているんですよ?」

「ふふ、無駄話をしていたら勝敗が決まりましたね。わたくしの、圧倒的勝利です!」


《SE》ジャラッ、ジャラララ(舞生がお互いのおはじきをかき集める音)


「——もう一回ですか? ええ、構いませんよ。四番君って結構、負けず嫌いなんですね〜。では、おはじきとおはじきの間を通す『中抜き』と、おはじきの山を崩さないように取り出していく『おはじき崩し』——次はどちらで遊びますか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る