Day 1

あの日は晴れだった。

日は昇り、沙耶は自然な日差しに目覚めた。晴れた日ならば運が良いかもしれない、彼女はそう思った。

いつものような土曜日。コーヒーは飲めないけれど、カフェで勉強することが好きだ。コーヒーを飲まない理由はそれほど深くはない。単純に、苦味が苦手なだけだ。


カフェで本を読んでいたら、隣の人が偶然にも同じ本を手にしていた。気づいたら、彼は気軽に話しかけてきた。

「え、同じ本ですね? 玩具修理者!」

それは新書でも有名な本でもなく、今劇場で公開中の恋愛映画の原作小説でもなく、まさかの偶然に感じた。沙耶は運命を感じた。

「そうですね、本当に偶然ですね。」

その出来事が、二人にとって新たな出会いのきっかけとなり、やがて恋に落ちていく。沙耶にとって、まさかの完璧な恋愛だった。

しかしながら、その全ては沙耶の妄想に過ぎなかった。彼女はいつもこのような妄想にふけり、現実になるかもしれないと信じ続けていたのだ。

「ロマンチックすぎるでしょう?」「現実的じゃないわ」と、友人にはよくそう言われた。

「わかってるよ、わかってる。」

もう29歳になった彼女でも、何が現実で何が妄想なのか、自分でもよくわかっていた。でも、夢を見るのは自由だろう。


あの日、彼女は小説ではなく金融専門の本を読んでいた。仕事との関係はあるものの、読まなくてもよい本であった。

彼女には多少の興味があったため、つまらないとも言えないが、読んでいた。

しかしその本にはロマンチックな要素は一切含まれておらず、同じ本を読んでいる人と出会ったとしても、多分に恋に落ちることはなかったであろう。


その日の夜、彼女にはデートの予定があった。相手はマッチングアプリで知り合った人で、全くロマンチックとは言えなかったが、それでも普通に会う約束をしていた。

しかも、このデートも4回ぐらい延期された。

男性に惹かれるより、4回目の誘いが行われた時、沙耶は「こういう誘い方はダメだよ」とはっきりと言いたかった。


最初の一言、「すごいタイプですね」と言われたとき、沙耶は違いなくどきどきした。しかしそれも、ドキドキするだけで、恋に落ちるほどではなかった。

最初のデートの誘いは、「二週間後の平日の夜はどうですか?」と沙耶が誘われたが、ちょっと怪しいと思った。相手は自由業の翻訳者兼小説家なので、時間に余裕があるのかもしれないが、週末の方が都合がいいはずだった。しかも、デートの前日まで場所やレストランを全く決めていなかったので、不安になった。

当日は仕事が忙しく、残業しなければならなくなったため、デートは延期された。次の週末に再調整された。


次の週末は、生理で辛くて、会いたい相手なら我慢してでも会いに行くこともあるが、初めて会う人にはちょっと抵抗があった。そのため、また延期することになった。

「じゃあ、また来週に誘おう」と彼が言った。

正直言って、この時点で沙耶はあまり期待していなかった。普通であれば、「また次回に」と言われるだけで、実際に全然会えないことが多いからだ。ただ言い訳をしているだけだろう。

でもそれでも良い。どうせ退屈していたし、アプリに飽きていた沙耶は、自分にはこのようなロマンティックでない出会い方は向いていないと感じた。


その後、すっかり忘れてしまった頃に、「ごめんね、今週は忙しくて、来週にしよう!」というメッセージが来た。特に聞いていなかったのに、逆に可愛らしいと感じた。

次の週の金曜日の夜、もう十分遅い時間だったが、「明日会いましょうか?」とのメッセージが届いた。もう3、4回も誘われたので、時間もあったし、会ってみることにした。

「うん、いいよ。会いましょう!」と、彼女は返信した。

そして、初めてのメッセージから一か月が経ち、ついに初デートの日がやってきた。

会う場所やレストランの選択は、結局沙耶の手に委ねられた。


沙耶は本に夢中で、遅れてしまった。

彼の姿は遠くからでも見分けられた。コンビニの前に立っているのは多分彼だろう。背が高く、全身にはカジュアルな黒い服を着ている。顔と写真がほぼ同じなので、沙耶はすぐに彼だと気付いた。

「ごめんね、遅くなりました。今ついたところなんです。」とメッセージを送った。

彼はスマホをポケットから取り出し、レストランの前に向かって歩いてきた。

「初めまして、沙耶です。遅れてすみません。」罪悪感を感じた沙耶は、挨拶をした。

「全然大丈夫です!初めまして、龍平と言います。」

そして、沙耶は笑顔で「ついに会えましたね!行きましょう。」と言い、店に入った。


沙耶はしっかりと店を選んだ。

場所は家から近く、電車に乗りたくなかったからだ。

味はもちろん美味しく、つまらない人と会っても、料理は裏切らない。

値段もちゃんと考えた。自由業の彼の収入は把握しにくいから、高すぎると初対面としてプレッシャーになる。

だから、この店が完璧だと思った。さらに、ある席からは東京タワーが見えるというボーナスポイントもあった。

一応、相手から誘われたにもかかわらず、沙耶自身が予約を取った。自分のために。


席に着いたら、晴れの日のラッキーか何か、たまたま、東京タワーの景色が見える席に座れた。

「東京タワーでも見えるんですね!予約を取ってくれて、ありがとうございます。」龍平が素直で言った。

「うん、綺麗ですね!」と、沙耶も同感だった。

会話の内容は、いつもの初デートと似たようなパターンだった:仕事、趣味、週末の過ごし方、大学の部活など。


でももちろん、一番楽しいのは小説の話。

「館シリーズすごいですね!」と、沙耶が言った。

綾辻行人は叙述トリックがうまいですね。」と、龍平も同意した。

「叙述トリックと言えば、『イニシエーション・ラブ』という小説を知っていますか?あれは本当に素晴らしいです!最後から2行目が、本当に素晴らしい!」

「わかります!途中でいろいろ考えましたが、ちょっとした糸口に気づき、最後はすごいです!」

「龍平さんはどんな小説を書くんですか?」と沙耶は聞いた。

「基本的には、何でも書きます。書きたいストーリーを書くだけで、特定のジャンルにこだわりはありません。」 

「私も読みたいです。龍平さんの小説を。」と沙耶は言った。

「はい、完成したら見せます!」と龍平は答えた。

沙耶は小説が好きだけど、自分には才能がないため、小説家に興味があった。 

会話は盛り上がり、沙耶は最初に「デートの誘い方」の話を完全に忘れてしまった。「この人と話をするのはとても楽しい。」沙耶はこれだけを思った。


気づいたら、龍平はもう払っていた。

「あ、ごちそさまでした!じゃあ、二軒屋のバーとか行こうか?」沙耶が言った。

「うん、喜んで。」

二人は公園の隣りの道を歩きながら、心地よい距離感を感じていた。

小説や映画、具体的な話はもう覚えていなかったけど、沙耶が笑って、龍平も笑った。

もしかしたら、この人となら、何でも話せるのかもしれないと沙耶は思った。

二人はずっと話し続け、止まらないような感覚に包まれた。終電が過ぎても、まだ話したいと思っていた。


二人は沙耶の家に帰った。

一人暮らしの1DKの部屋は広くはなく、二人はソファの隣に座って「500日のサマー」という洋画を見た。

映画は恋に落ちたトムとサマーの500日間の出来事を描いた、現実的なラブストーリーである。結局サマーが他の男性と結婚した。


「サマーはどう思う?男性の意見を聞きたいわ。初めて男性と一緒にこの映画を見たから。」と沙耶が聞いた。

「うん。彼女のせいでもないし、好きか好きじゃないかは普通に自分でコントロールできるものじゃないよね。現実的な映画だよね。沙耶は?」と彼は答えた。

沙耶はこの映画が結構好きだけど、残酷な部分もあると思う。

「彼女は魅力的で、悪かったわけではなかった。でも、もう少し素直だったらよかったかもしれない。私は多分、男性の主人公の方が似ているわ。現実だから、結構しんどいわ!」と彼女は答えた。


「元彼と似たようなエピソードがあるの?」と龍平は聞いた。

「別に。もっと普通よ。龍平さんは?」と沙耶は聞き返した。

「いや、ないよ。今までは、全部こっちから別れを切り出した。でも3人だけで、そんなに多くはないんだ。」と彼は答えた。

「なんで別れを切り出したの?」と彼女は聞いた。

「試験に集中するか、仕事に集中するか、元々そこまで好きではなかったかもしれないんだ。」と彼は答えた。

これは完全にアウトのサインだと沙耶は考えた。もし付き合ったら絶対にやばいと。

「沙耶は?」と彼は聞いた。

「私も、元彼が3人いて、一回は二人とも別れたいと思ったことがあって、一回は私が別れを切り出したんだけど、最近は振られたわ。」と彼女は答えた。

「なんで振られたの?」と彼は聞いた。

「今度話しよう。ちょっとしんどいからね。」沙耶は過去の恋愛から学んだことで、全てを話すよりもミステリアスな雰囲気を維持した方がいいと決めた。


二人とも疲れを感じさせず、もう一本の映画を見たり、話をしたりしていると、気づいたら朝6時で、最初の電車の時間になっていた。

「じゃあ、僕はそろそろ帰る!」龍平が時刻を確認して話した。

沙耶はもう少し一緒に過ごしたかったが、それはオーバーだと感じた。程よい別れ時がいい。

沙耶は初めて会った人と家に過ごすのは初めてだった。

龍平も同じだった。

いわゆる「持ち帰り」ってことかもしれないけど、体のことは何もなかった。しかし、十分満足だった。


これが、もしかしてご縁、運命、晴れた日のラッキーな出会いだったのかもしれない。

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晴れた日の恋 @kimyuu2023

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