第4話 愛され過ぎて困ってます!

「まだ信じられない? じゃあこれも言おうか。みどりの好きな人は、」

「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ダメっ!! それはダメ! 分かった、信じるから!!


「まだ何も言ってないじゃない」

「本当に知ってそうな気がしたんだもの」

「うん、知ってるよ」


 しれっと言うフロラくん。その目が何だかメラメラ燃えているような……気のせい? いやいや、花なのに「燃えてる」って。

 うん……でも、それにしても、これは本当に信じるしかなくなってきたな。しかも私のす、好きな人を知ってるってことは、フロラくんは花の中でも「私の部屋で育てていた花」である可能性が高い。学校では、独り言でもそんなこと話さないもの。

 待って待って。じゃあ彼は私のあれもこれも知って……!? うわーーーっ! 今さら恥ずかしくなってきたよ!!


「大丈夫。ぼくはどんなみどりも好きだからね」

「~~っていうかそう! その『好き』って!」


 そんな軽々しく言わないでよ! いちいち照れるし、その……仮にもかっこいい男の子から何度も言われると、おかしくなっちゃいそう。

 でも顔を赤くする私に、フロラくんはまたにこっと笑って。


「いいよ。おかしくなってよ」

「へ」

「ぼくに好きって言われて照れてるみどり、可愛いよ」

「いや、ちょっと……っ」


 フロラくんが私の手を握る。顔が近づいてくる。待って、そんないきなり!

 がんがん攻めてくる彼に、私はたじたじ。逃げるのも忘れて、思わず目をつむってしまう。


「好きだから好きって言うんだよ。だってみどりは、ぼくの最愛のひとなんだもの」


 耳元で、ささやかれて。

 ……いや、ここ! 学校だからっ!

 柔らかい声は「ふふ、ごめんごめん」なんて笑ってる。全然反省してないでしょ!!

 好きだから、好き……って、本当に?

 改めて考えると、また顔が熱くなった。少女漫画のヒロインじゃあるまいし、こんなの絶対ありえないよ。フロラくんがずっとこんなんじゃ、学校で目立っちゃう。


「わ、分かった。私が好きなのは分かったよ」


 自分で言ってて恥ずかしいんですけど……とりあえずね!


「でも学校では私に近づかないで! 好きって言うのも禁止!」

「えぇー」

「えぇーじゃない! 私、学校では静かに過ごしたいんだよ。さっきみたいな騒ぎがまた起こったら、何個心臓があっても足りないもん」

「そしたら、またぼくが守るよ」


 うっ。そんなきりっとした顔で言われると、くらっとくる。いやいや、しっかりして私。

 かくなる上は!


「大人しくしてないと……その……き、嫌いになっちゃうからっ!」


 ぎゅっと目をつむった。嘘でも「嫌い」なんて心が痛む。でもこのくらい言わないと、フロラくんはきっと手を引いてくれない。

 それから、しばらく静かな時間があった。まるで音がみんなどこかへ飛んで行ってしまったみたい。な、何。フロラくん?

 ゆっくり片目を開ける……すると、こちらを見つめているフロラくんと目が合った。その緑色の瞳は、何か愛おしいものを眺めているようで。って、全然効いてないな!?


「可愛いね」

「可愛いとかじゃなくて!」

「だってみどり、明らかに『嫌い』って言い慣れてないし……絶対嫌いになる調子じゃなかったし」

「それはそうでしょう!」

「優しいなぁ。そういうところも好」

「フロラくんっ」


 も~~~~一体どうしたらいいのよ!!

 そんな私にフロラくんは一通りくすくすと笑ってから、肩をすくめた。


「でも、そうだね。みどりが困るんだったら、ちょっと我慢する」


 ぜひそうしてください。ちょっとじゃなくて100パーセント!


「……たぶん」


 たぶんじゃなくて!!

 私はため息をついた。何だか、不思議な男の子に好かれちゃったなぁ。

 しかもこんな格好いい子が肉食系なんて。……元々植物だったのなら、草食系でも良かったじゃない! これからの学校生活、いったいどうなっちゃうんだろう。




 それからもフロラくんからの愛情は止まらなくって、やっぱり私が困ったり怒ったりする羽目になるのは、また別の話。とほほ……。

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植物男子は肉食系!? 冬原水稀 @miz-kak

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