第11話 変遷

「おい!聞いたかよ!」


「ノブさん、いきなり興奮してどうしたんすか?」


「これが興奮せずにいられるかよ!?」


ノブさんと呼ばれた男はスマートフォンの画面を見せつけるようにして同僚の男に差し出す。


「おん?これって…」


「だよな?俺達開発チームが何をどれだけしても開通しなかった裏ルートが発見されてるんだ、しかもチームが解散した直後にだ。」


「チームの誰かへの私怨での妨害だった?」


「可能性は有るかもな、もしくは原作者への嫌がらせやルートを公開させたくない何らかの理由があったか。」


「でも公開させたくない理由があるんなら今見つかってんのは不都合なんじゃないっすかね?」


「だろうな、謎の第三者がチームが解散して黒幕が安心したであろうタイミングの今に合わせて解放したなんていう可能性も浮かんだが、それにはメリットらしいメリットがないんだよなぁ。」


「そもそも黒幕なんてもの自体がいるかどうかも分からないから解散したんですしねぇ。」


「どんなベテランの凄腕を呼んでも暖簾に腕押しだったからなぁ。」


「そうなんすよねぇ、まぁそんな人呼んだりしてたから予算が足りなくなって解散ってなったんですけどね、原作者さんには本当に申し訳ないと思ってたから、今はいいぞもっとやれって感じですよ。」


「原因が不明なのが本当に謎なんだよな、それこそ魔法のように痕跡も何も残っていない。」


「電子の魔法か、随分と現代的な魔法っすね?電子世界での情報戦とかやっちゃいそうなやつですね。」


「でも、本当に何だったんだろうなあれは?」


「うちの上層部に原作者さんのファンがいなければあそこまで粘らなかったんでしょうけどね、絶対に製品版でストーリーを読むからネタバレは禁止でって言ってたのは笑っちゃったけど、ファンのかがみですよね。」


「だな、違法サイトにアップロードされた画像を見て、プレイしたつもりになってファンですって言いつつ叩く奴もいるって噂だしな。」


「なんていうかすえって感じですね、そういえば最近そういう一昔前だと頭がおかしいって言われるような人増えてません?」


「あー、確かに端から見ると論理が破綻してるのにそれが正しいと思い込んで話を聞かない人は増えてる印象だな。」


「ガッツリ陰謀論っぽくなっちゃうんですけど、最近そういう人に賛同する人まで増えてきてるから、集団催眠とか思考誘導とかがわりと現実味をおびてきてる気がするんですよねぇ。」


「思考誘導ってあれか?自分で選んだことだと思い込ませてあとにひけなくする的な。」


「まぁ間違っちゃいないですよ、例えばそれが何かの実験だったら、大規模に国ごと反○○国とかの方向に思考誘導出来れば戦争も起こせるんじゃないかーとか。」


「最近の若いのはおっそろしいこと考えんなぁ。」


考察厨こうさつちゅうの友人のごとですよ、あんまり本気にしないでくださいね。」


「あ、あぁ。」


「んじゃ、繁忙期も過ぎて最低2週間は仕事もほとんどないし、既に書類も一週間前に提出して上司にも報告済みなので、自分は明日から一週間有給を取ります。」


 ぽかんとするノブを置いて眼鏡の体育会系後輩口調の男、越田栄作はそれだけ言って帰って行った。

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mythology teller(神話を騙る者) はしらい @hashirai

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