第5話 この恋は片思いだからこそハッピー
私は節奈の話に同調した。
「そういえば、こんな話を聞いたことがあるわ。
ある子供たちが五、六人集まってマッチ遊びをしていた。炎が蒼く燃え上がり、徐々に赤くなっていく様子が、まるで色の変わる噴水みたいだった。
ウワーすごい。と歓声があがった。
そのとき、中年男性がすごい剣幕で「辞めろ」と怒鳴りつけ、マッチをとりあげ、フーッと吹いて火を消して立ち去っていった。
子供たちはあっけにとられたが、口々に文句を言い始めた。
「なんだ、僕たちは楽しい遊びをしていた最中。なのにわけのわからない大人が出しゃばってきて「やめろ」だと。大人はそんなに偉いのか?
だいたい、犯罪を犯すのはみな、大人じゃないか。
自分を棚にあげ、僕たちの楽しい遊びの邪魔をするな」
しかし、その子供たちも大人になれば、マッチ遊びというものがいかに危険なものであるか、否が応でもわかるときが訪れる筈。
子供のときは、それでいいと思っていても、大人にならなければわからないことというのは、いくらでもあるわね。
まあ、私もそうだったかもしれないけどね」
節奈は納得したように、うなづいた。
「だから、未成年者には教育が必要なのね。といっても現代は格差社会。その格差も教育格差も含め、徐々に広がる一方だけどね」
「でも現代は、スマホによっていろんな情報が得られるわ。
昔はおばあちゃんの知恵といって、人生経験を積んだ年寄りしか知らなかったことが、スマホによって一瞬のうちに情報が得られるものね」
今まで透明人間の如く、黙って聞いていた清田店長が口を開いた。
「なんだか、報道番組を見ているようで楽しかったよ。
でも、これからの日本はどうなるのかな。
六十五歳以上の人が三分の一を占め、三十年前から外国人が普通に歩いているような世の中になったなあ」
西谷は答えた。
「今の日本の労働力は外国人に頼らなければならない。ベトナム人、カンボジア人、黒人、インド人はプログラマーで発展しているというな」
私は思わず口を開いた。
「外国人でも日本語もうまいし、日本人であることに胡坐をかいていたら、どうなるかわからないわね。コロナ渦も収まった今、また飲食店も回復しつつあるけど、ベトナム料理やインド料理店が増えつつあるわね」
将来のことは誰にもわからない。
いや、明日のことさえもわからない。
人生はいつもへベル(束の間)のときだという。
だからこそ、与えられたこのへベルのときを生きるしかない。
しかしこのへベルのときにより、今までのすべてが逆転するときもある。
今まで不可能だと思ってたことが、世の中の変化と共にどんでん返しのように可能になることがある。
ジャニーズ事務所の性被害でもまさにそうだろう。
今まで、日本ではゲイというと変態とか、男が好き、きもいよと言われひた隠しにしていたものだが、LGBTにより公表されるようになった。
しかし残念ながらホモレイプというのは、後を絶たない。
大人からレイプを受けた被害者が、今度は加害者側に回り、レイプのスパイラルが存在する。
だからアメリカでは、ゲイに対するひどい差別があるという。
二十年前、ある女性牧師曰く「私はゲイは反対です。しかし彼らの人権は守られるべきものだと思います」ということは、相当な差別を受けているのだろう。
人はアイゴ―(愛の言葉)によって生かされている。
アイゴ―を語れない人は、せめて乱暴な言葉を吐くなという。
飲食店は、メニューひとつによって厨房が動く
きつねうどんといえば、うどんを茹で、親子丼といえばご飯の用意をする
昨今、世間を賑わわせているJ事務所の性被害にあった男性は、聖書を読んだりカウンセラーを受けることによって、恐怖と悔しさから逃れられたという。
僕がいくらこのことを告白しても、巨大な城壁に小石を投げるようなもの
いや、むしろ僕の方が無名タレントのたわごとだと、誤解されるかもしれない。
しかしジャニーが亡くなり、世間ではKGBTが問題視されてから、ようやく告白するチャンスが訪れた。
「隠れていたものはあらわにするためにあり、
覆いをかけられたものは、取り外されるためにあるのである」(聖書)
華やかなネオンに彩られたようなマスメディアの世界の裏側には、少年を愛しすぎた老年社長の悲劇が隠されていた、いやもしかするとそれが、基盤になっていたのかもしれない。
ひょっとして、ジャニー氏も性被害を受けていたかもしれない。
アメリカではもう数十年も昔から、ホモレイプが社会問題になってきているという。
少年の頃、ホモレイプをされた被害者が、今度は加害者側に回り、未成年者をレイプする。それがスパイラルのように拡大していく。
だから、ゲイの人はひどい差別を受けるという。
ある女性牧師曰く「私はゲイは反対です。しかし彼らの人権は守られるべきだと思います」
ジャニー氏もその被害者だったのではないだろうか。
残念ながら日本でもそれが広まってきている。
私の憧れの店長と西谷、女子大生の池上節奈は、パチパチパチと拍手をした。
「松井まこ劇場、これでいったん幕を閉じます。
まこさんの話、これから生きていく上で役にたちそう」
私は思わず微笑んだ。
「こんなチャンスは一生に一度、あるかないかだわ。
また、松井まこ劇場の続編をこの喫茶店でご披露できたらなあ。
そのときは、よろしく。あっ、スマホで録画しても全然OKですよ。
私は恋よりも愛をしたいんです。
だって、恋は乞うといって相手に求めるものであり、求め尽くしたあと、ゆっくりと灰のように朽ちていく。
いつしか、相手の対する未練が恨みとなり、ストーカー行為へと変身することさえある。
でも、愛は哀といって、相手を思いやるもの。」
私はなんだか人助けをしたような、充実したちょっぴりの満足感を感じながら、自分のなかで、なにかが生まれ芽生えていく予感を感じていた。
END(完結)
この恋の行方神のみぞ知るー還暦間近の女性の三十四歳男性への恋 すどう零 @kisamatuma
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