第10話 この日……
新しい星を創る時、宇宙創成の神は考えた。
どうすれば星を存続させることができるのか。
今まで創った星は、軒並み他の星同士で戦争を始めてしまった。
星の管理人――星の神や天使、悪魔同士が自身の星を存続させるため、資源を奪い合うようになった。
彼らの戦いの結果、ある星は潰れ、壊され、種は滅亡し、他の星で奴隷となる種も出てきた。
星同士が手を取り合い、互いに成長を重ね種の進化を促す。
それこそが星を創った目的なのに、皆全員が潰し合う。
悩んだ末に宇宙創成の神は思いついた。
『そうだ。皆に干渉できなくすればいい』
潰し合うくらいなら手に取り合うことは諦めよう。
最終目的は星の存続と種の進化。
他の星とは交流しない星を創ろう。
そうしてできたのが『地球』だ。
星同士が交流できる宇宙のネットワークに繋がっていないから地球は発見されず。
侵略や戦争をしても意味がないほど乏しいと判断される。
星に神がいると知った種は軒並み全員、他の星と戦争・略奪をしようとする。
だから地球の神の存在は秘密。
交流はできるが自分から地球の神と名乗ることはできない。
そして地球の神は地球から動けない。
自らが星を離れ交流することを禁止された。
星の存続を意識したスタンドアローンな実験施設。
それこそが地球だった。
故に地球の神の権能は制約が強い。
セキュリティが甘いのは当然。
外部からの攻撃なんてそもそも意識していないからな。
本来なら資源を軒並み奪われるようなこともないくらい孤独な星が地球なのだ。
ルシがわざわざ地球に来たのも、ネットワークが繋げられなかったからだ。
普通なら――ネットワークで見えない時点で、弱く乏しい星だと断定するのだが。
弱い星なのに資源が豊富。種も多種多様。
そう考えたルシの洞察力・観察力にはあっぱれものだ。
今回はルシの遊びの誘惑に負けネットワークを繋いでしまったのがそもそもの敗因。
俺は初めから失敗していたんだ。
ルシ達――星の管理人の技術力も甘く見ていた。
数万年も見ない間にルシ達の技術はスタンドアローンな星に侵入できるほど強くなっていたのだ。
★★★
「だからこうするしかなかった……んだ」
ガタガタと震えるルシに俺は弱々しく言う。
もう消えるのも時間の問題。
「地球の権能を持てば、自動的にお前は縛られる。
そしてお前が所有しているモノは全て地球のモノ。
つまりお前が奪ったモノは自動的に地球に返還される」
「そんな……い、要らない! 辞めて……! 返すから!」
「……無理だよ。そうだよなぁ、悪魔……?
「……!! な、ならもう一回……もう一回賭けを……!」
「それも無理だ」
俺はもう消えそうだからな。
ルシは穏やかな俺の顔を見て、焦ったように表情をころころと変える。
「じゃあ……そう! ネットワーク!
セキュリティホールを開けて地球丸ごと資源を……」
「それももう
俺が少し指を上げる。
するとその意志に従ったかのようにルシの足元から鎖が出てくる。
「……!!」
ルシの両手に鎖が縛り付けられ、足も地面に固定される。
そして動けなくなった隙に背後から出てきた十字架にルシの首や腰を縛り付けた。
「ここに来る前にこの部屋に細工させてもらった」
「な、なんですって!?」
ルシが考えていることなんてすぐにわかったからな。
ルシがもう何もできないように縛り、地球の資源が戻ってきた時点で自動的に穴を閉じるように設定を弄っておいた。
ルシの側近悪魔たちも追い出した。
これでもう何も奪われることはない。
……ヤバい。もう限界だ。もうここに居られるのも時間の問題だな。
「最後に」
俺は戦々恐々とし恨みつらみが激しい顔のルシを見た。
「楽しかったぜ……ルシ。最後にお前と遊べてな」
「……き、貴様ぁぁあああ!」
じゃあな。
ルシの断末魔を聞きながら、俺の身体は光の粒子となり――。
セイタ。借りは返したぜ。
ルシを残して地球から消えた。
★★★
都内某所。
1人の少年が暗い顔でマンホールを見つめている。
身体はずぶぬれ。
ドロドロの服を着て、何かを待っているかのように呆然と立ち尽くしていた。
サイレンの音が遠くから聞こえる。
だが、まだこの場所には警察は来ていない。
しばらくすると。
「あれ――?」
少年が咄嗟に声を上げた。
何やらマンホールが光ったような気がしたからだ。
だがすぐに消えた。
ゴシゴシと目を擦りもう一度よく見る。
気のせいだったか?
「いや、気のせいじゃない!」
ゆっくりと点滅していくマンホール。
徐々にピントが合うように発光時間が長くなり。
やがて――。
「うわッ!」
強い発光に少年は思わず腕で目を隠した。
「な、なんだ……?」
「え? ど、どこ? ここ」
「あれ? 俺はいったい……?」
そんな声が聞こえてきた。
周囲に複数の人の気配。
ゆっくりと目を開けると、
「!!」
少年の目に飛び込んできたのは、人だかりだった。
その人だかりを見て、敏い少年は直ぐに悟った。
じゃあもしかして……!
少年は人だかりに突っ込みきょろきょろと周りを見渡した。
どこだ。どこにいる。いや、もしかしてここにはいない?
いや、絶対いる!
「セイターー……?」
「!!」
聞き馴染みのあるその声を背中で感じ、バッと振り返った。
何回も夢に出た。想像した。夢想した。
彼女を見た瞬間、嗚咽する。
もう出きったと思ったのに我慢できずに目から大粒の涙が出てきた。
もう耐えられないと身体が勝手に彼女の元へ。
彼女もそれを出迎え、抱き着いた。
何か月も離れ離れになっていた親子は大粒の涙を流し合った。
「母さん! おかえり」
「えぇ。ただいま」
この日、世界中のマンホールに全て蓋がされた。
その日世界中のマンホールの蓋が全て消えた 久芳 流 @ryu_kubo
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