都会の老人と田舎の老人

口羽龍

都会の老人と田舎の老人

 佳太(けいた)は約半世紀ぶりに智彦(ともひこ)と再会する事になった。中学校で別れて以来、いつかまた会おうと約束してきた。だが、時が経つにつれてそれは聞かれなくなり、そして互いに忘れてしまった。


 だが、定年退職を迎え、家に隠居するようになってから、智彦から手紙が届いた。また会いたいなという内容で、手紙には住所とそこまでの地図が書かれていた。それを見て、あの時の約束が蘇った。今までどうして会わなかったんだろう。会いたかっただろうな。早く会いたいな。


 佳太は智彦の家までの道を車で走っている。智彦の住んでいる所はのどかな山里で、美しい田園風景が広がる。


「ここに住んでるのか」


 しばらく走っていると、古い民家が見えてきた。ここが智彦の家だ。ここは専業農家のようで、トラクターなどがある。家は広くて、かなり多くの人が住んでいそうだ。


 佳太は民家の庭に車を停めた。それを待っていたかのように、1人の老人がやって来る。智彦だ。少し老けているが、昔の面影が少しする。


「お邪魔しまーす」


 佳太は少しお辞儀をした。


「おう、佳太くん。元気にしてた?」

「うん」


 智彦は笑顔で答える。佳太も笑みを浮かべた。久々に再会できて、本当に嬉しい。半世紀の間に、色々あったけど、その思い出話を語り合いたいな。


「まさか、こんな所で再会すると思ってた?」

「ううん。まさか、佳太くんがこんな所にいると思わなかったよ」


 2人は家に向かっていく。だが、誰もいないようで、静かだ。あれだけ大きな家に住んでいるのに、1人なのかな?


「そっか。まぁ、上がってよ」

「ありがとう」


 2人は玄関に上がった。中は古めかしい。昔はこんな家だったな。初めて来たのにどこか懐かしい。


「こんな所に住んでるんだね。僕は今、東京に住んでるんだ」


 佳太は今、東京に住んでいる。東京に住み始めたのは大学生になってからだ。大学を卒業後、東京で会社員として働いた。40年余り働く中で、様々な出会いをした。最も大きな出来事は、やはり結婚だ。最愛の人と巡り合い、結婚する事ができた。そして、4人の子供に恵まれた。長男以外は独立し、それぞれの家庭を築いた。そして今年の3月、定年を迎え、退職した。そして現在は、結婚して子宝に恵まれた長男の家族に見守られながら隠居をしている。幼い孫の世話をしていると、孤独を忘れる事ができる。


「ふーん。僕は高校を卒業してから、ここに住んでるんだ」


 智彦は高校を卒業後、ここで農業を営んでいるという。だが、智彦以外、誰も住んでいないようだ。家族はどうしたんだろうか? ずっと独身なのかな?


「寂しくない?」

「寂しいよ。子供はみんなこの家を出て行って、今は1人暮らしなんだ」


 智彦は20代の時に結婚した。そして佳太同様、子宝に恵まれた。だが、子供たちはみんな東京に行き、豊かな生活を送るようになった。妻は去年亡くなり、現在は1人暮らしだ。寂しいけれど、年に数回、子供たちとその家族がやって来るのが唯一の楽しみだ。


「そうなんだ。僕は長男とその家族と暮らしてるんだ」

「賑やかでいいね」


 智彦は下を向いた。自分とは全く違う。一緒にいてくれる家族がいる。だけど、僕は1人ここで暮らしている。とても寂しいな。


「うん。でも、年末年始などの大型連休は次男と長女の家族もやって来て、もっと賑やかになるんだ」

「僕の家もそんな感じだな。息子や娘の家族がみんな集まって、とても賑やかになるんだ。でも・・・」


 佳太の家も、大型連休になると賑やかになる。4人の子供の家族が集まり、食卓が楽しくなる。そして彼らの家族に囲まれて、幸せな日々を送る。


「その気持ち、わかるよ」

「時々思うんだ。ここで暮らしててもいいのかなって」


 智彦は最近思っている。東京はいい所だな。豊かで、人が多くて、賑やかで。自分もそこに住みたいな。ここよりもっと楽しそうで。


「本当?」

「うん。いつでも子供に会えないんだもん。いつでも会える佳太くんは楽しそうだなって」


 智彦は佳太がうらやましいと思っている。家族がいてくれて、楽しいだろうな。そして、街は人であふれている。こことは全く違うな。


「それはそうだけど、こっちも寂しくなる時もあるよ」

「どうして?」


 智彦は驚いた。賑やかなのに、どうして寂しいんだろう。その理由が全くわからない。


「住んでる街は近所づきあいが少ないんでね。定年を迎えて、家に隠居するようになってからは孤独なんだよ。最近は孫も友達に夢中で振り向いてくれないし」

「そっか。こっちはみんなが支えてくれて、まるで家族のようなんだ。でも、本当の家族がいいよ」


 だけど、時々周りの人々が来てくれて、自分を支えてくれる。彼らがまるで家族のようだ。だが、やっぱり本当の家族の方がいいな。本当の家族の方が温もりを感じるから。


「そうなんだ。それはそれでいいよね」

「だけど、東京はいいよね。好きなものが手に入って。こんな田舎とは全然違うよ」


 2人は智彦の作ったご飯を食べ始めた。とてもおいしい。長男の嫁が作ってくれるご飯よりずっとおいしい。どうしてだろう。


「それはそうだけど、ここもいいよなー。自然がいっぱいで、ごはんがおいしいし」


 佳太はここの魅力もわかった。ここは田舎で、賑やかではないけれど、自然がいっぱいで、ご飯がおいしい。


「本当?」

「うん。東京とは全然違うよ」


 佳太は笑みを浮かべている。久々に会えたのもそうだが、こんな自然豊かな場所に来れたのも嬉しい。こんな自然豊かな場所に来たのは、何年ぶりだろう。


「そう。気に入ってもらってよかったな」

「ありがとう」


 智彦も笑みを浮かべた。どうやら佳太にも気に入ってくれたようだ。だけど、住んではくれないだろうな。家族がいるだろうから。だけど、それはそれで幸せだろうな。

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都会の老人と田舎の老人 口羽龍 @ryo_kuchiba

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