第2話 家族愛と惑溺

注意事項

・今回はけっこう胸糞系です。

・考察任せな内容もあります。



ーーーーーーーーーー


少し困ってしまったな、と目を瞑る。

そしてもう一度目を開き中学生ほどのに目を合わせる。

「…それじゃあ、数分後に事務所へ行きますので、先に向かってくれますか?」

コクリと頷いた依頼人を送り出してため息をつく。

今日はちょっとした珍事が起きて驚いた。

その珍事というのは、先程の依頼人についてだ。

彼は朝から自分を見かけて追いかけて来ていたらしい。話しかけづらかったと言っていたが人見知りな子なのだろうか。

そんな依頼人は、どうやら義兄のいざこざに巻き込まれて他界してしまったらしい。

義兄は再婚相手の連れ子らしく、再婚相手も義兄もいい人らしいのだが、小学生の頃は受け入れられず冷たい態度をとってしまったと語ったあと、家族たちが無事か確認することとものを渡して欲しいという依頼をした。

いざこざについては詳しく教えてくれなかったが、どうやら面倒くさい女に捕まってしまったとか。

その女に義兄が刺されそうになって、それを庇って……と教えてくれた。

とりあえず今日は急用ができたと言って早退しよう。

――

「お待たせしました、事務所開けますね」

少し前に到着していた依頼人に声をかけ、事務所を開ける。

「失礼します」と小さく呟いて、中に入ってきた。

早速、契約書を持ってきてサインをしてもらう。

「では、依頼を承りました」

小さくお辞儀をして、早速憑依。

「…それじゃあ会いに行きましょうか」

「はい」

返事が聞こえたので事務所を出て、義兄たちの家へ。

――

「ここですか?」

「そうです」

不自然に思われぬようスマホで電話しているフリをして、切ったフリをしたあと近くの喫茶店へ行く。

依頼人の前調べだと、義兄がここにいることは確かだそうだ。

ここからはスマホのメモ帳で会話をすることにした。

店員さんにりんごジュースをひとつ頼んで待ち伏せをしていると、早速家族らしき人が外出した。

「この人が?」

と問うてみると、「お母さんだ」という文。なるほど、お母様か。

お母様はどこかへ向かっている様子だ。りんごジュースを飲み干し、代金を置いて依頼人に許可を取り尾行してみる。

向かった先は墓地だった。

「俺の墓参りに来たみたい」

スマホのメモ帳でそう書かれている。

「今日が命日だったんでしたっけ?」

「そうなんです。俺、数十年前に死んだから、もう成仏したくて」

なるほど、それで依頼をしたのか。何となく文字数が増えてきた。緊張が解けてきたのだろうか?

「丁度いいですし今渡しますか?」

少しの間止まった手が動く。

「俺があげてもいいですか?」

「もちろん。ちゃんとフードかぶってくれたら」

今日はパーカーを着てきた。あげる際は押し付けるようにするか、郵便受けへ投入するつもりだった。

十数秒後、お母様は立ち上がってこちらへ向かってきた。帰るつもりなのだろう。

その時体が動いて早足で歩み寄り、プレゼントを押し付けるように渡して猛ダッシュで逃げた。

後ろから呼び止める声が聞こえるが足は止めない。

なんとか逃げ切り、近くの路地裏へ入り息を整える。

「…逃げきれたようで、何より」

「ごめんなさい、こんなに走って」

「大丈夫です。家へ戻って確認してきてくださいな」

メモ帳でまた会話をして、依頼人を憑依状態から外す。まだ薄くない。

「それじゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい」

手を小さく振って見送り、自分は事務所へ戻り依頼人を待った。

その間にパソコンを立ち上げて調べ物を始める。

――

幽霊の気配がして、パソコンを閉じた。

「遅くなってすみません」

最初より随分と憑き物が落ちた顔をした依頼人が戻ってきた。憑くのは依頼人の方だが。

「大丈夫ですよ。どうでしたか?」

「元気がなさそうでしたけど、プレゼントを見て泣いてました。笑顔だったから、良かったです」

……本当に良かったのだろうか?少し疑問に思いながらも、顔には出さずにいる。

「そうですか。良かったですね」

「はい、今日は本当にありがとうございました」

礼儀の正しい子で、深々と頭を下げてくれた。

「それでは報酬の品をお願いします」

「これで大丈夫ですか?」

「これは……」

小さな星の砂と貝殻が入った、カラフルな瓶をくれる。

「俺が作ったんです、これ」

照れくさそうに笑う依頼人。

「そうなんですか?」

「ハンドメイドとかが好きだったので、こういったものを作ってて。その中の自信作です!本当は母の日に渡すつもりだったんですけど、その前に死んでしまったから…あ、自分語りばっかりですみません」

ハッとしたあとに頭を下げられる。

「大丈夫ですよ。ありがとうございます」

星の砂の机の上に置き、契約書を手に取った。

「ありがとうございました。お疲れ様です!」

「こちらこそ、ご依頼ありがとうございました。来世の一家団欒いっかだんらんを願います」

契約書を破き、依頼人は天へ昇った。

「……はぁ」

胸糞の悪い話に二度目のため息をつき、座り込んだ。

自分の考えすぎであることを祈りながら陽の光が当たって輝く星の砂を、机上に飾った。

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鶯かなでの矜恃 色彩 @yuzuiro

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