『江戸POP道中文字栗毛』 児玉雨子
『江戸POP道中文字栗毛』 児玉雨子
作家、作詞家でもある著者による、江戸時代に書かれた近世文芸に関するエッセイ集。
うち三作品をリメイクした短編も収録されている。
アイドルソングやアニメソングの作詞、そしてアイドルに関する小説のイメージが強い著者と、近世文芸。その組み合わせの妙に興味を持って読んだ一冊。近世文芸にも興味が無いわけではなかったので、入門書としてもいいのではないかと思い手に取った。
もともとはwebの連載でそれらをまとめたものらしいのだが、どうも厚みが足らない。連載が想定より短期で終わったのか、著者が芥川賞候補に選ばれたので急いで単行本にしたのか、この合わせ技だったのか……? 様々な疑問がかけめぐるが、ボリューム不足なのが残念だった。
古典というと平安期の文学を真っ先に思い出してしまう人間なのでどうしても構えてしまうが、ここで紹介されているのはもともとは庶民の娯楽のための本ばかりなのでなんとなく親しみが感じられる。紹介されている原文も、平安時代の文語にくらべるととっつきやすそうにも思わされた。江戸時代に詳しい人達のは常識なのかもしらないが、平賀源内が別名義で衆道小説を発表していたこともこの本で初めて知った。
登場人物の話し言葉を現代風に改めてみたり、田舎者を気軽に蔑む江戸っ子にツッコんでみたり、初心者に向けた入門エッセイとして楽しい一冊だったように思う。
特に、当時では当たり前だった習慣や考え方を現代人の倫理観や価値観で否定するべきではないとしながらも、受け入れがたいものは批判されている所が私としては気持ちがよかった。古典を読むには当時の時代背景なども頭にいれなければいけないのは分かっていても、実際に読むとぎょっとする箇所がどうしてもでてくる。その、ぎょっとしたり拒否反応が出ることを、「それは現代人の価値観だから!」と否定されないだけで楽になるものがあると解った。
リメイク短編は、山東京伝『青楼昼之世界錦之裏』を基にしたものが、吉原の遊女たちによる火付け計画を語った実によい百合小説、シスターフッド小説だったので印象に残っている。
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