ヒロイン視点 2

 彼にもわかりやすく、私の好意を伝える。行動で伝える。


 その方法は……1つしか思いつかなかった。


 私は彼にキスをした。


 そしてどうやら……

 告白は、成功したようだった。


 そのまま、私はフラフラと地面に座り込んだ。あまりにも緊張して立っていられなかった。


「あ……大丈夫?」

「は、ハイ……」


 私に合わせて、彼も地面に腰を下ろした。


 月がキレイな夜だった。いや……彼と一緒に見る月は、キレイに見えた。


「ヨカッタ……」心の底から安堵した。そして、心の底から嬉しかった。「アナタは……リンさんというヒトが、スキだと、オモッてた」

「え……?」彼は首を傾げて、「そうだけど……」


 ……


 リンさんが好き……? 私は……? あれ……? 告白失敗してる……?


「ワタシは……?」

「うん……だから、好きだけど……」

「……フタリとも、スキ?」

「……登場人物が2人いるの……?」


 いるだろう……私と、りんさん。


「……?」

「……?」


 相変わらず話が噛み合わないな……翻訳ソフトのせいじゃないのか?


「あれ……? キミがりんさん、だよね……?」

「チガイマス……いむです……」

「あ……あれいむって読むんだ……」


 ずっと名前間違えてたの……? ずっと私のことをりんだと思ってたの……?


 ……ああ……言われてみれば、そりゃそうか。私に呼びかけるときにりんさんって言うんだから、それは私のことだよな……


「ご、ごめん……ずっとりんさんだと思ってた……」別に構わないけれど。「というよりりんさん……じゃなくていむさん……高山たかやまさんのことが好きなんじゃ……?」

「タカヤマ……? ダレ……?」


 どこからタカヤマさんが出てきたの……? なんで私がタカヤマさんのことを好きだと思ってるの……?


 ……


 なんだか、異常な量のすれ違いがあるようだ……


 その原因は……


「アノ……スマホ、ミせてください」

「スマホ?」

「ハイ、ホンヤクソフト……」彼は翻訳ソフトを起動して、私に見せる。「……ヤッパリ……」


 思わず、笑みがこぼれてしまった。


『中国語→日本語』『中国語→韓国語』


 そんな設定になっていた。


 道理で……話が噛み合わないはずだ。お互い中国語を話してないのに、中国語を翻訳する設定になっている……翻訳ソフトも大混乱だっただろう。


「な、なに……? どうしたの……?」


 そして彼は、まだそのミスに気がついていないらしい。あれだけ翻訳が崩壊していたのに、逆にすごい。


「いえ……ナンデモ、ないです」


 指摘するのは、やめておこう。


 私たちの関係は、このミスから始まったのだ。いわば……これが原点なのだ。


 残しておこう。そしてたまに、またすれ違おう。きっと楽しい。


 これから……すれ違うことは少なくなるだろう。私はもっと日本語が理解できるようになって、彼とのコミュニケーションは円滑になっていく。


 でも……きっと私は忘れない。こうやって毎日すれ違っていた時期のことを、大切に覚えている。


 彼と一緒に思い出そう。この学生生活のことを。


 10年後も20年後も……ずっと一緒に思い出せたら良いな……

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隣の席の中国人美少女がなにか言っているが、普通に何を言ってるのかわからない~機械翻訳によると僕のことが好きらしい~ 嬉野K @orange-peel

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