4 因果応報
そんなある日、俺は自分の髪の毛が異常なスピードで抜けていることに気付いた。
最初は髪の伸びるスピードが遅くなったと感じていただけだったが、1か月も経つと俺は20代前半にして髪のすき間から頭皮が見えるようになっていた。
そしてある日の夕方、俺は新見さんに大学の近くの公園まで呼び出された。
「ごめんなさい吉良君。私、この年で髪が貧しい男性とはどうしても……」
新見さんはそう言うと涙を流しながら走り去っていった。
残された俺は新たに薄毛属性を手に入れた若年肥満男性(21)でしかなかった。
おかしい。何かがおかしい。
公園で立ち尽くす俺の前に現れたのはすっかり俺と同じような体型になった陸人と、久々の対面となる悪魔メタボスだった。
「り、陸人、何でそいつと!?」
「メタボスから全部聞いたよ。俺をこんな体型にしたのはお前だったんだな」
冷ややかな視線で呼びかける陸人はその手に真っ白な表紙のノートを持っていた。
「まさか、そのノートは……」
「それは
メタボスは悪魔の翼で陸人の横に浮遊し、俺を嘲笑しながらそう言った。
日の落ち始めた公園に立ち尽くす俺を見下ろしつつメタボスは続ける。
「全く、お前は本当に愚かな人間だよ。美紗という女はお前と縁を切るつもりはなく、お前が反省してある程度痩せればすぐに元の関係に戻るつもりだった。当然そこにいる男に浮気なんてしていないのにお前は逆恨みでDEVノートを使って、それどころか痩せる努力を放棄して他の女に心変わりした。悪魔も顔負けのろくでなしだな」
「そ、そんな……」
「お前たちの怨念は十分に味わわせて貰ったから俺様はここで消えるとしよう。後は残念な男同士で仲良くやるといいさ」
「ちょっ、待て!」
俺の制止も構わずメタボスはそのまま瞬時に姿を消してしまった。
そして俺の目の前には、今回の件で一方的な被害者でしかない陸人が残される。
「俺はお前を友達だと思ってたのに、お前があんな悪魔に俺を売り渡すとは思わなかった。かくなる上は道連れだ!!」
陸人がカバンから取り出したのは死神が持つような巨大な鎌で、流石にこれはやばいと思った。
「地獄の底に送ってやる!」
「ぎゃああああああ!!」
悪夢にうなされていた俺は叫び声を上げて硬いベッドから飛び起きた。
そこは夕方の公園ではなく、薄暗い照明に白い内装でまとめられた病院の入院病棟らしき部屋だった。
「……! 目が覚めたのね、ケン君!」
俺が寝ていたベッドの横の椅子にはここ3か月ほどほとんど顔を見ていなかった美紗が座っていて、その横では陸人が椅子に座ったまま寝ていた。
DEVノートの力でBMI35になったはずの陸人は以前と変わらない細身の体型のままで、もちろん巨大な鎌など持っていなかった。
「美紗、俺が太りすぎたから別れたはずじゃ……」
「何言ってるの、私はどんな体型になってもケン君が大好きなんだから別れるはずないじゃない! ひどい悪夢を見てたのね……」
美紗はそう言ってベッドの傍らでしくしくと泣いた。
「お前は美紗ちゃんとの食事中に飯を喉に詰まらせて、誤嚥性肺炎で1週間も入院してたんだ。こんなに彼女を心配させた罪滅ぼしに、今後は反省してダイエットするんだぞ」
いつの間にか目を覚ましていた陸人がここに至った事情を説明した。
美紗と陸人の優しさに感謝し、長い悪夢から目覚めたことに安堵しつつ自分の身体を見ると1週間も点滴で命をつないでいたからかげっそりと痩せていた。
また悪魔が現れないよう、俺はこの機会に本当にダイエットすることにした。
(完)
DEV NOTE 輪島ライ @Blacken
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