3 本末転倒

 その後に聞いた話では陸人は急に暴飲暴食をするようになって1か月でBMI35に達し、それから美紗との仲が進展したという話は聞こえなかった。


 今のうちに自分だけ痩せてやろうと夕方にジョギングを繰り返していた俺はある日の昼間、疲れからか大学の講義中に寝てしまっていた。



「あの、吉良君」


 講義が終わったというのに机に突っ伏している俺の肩を叩いたのはいつも近くの席に座っている同級生の新見にいみ明日香あすかさんだった。


「んぐ……あっ新見さん。もう授業終わったの?」

「ええ。ちょっと話したいことがあったので、迷惑かなと思ったけど起こしました」


 新見さんは裕福な家庭の一人娘で、かなりの美人なので男子人気も高いがこれまで誰からのアプローチも断ってきたことで知られていた。


「別にいいけど、何かあったの?」


 俺が尋ねると新見さんは真剣な顔で、


「青葉さんと別れたっていうのは本当ですか?」


 と聞いてきた。


「まあ、それは事実だけど……」

「それなら、私とお付き合いしませんか?」


 よりを戻せるよう頑張っていると言おうとした矢先、新見さんは驚くべき提案をした。


「えっ?」

「以前から吉良君が気になっていたのですが青葉さんがいたので身を引いていたんです。吉良君さえよければ私とお付き合いしてください」

「そ、それは嬉しいけど俺は太りすぎて彼女に捨てられるようなデブだよ?」

「そこが良いんで……いえ、私はありのままの吉良君が好きなんです」


 それからとんとん拍子で話が進んで、2週間ほど経つと俺は新見さんという新たな彼女と過ごすようになっていた。


 確かに新見さんの趣味は特殊だし食事に行く度に恐ろしい量を食べさせてくる難点はあるが、俺は今の自分を受け入れてくれる彼女と過ごすことに幸せを感じていた。

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