第4話「第二次フィーグ爆弾テロ事件②」

「ゴロー君がお前の体を切り裂いたとき、お前は苦しそうな顔を浮かべていた、とね」 


 シャイニングは引いた拳で思いっきりナムゥの腹部を殴打する。


 人類最強の男によるパンチでナムゥは数十m先まで吹き飛ばされる。


 ナムゥを吹き飛ばしたシャイニングはすぐさまナムゥに追いつき、今度はナムゥを地面に叩きつけ、次々と殴打を繰り出していく。コンクリートはいとも簡単に砕かれ、ナムゥはどんどん地面の中を降下していく。


「苦しげな表情は痛みからくるものなんじゃないのか?いくら再生に限度がなくても、受容できる痛みには限りがあるんじゃないのか?」


 叩きながらシャイニングはナムゥに問いかけるが、ナムゥからの返答は来ない。


「確かにゴロー君の言うとおり、皮膚が硬い素材でできてるな。お前はやはり人間とは言いがたい生物のようだ」

「我は元々人間ではない。再生の度に身体機能を向上させ、進化を繰り返した結果が今のこの形態というだけだ。奇しくも、外見は人間と酷似してしまったがな」


 突然来たナムゥからの返答にシャイニングは特に動じることなく、ナムゥの言葉の続きに耳を傾ける。


「我のこの皮膚を初撃で切り刻む先日の大男もなかなかの力だったが、素手で我の体を殴るとはな。武器を何も使用していない状態で前回の大男よりスピードもパワーも数段勝っていると見た。この数秒の間に恐らく我の全身の骨は悉く粉砕されただろう。確かに、骨が一カ所折れるだけでも甚大な痛みを伴う。それが何十何百と蓄積すれば、我でも耐えることは不可能だ。貴様の推測は正しい」

「じゃあ、なぜお前はそうも平然と喋っていられるんだ?」

「己自身の弱点を知っていながら、それを放置したまま、のこのこと現れると思うか。前回我が退散したのは、そんな我自身の弱点を学んだからだ。我は基地に戻り、自身に肉体改造を施した。自らを爆破し、再生を誘発することで新しい身体機能を構築した。それによって我は、視覚と聴覚を除く全ての感覚を消した。つまり、我はもう痛みを感じない体になったということだ。これで正真正銘、攻撃をしても無駄だというわけだ」


 ナムゥが自身の身体機能を改造することは進化の過程で幾度となく行ってきたが、その全てが不慮の事故によって死に追いやられるような瞬間がきっかけで肉体改造が行われるのである。


 そこで、自発的な肉体改造を試みたナムゥは基地にて自分で作った爆薬を自分の間近で爆発させ、自分の体をバラバラにすることで再生した拍子に痛覚のない体に改造したのである。


 ナムゥは肉体改造によって痛みを感じなくなっただけではない。物に触れるという感覚も失ったため、物を持ったり掴んだりする時の感触も感じられず、地面の上に立った時に足の裏で感じる感覚もない。言わば、足がしびれて麻痺した状態で歩いた時に少し浮いているように感じる感覚をナムゥは常に感じているのである。


 さらに、視覚と聴覚という最低限の情報源だけを残した結果、味覚や嗅覚も失い、食物を味わうということもできなくなった。もとよりこれに関しては、砂利や目についた草木ばかりを食してきたナムゥには必要のないものではあるが。


「なるほど。つくづくただ者ではないようだな。自爆して自分の体を改造しようとは。ちょっと興味すら湧いてくる」

「意外に冷静なのだな。まだ勝機があるとでも言いたいのか」

「勝機なんてのは勝負をすることが前提だろう?僕はそもそもお前と勝負をしているつもりはないけどな」

「やはり矛盾しているな。さっきまでの連打を闘争以外のなにものだと説明するのだ」

「さっきのはほんの小手調べだ。僕の実力を見て屈服してもらえたら解決できると思ったからだ」

「全く説明になっていないな。屈服という言葉は支配と同義なのではないのか。まあいい。ここから貴様はどう出る。再び殴打をひたすら続けるのか?」

「いや、もう殴りはしないし蹴りもしない。こうさせてもらう!」


 シャイニングはナムゥの背後に回る。


 あまりの速さにナムゥは反応しきることができないままシャイニングに両腕を掴まれ、後ろで手錠をかけられる。


「な、何を……!」


 今まで冷めた顔ばかりしていたナムゥが初めて戸惑いを顔に出す。


「お前はこれまで一度としてこちらに攻撃を仕掛けてきたことがなかったからな。少々試させてもらうぞ。さあ、このままだとお前は牢獄行きだ。まだ隠してるのなら実力を解放してみろ!それとも、本当に攻撃を仕掛けられないほど力がないわけではないんだろう?」


(まずい。これは非常にまずい)

 ナムゥの額に冷や汗が流れる。


 なぜならナムゥにはその攻撃できる力とやらが本当にないからである。もちろんやろうと思えば、肉体改造の段階で筋肉を増やすことはできた。だが、これまでの進化の過程の中で多大な筋力を必要とする場面がなかったため、必要最低限の筋力しかないのである。


 生活の中で壮絶な力を要することなどなく、他の動物との戦闘になることも多々あったが、ナムゥは死なない以上ナムゥ側から手を下す必要はないし、大抵の場合、空を飛んで戦闘から離脱するからである。


 少なくとも手にかけられた手錠を引きちぎるほどの力はナムゥにはなかった。


 さらに、後ろで手錠をかけられたため、羽を伸ばすことができない。


 これは、詰みだ。


 そのままナムゥは監獄へと送還された。

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