第2話「ナムゥの誕生」

 ナムゥの誕生は今から約1億年前のことである。


 ナムゥは最初、地上で暮らす爬虫類として誕生した。


 そして、生まれながらにして自己再生の能力を秘めていたのである。


 よって、ナムゥは他の生物に食されようとも、異常気象やそれによる災害に見舞われようとも、病に冒されようとも、幾度となく能力が発動し、再生を繰り返した結果、1億年間も生き続けてきたのである。


 さらに、ナムゥは再生をする度に環境に順応できるように、再び死に至ることのないように、再生を必要とするような状態に陥らないように自身の身体機能を再生と共に組み替えていったのである。


 これまで膨大な種類の生物が誕生と絶滅を繰り返し、地球上で繰り広げられる生存競争により長く生き残るために進化をし続けてきた。


 本来、その進化という行程は、一つの個体のみでできることではなく、子孫を残すことによって数え切れないほどの世代に受け継がれていくものなのだが、ナムゥはその進化をナムゥ単体だけで1億年もの間、行ってきたのである。


 爬虫類だったその体は再生の度に生命活動をより快適に、差し支えのないように微調整や試行錯誤を重ね、今の姿まで進化を遂げたのである。


 進化の結果、身体的特徴はほぼ人間と遜色はなくなった。脳があり、骨格があり、筋肉があり、それらを使って二足歩行をしている。


 もちろん人間とは異なる機能も保持している。


 皮膚は人間よりも厚く硬く傷つきにくくなっており、およそ±100℃まで耐えることができる。


 背中には羽が備わっており、飛行をすることも可能である。この羽を使わない間、羽はコンパクトに折り畳まれ、爆破テロ時、ナムゥは服の下に羽を覆い隠していた。羽には羽筋とも呼ぶべき筋肉が内蔵されており、その筋肉を使って羽を羽ばたかせることができる。


 エネルギー補給は地球上にある物全てがエネルギー源となり、ナムゥの体の素材となる。肉も然り植物も然り、岩や砂なども口にすることによって体の一部として取り込むことができる。それらをかみ砕くために歯は硬質で鋭利な形をしている。


 さらに、エネルギー効率を極限まで高めた結果、取り込んだ物を余すことなく全てエネルギーとして変換することも可能にした。つまり、ナムゥは全く排泄をしないのである。そのため、ナムゥは生殖器を持たない。排泄する必要性も子孫を残す必要性もないからである。


 ナムゥは呼吸によって気体をエネルギーとして補給するが、水中でも空気だけを体に取り込むことができるような体のつくりになっているため、水中でも不自由なく生活はできる。


 以上がナムゥと人間との相違点である。言わば、人間の進化形態と言っても過言ではないだろう。


 ナムゥは人類が誕生する前から脳を発達させ、思考を繰り返すようになった。人類が誕生する前から二足歩行をするようになり、動かせるようになった手で物を使ったり作ったりするようになった。


 思考を開始したナムゥはそのうち今自分がいるこの世界について考えるようになった。物理学、化学、生物学、地学などのこの世の理を突き詰める理学を極めた。


 言わば、ナムゥは地球上で最初に誕生した人類であり、最初古の学者でもあるのである。


 やがて、人類が誕生し、間もなくその人類が文明を築いて地球上を牛耳るようになった。


 その事態を受け、ナムゥは人間について調べることにした。


 まず、人間が人間間の伝達手段として使用する言語という存在を知ってから、ナムゥは言語について勉強することにした。


 勉強の末、人間の言語を解読できるようになったナムゥは次に本格的に人間に関する研究を進めた。


 人間が書き残した書物を人知れず奪い、読み込むことで人間の倫理観、歴史、政治学に経済学。人間があってこそ存在し得る学問について学んだ。


 人間に関する理解が深まったところでナムゥが人間に対して抱いた感情は怒りだった。


 世界の地形は何万年、何十万年、何百万年、あるいはそれ以上という途方もない時間単位でもって変化を遂げるものなのだが、人間の出現から数千年のうちに陸地の大半が変貌してしまった。


 人間は自分達の暮らしやすさを何よりも優先した結果、あたかも地球上の自然全てが人間の所有物であるかのように振る舞い、いとも容易く自然を破壊し、そのテリトリーを増やしていった。そして、テリトリーへの他生物の侵入を一切許さなかった。


 ナムゥも例外ではない。ナムゥはただそこで生活をしていただけなのに、人間がその付近で集落を築いてから、人間はナムゥを発見するや否や、排除しようと問答無用で襲いかかってきた。


 頭脳を持っている、ただそれだけのことで人間は全生物の頂点に君臨したのである。


 ナムゥはそんな人間を許すことができなかった。


 ナムゥにとって人間とは罪深き生き物なのである。


 テロ現場から飛び去ったナムゥが向かった場所は、人間の家も舗装された道路もない山奥の秘境。ここがナムゥの住処である。


 ここにはナムゥが建てた簡易的な木造の小屋があり、ナムゥが人間社会から収集してきた資料やナムゥが作り上げた機械の数々が保管されている。


 事件から数日後、その基地でナムゥは独学で作成したコンピューターでインターネットを活用し、そこで自分のことに関するネット記事を見つけた。


「人類に反する者、『Namuh』か」


 そこでナムゥは初めて自分が人間から「ナムゥ」と呼ばれていることを知る。


 異質な存在が一度日の光を浴びただけでこの騒動。人間という生き物は安らぎばかりを求めすぎるが故に過剰に反応してしまう。だから弱い。


 そんな弱き生き物は自分達の利益のために自然を好き勝手に破壊した挙げ句、その自然破壊が自らの首を絞め、その危機に頭を抱える始末。


 知れば知るほど馬鹿馬鹿しくもあり、腹立たしくもあった。


 次こそ人類に恐怖を植え付けてやろう。そんな思いを胸にナムゥは次なる策に出る。

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