第3話「第二次フィーグ爆弾テロ事件」

 事件から約1週間後、再びナムゥが人間の前に姿を現した。場所は前回の出現と全く同じ場所だ。


 世間を騒がせた謎の生命体の再出現にメディアが殺到するも、警察は周辺10km圏内を危険地帯とし、ナムゥは飛行もするため中継用のヘリコプターの出動も禁止され、完全にメディアの介入は遮断された。


 今回ナムゥは特に目立った行動を起こしたわけではない。ただ空からこの地に降り立ったというだけでこの有様である。


「性懲りもないな」


 この事態を見て、ナムゥは一言呟く。


 ナムゥは再び数百もの武装集団に囲まれる。場所も同じなら、状況も全く同じである。


 だが、今回はナムゥと対峙する相手が違う。


「君が噂に聞くナムゥか」


 武装隊の中からナムゥの前に現れたのは、ナムゥと同じくらいの背丈の金髪男だった。


 彼の名はシャイニング。人類で唯一ヒーロー業を生業としている人物であり、人類最強と謳われる男である。


 彼が人類最強と呼ばれる所以は常軌を逸した身体能力にある。ボクシング、柔道、レスリング、相撲まで、あらゆる格闘技において大会で優勝をかっさらうという破格の格闘センスを持ち、ある時に行われた異種格闘技戦の世界大会では、圧倒的な力を見せつけ、優勝を収めたほどだ。


 彼は、その戦闘力を活かして世界中を飛び回り、事件現場へと駆けつけ、事態の鎮圧に貢献していった。それが例え大規模なテロ事件であっても、彼は勇敢に立ち向かい、犯人を次々と確保していった。


 やがて、彼の功績が認められ、彼にスポンサーがついて、彼は正式にヒーローという職業を獲得したのである。


 今回も前代未聞のテロ事件を起こした前代未聞の生命体が再び姿を現したということで、この男が出動する事態となったのである。


 彼は認知度世界一と言ってもいいほどの人気者の有名人なのであるが、ナムゥには彼がどんな人物なのかは分からない。


「どうやら、本当に我は『ナムゥ』と呼ばれているらしい。そうやって人間はどんな物事に対しても名称をつけたがる。言語による意思疎通を潤滑にするためなのだろうが、面倒なものだな。理解に苦しむ」

「その割には流暢に僕らの言葉を話すじゃないか。よく勉強して理解してくれてるようだね」


 ナムゥの批判をシャイニングは優しく返す。


「ああ。我も最初は人間という生物に興味津々だった。だが、知りすぎた。知りすぎたおかげで人間という生物がどれほど醜い生物なのかということだけが分かった。人間への興味は全て嫌悪に成り代わった。なぜ貴様らはそうも何食わぬ顔で支配者を気取っていられるのだ。貴様らはこの我でさえも支配下に置こうとしている。身勝手極まりない。そうでもしなければ、安らぎを得られないのか」

「支配なんてしないよ。できるなら君と友好関係を築きたいと思っている」

「友好関係だと?主従関係の間違いではないのか?我が人間と手を取り合い、仲良くする利点がどこにある」

「じゃあ逆に聞くけど、君が人間を襲う利点は何なんだ?」

「何度も言わせるな、愚者め。人間がちょっとした異変に対して過剰に混乱する様が見ていて楽しいからであると説明したはずだ。それが今の我の生きがいになっているのだ」


 そのナムゥの意見を聞いて、温厚だったシャイニングの顔が一気に緊張する。


「お前の中では人間と関わることで人間の良いところを見つけようという考えはないのか!お前は人間の何を知っているって言うんだ!」

「愚者め。我がどれほどこの世界に居続けていると思う。我は生まれながらにこの再生の能力を持ち、現在まで生き長らえてきたのだ。年月にしておよそ1億年といったところか。1億年もの間この世界を観測してきて、近年になって頭角を現した人間という存在がこの世界にとってどれほどの害悪であるかは、我が一番よく知っているのだ」

「1億……だと?つまりお前は1億年も生きてきたというのか?」

「だから何度も言わせるな。聞き返さなくともそう言っただろう、愚者め。だから、害悪である人間は滅ぶべき存在だということだ。その説得力は我自身の貴様らとは比べるに値しないほどの経験量が物語っている」

「なるほど。このままでは僕達は一生平行線だろう。少し場所を変えないか。ここはそれなりに人のいる場所だ。いつまでも無駄な口論をするのも迷惑だ」

「指図か。相手を自分の思い通りに動かそうとする、これを支配以外のなにものと捉えられようか。それに、迷惑がかかるというのは説得になっていない。我はそのためにここに居座っているのだからな」

「そうか。なら、強引に場所を変えるしかないな」

「結局は実力行使か。先刻まで我と友好関係を築くと豪語した者の台詞とは到底思えんな。実力行使は結構だが、貴様も我の能力を知らないまま我の前に躍り出たわけではあるまい。人間は情報伝達だけは迅速だからな」

「ああ。もちろんゴロー君からの情報で既に知っている。いくら攻撃しようと、どんな攻撃をしようと、原子レベルで再生ができる能力だろう?再生時に細胞は新しくなるため、本人は不老不死、その不老不死の力で1億年生きてきたってことで間違いないか?」


 ここで、シャイニングは一気にナムゥとの間合いを詰めた。


「だけど、ゴロー君はこうとも言っていたな」


 ナムゥの耳元で囁いて拳をテイクバックするシャイニング。


「ゴロー君がお前の体を切り裂いたとき、お前は苦しそうな顔を浮かべていた、とね」

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