第5話「竜胆刑務所」
ナムゥ投獄のニュースはたちまち報道され、世間のナムゥに対する注目度は加熱する一方であった。
事件の翌日。シャイニングは事情聴取のため、インノウ国の警視庁を訪れていた。
「ご苦労だったなぁ!シャイニング」
「別に僕はゴロー君の言ったとおりのことをしたまでだよ。こちらこそ部隊を貸してもらってすまないね」
待ち時間にシャイニングと対面したのはゴローだった。
「それにしても、思ったよりもすんなりぶち込めたんだなぁ」
「何か狙いがあるのかと思っていたけど、本人の顔は意外にも青ざめていて想定外だったみたいな表情だったのがどうも腑に落ちない。もしかすると、本当にかなりの打撃を与えていたのかもしれないしね」
「ま、そうだといいんだがなぁ。それよりも、新聞見たかよぉ?世間では、ナムゥ投獄にホッとする奴もいりゃぁ、終身刑以上は確定って記事を見てナムゥが見れなくなったことを悲しむ輩も結構いるみてぇだぜぇ?ったく、お気楽なもんだよなぁ。中には牢獄に入ったナムゥを動物園みたく一般公開しろだの、シャイニング死ねだの、クソみてぇな書き込みもあるようだしなぁ」
「きっと、冗談半分だよ。囚人を一般公開なんて前代未聞さ。しかも、ナムゥが送られたのはあの竜胆刑務所でしょ?あそこのセキュリティーに限ってそれを許すとは到底思えないけどね」
「竜胆ねぇ。さしものナムゥとて、あそこにぶち込まれりゃぁ、終いだろうなぁ」
「そうだといいんだけどね」
場所を移し、ここは本土から少し離れた孤島に建てられたインノウ国最高峰の刑務所、竜胆刑務所である。
主に懲役30年以上の凶悪犯罪者を収監するこの刑務所は世界基準で考えてもトップクラスのセキュリティーを誇り、これまでに脱獄あるいは侵入に成功した者は誰一人としていない。
ナムゥは人間離れした思想、そしてその能力や異形から司法機関で判決が下される前にこの刑務所の地下二階の最奥の牢獄に投獄された。
このフロアは死刑囚やその呼び名を口にすること自体が禁忌とされるほどの最凶悪犯罪者が放り出されるフロアである。
どれほど政府がこのナムゥの存在を危険視し、警戒しているかがこの体制から見て取れる。
このフロアにはナムゥしかいない。なぜなら、他の囚人は既に死刑が執行されたからである。
空虚な闇の中で鎖に拘束されたナムゥは考えていた。
(人間は我をこんな場所に閉じ込めて何をしようとしているのだ。孤独にさせることで改心することを望んでいるのなら、それは金輪際叶うことはない。なぜなら、孤独になって苦しくなるのは集団でしか生きることのできない人間のような動物に限る話だからだ。我にとって今この時間は通常の我の生活様式とさして大差はない)
拘束という再生能力に対する弱点を今回の戦いで新たに学んだナムゥは考えた。
(このままここらで大規模な地殻変動が起こって、その拍子に能力を使って脱出できるまで待つことは容易いが、問題はその時に既に人類が滅亡しているか否かだな。できることなら人類が滅亡していくその絶景を地上で見物しておきたいものだ。そのためにはできる限り早期に脱獄を図りたいものだが、何か方法はないものだろうか)
ナムゥには手錠を外す方法が一つあった。それは、手首を切り落とす方法である。爆破などで手首を吹き飛ばすなど手段は何でもいい。その後、手首を再生させることで外すことができる。全身の爆薬を没収されてしまったナムゥにはその鋭い歯で手首を噛みちぎるという手段があるのだが、後ろで手錠をかけられているため届かない。
(いや、待て。届かないのはなぜか。それは腕が後ろにあるからではない。腕を前に持っていくことができないからだ。じゃあなぜ腕を前に持っていくことができないのか。それは我の肩の関節が柔軟でないからだ)
ナムゥの腕は肩くらいまでしか上がらない。だが、ここから力尽くに回してしまえば、前に腕を持っていくことができる。そう考えたナムゥは強引に硬直した腕を回す。痛覚を失ったナムゥの体なので、痛みによるセーブはかからず、感覚としては機械のレバーを反対方向に回している感覚と全く変わらない。
思いの外、容易に腕の関節は外れ、腕を前に持ってくることができた。切断された節々を再生しがてら、次の段階に移行する。
ナムゥは自分の手首に勢いよく噛みついた。鋭利な牙を立て、大量に出血させながら手首を噛みちぎった。
もう片方も同じく噛みちぎり、両手首をすぐさま再生させる。
(これで、動きに対する制限は解除できた。問題はここが地下であることと、この我を囲った鉄格子を我の力で突破することができないことにある。やはり、ただ拘束を解いただけでは脱獄など夢のまた夢だな)
ナムゥが脱獄を諦めかけていると、何やらコツコツと何者かが床を歩く音が聞こえ出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます