第5話 いちはなちゃん

「ねー。遅かったじゃんか。何してたのー?」


ノック君がカムイ君にグイグイ、肘を押し付ける。


「別に。ただ、起こしに行っていただけですが。」


カムイ君は顔色ひとつ変えずに一言返す。


先ほど見たカムイ君が夢だったのかと思うほどに彼は冷静だった。


それに比べて私はまだドキドキしている。


収まれ、冷静になれ、私。せっかくカムイ君が何もなかったように振る舞ってくてるのに私がこんなんじゃダメだ。だけど、夜もまた会うんだよね、あのカムイ君と。ここにいるのとは別人のカムイ君と。


「リアちゃん?」


わたしが1人であれこれ考えていると、ノック君が声をかけてきた。


「大丈夫?なんか落ち着かないようだけど。もしかして、カムイになんかされた?」


途中から徐々にカムイ君がニヤニヤしていきているのが分かった。


「いや、ちょっと考え事してただけ。気にしないで。」


私は出来る限り平静を装って言った。


「あっそ。なんかあったかなーと期待したのにな。」


期待してたのか?


「何を考えているのですか?ノック。あなたはもっと自覚を持って、」


「はいはい。」


ノック君はカムイ君の説教を避けるようにして離れた。


それにしても、なんでカムイ君はこんなにも冷静なのだろうか。


やはり私なんかとは経験値が違うのだろう。


こんなにイケメンなのだから。


それから食事をした。


相変わらずの豪華な食事だった。


食事中、ずーっと誰かの視線感じた。


私はそっちの方向を見てみると、そこにいたのはいちはなちゃんだった。


私がみると、そっぽを向く。


どうしたんだろう。もしかしてバレた?


食事を終えると私は部屋に戻る前にいちはなちゃんに声をかけた。


「ちょっと話さない?」


「えっ?いいの?話すー。」


「しばらくは立ち入り禁止ねー。」


私は男の子達にそういうと、2人で部屋に入った。


「なになにー?どうかしたのー?」


部屋に入るといちはなちゃんは言った。


「いや、ちょっと退屈だったからお話し相手になってもらおっかなーって。」


「なーんだ、そういうことなら大歓迎だよ。なんかさっき気難しそうな顔してたからなんか私悪いことしちゃったかなって思って。」


「いやいや、いちはなちゃんが悪いことするわけないじゃん。」


「だよねー。私ちゃんがリアちゃんを怒らせるわけないよねー。ごめんごめん。私の勘違い。」


いちはなちゃんはそう言いながら、私の部屋にあるベッドに倒れ込んだ。


「そういえばさー。ちょっと疑問に思ったことがあるんだけど聞いてもいいかな。」


えっ、やっぱり疑われてる?


「リアちゃん、なんで急に私のこといちはなちゃんとか呼ぶようになったの?」


「えっ。」


いちはなちゃんは飛び上がってアクロバティックな動きを披露しながら私の目の前に降り立った。


「だってさおかしいじゃん。急に距離ができたみたいでいやだよ。前まではいっちゃんて呼んでくれてたじゃん。この前からなんかおかしい。今まで我慢してたせいでおかしくなっちゃったの?」


ぐすん。


いちはなちゃんは涙目になっていた。


えっ、うそっ。


「あ、そうだよね。ごめん。これからはまたいっちゃんって呼ぶよ。いっちゃん、大好きだから泣かないでよ。」


私はいちはなちゃんに抱きついた。


ぐすん。


いちはなちゃんは泣き始めた。


「泣かないで。」


いちはなちゃんの頭を撫でる。


「嫌われたかと思っちゃったよ。」


「そんなわけないでしょ。私といっちゃんは永遠に親友だよ。」


「だよね。だよね。」


謎の友情感動シーンが生まれてしまった。



「ところでさ。リアちゃんずっとここに閉じ込められてたら退屈じゃない?」


「うん。そーなんだよー。とっても退屈でどうしよって。」


「退屈なら。私と外出てみる?」


「えっ、いいの?」


「いいのって、いいに決まってるじゃん。確かに前までは戦の時にしか外に出てなかったけど、もう大丈夫だって。私ちゃんが護衛するからさ。リアちゃん連れて行きたいところたくさんあるんだから。今までできなかった分たくさんお出かけしようよ。」


「分かった。じゃあ、カムイ君達に連絡してくるね。」


「ダメ。」


「えっ?」


「ダメに決まってるでしょうが。リアちゃん。誰にも言わずに抜け出すっていうの、やってみたいじゃん。」


「いや、それは。」


「いっくぞー。」


いちはなちゃんは私の手を引いて走り出す。


「そっち窓、窓だって。」


「なーに言ってんの?私ちゃんとリアちゃんでしょ。いっくよー。」


二人は窓から飛び出した。


高いって。


し、死ぬ。


すっ。


と着地した。


自分の意思とは関係なく体が動いた気がした。


あれ、意外と大丈夫だった。


やっぱり、リアさんはとんでもない運動神経を持っているようだ。


いちはなちゃんも忍者らしく音をたてることなくその地に降り立った。


「ちなみに、いっちゃん、どこにいくの?」


「そりゃ、決まってるじゃない。」


決まってる?


「食べ歩きに。」


ほー。お出かけしてやることは自分が生活していた世界とも変わらないようです。


だけどそうか。


一応形は王女ということになってるんだもんな。


私は王女。


だから普段は友達と気軽に外に出ることなどできない。


外に出られるのは。


城の庭と、戦の時だけ。


戦の時に出ていたとあうのが、そもそもおかしな話ではあるのだけれど、そこは私の思っていた、というか一般的な王女とは違っている。


リアさんに一度でいいから会ってみたい。


というか、このタイミングで私が変わってしまってよかったのかそんなことを考えながら走った。


城の敷地はこと恐ろしいほどに広かったけど、さすがいちはなちゃん。


そしてリアさんの体。


苦労することなく外の世界に出ることができた。


「楽勝だったね。」


私がそういうと。


「まあ、今日はカムイ君がいない時間だってからね。ラッキーだったよ。」


うーん。それだけ優秀な護衛ということなのだろう。


その名前を聞くだけで少しドキッとしてしまった。


あっ、そういえば夜までに帰らないと、私とカムイ君のドキドキタイムが。


「いっちゃん。ここからどれくらいかかるのかな?」


「んー、そうだなー。今日行くところはまあ、三時間ぐらいでいけるんじゃないかな。私ちゃんとリアちゃんだし。」


さっ、3時間か。


長旅になりそうだ。




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