第7話 みんなありがとう

私といちはなちゃんは走った。


近づくにつれモンスターの数が増えていく。


空を飛ぶものだけではない。


さっき森の中で見たトカゲのような見た目をしたもの、そして巨大な虫や猪に似たような生物。


その全てが暴れていた。


建物を壊し、人を襲っていた。


何故こんなことが起こっているのかわからなかった。


だけど動くしかなかった。


この体が考えるより先に動いた。


もしかしたら私の中にまだリアちゃんがいるのかもしれない。


「リアちゃん?」


私はモンスターの群れに突っ込んだ。


小さな女の子が泣いていた。


私は周りを囲んでいるのは森で見た巨大な蟻のような生物。


あー。いやだ。怖い。


もしかしたら私の中のリアさんも本当は怖いのかもしれない。

だけど私の体は止まらなかった。


落ちている屋台の柱に使われていたのだろうと思われる鉄の棒で思い切りそのモンスター達を突き飛ばした。


考えてみても自分がどうやってそんな動きをしたのかわからない。


まさに体が勝手に動くとはこのことだ。


いちはなちゃんが後ろから私の援護をしてくれる。


「大丈夫?リアちゃん。」


「だい、じょうぶ。」


「私がここは請け負うからリアちゃんは避難誘導をお願い。」


わかった。


自分の手が震えているのが分かった。


それに気づいたのか一いちはなちゃんは私をモンスターから遠ざけた。


だけどあまりに数が多すぎる。


この街には戦えるものが少ない。


応援を呼ばなければ。


そう考えていると、空を飛ぶワイバーンが子供に襲い掛かろうとしているのが見えた。


この棒でなんとかなるだろうか?


いや、考えている暇なんてない。


私は飛び出した。


そしてそのワイバーンめがけて棒を振った。


ガキンッ、と音がして棒が折れた。


衝撃で私は吹き飛ばされる。


間髪入れずにモンスターが私に向かってきた。


もうだめだ。


なんで。せっかく辛い現実世界から離れられたのにこんなところで終わりなんていやだよ。


目の前に迫るモンスター。


私は目を閉じた。


「ほんとに。あなたは、じっとしていられないのですか?」


声が聞こえた。


その声は紛れもなく、カムイくんの声だった。


「いちはなさん。あなたは勝手にリア様を連れ出した挙句こんな危ない目に合わせるとはどういうことですか。後できっちり話し合いましょうね。」


私が目を開けると。


たった今まで目の前にいたはずのモンスターたちがいなくなっていた。


「大丈夫です。リア様。私たちがきましたから。じろ。リア様を安全なところへ。」


「リア様、立てますか?」


そう言いながら手を差し伸べてくれたのはじろくんだった。


「うん。ありがとう。」


私はじろくんにつれられてモンスターたちから離れた。


情けないな。


リアさんが見たらなんていうだろう。


私ってやっぱりだめだなー。


「リア様はダメなんかじゃないですよ。」


「えっ?」


声に出てしまっていたようだ。


「あっ、ありがとう、じろくん。」


「リア様、モンスターのこと怖いはずなのにすごいです。僕は嫌いなものに向かっていけません。野菜も嫌いなものは残しちゃうし。みんな、リア様のこと尊敬してますよ。」


じろくんは私の目を見ながら言った。


思わず照れそうになる。


だめだ、冷静に。


「じろくん。まだ逃げ遅れた人たちが。」


「大丈夫ですよ。みんなで来ましたから。もう既に逃げ遅れた人たちの避難は済みました。僕も行ってきますね。」


立ち上がったじろくんはいつもと違い、とても大人に見えた。


私はそれを呆然と見送った。


彼らなら大丈夫だ。


大変な時なのになぜか安心してしまった。


まだ安心できる状況じゃないのはわかっている。


モンスターの数はあまりに多い。


どこから湧いてきたのか分からないほどに。



私は腰が抜けてしばらく動くことができずに、彼らの戦う姿を見ていた。


それは今まで見た中でなによりも衝撃的で彼らがとても頼もしく見えた。


みんな、ありがとう。


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