あの世とこの世を繋ぐとされる伝説の井戸

ミンイチ

第1話

GWゴールデンウィーク


 それは現世における大型連休の通称である。


 元々はある会社が集客目的で使った言葉らしいが、それが一般にも広く使われるようになった。


 この大型連休中、ある人は休日を満喫し、ある人は休みを前後にずらして仕事に明け暮れ、またある人は休みすら貰えない。


 ここ地獄で働く鬼たちは休みを前後にずらすことで、浮かれすぎて死んだ者や、未だに現世で過ごしている悪人の死者の魂を一気に処理をする。


 これはその「前後にずらした休み」の間に起きた脱走計画のお話。





「最後の確認だが、もう準備はできてんだよな?」

「もちろんだ。

 脱出口までのトンネルも掘ったし、脱出用の気球も運び込んである。

 シフトもあいつらの会話で今日は休む奴が多いから見つかりにくいはずだ。」


 刑場の端っこにある秘密基地の中で何人かの亡者たちが脱出のための最後の準備をしている。


 ここには脱出予定の場所の真下につながるトンネルが掘ってあり、出口付近にはほとんど組み上がった気球も置いてある。


「ところで、どこから現世に行くんだ?

 あっちにいく道なんてほとんどないし、あっても見張りがついてるだろ」

「それがな、一箇所だけだが見張りがいないところを見つけたんだ。

 最後に使われたのは大体1100年くらい前だからもう通れないかもしれないから見張りがいないんだと思う。」

「それってどこなんだ?」

小野篁おののたかむらが冥府にくるときに使ったとされる井戸だ。

 平安京の南東にある寺の境内につながっていて、現代では観光地にもなっているらしい」


 それを聞いて何人かはやっと行き先を知れたことで安堵したように見える。


 そして準備が終わると全員がトンナルの中に入っていった。


 トンネルの中から周りに鬼がいないことを確認すると、全員で協力して気球を組み立てる。


 上がるための炎をつけて、全体の4分の1が乗り込むといきなり乗り込み口の板が外される。


「お前らありがとうな!

 俺らしか乗れないもののくせに、全員で手伝ってくれてなぁ!」


 バラストを全て外し、一気に上昇していく。


 ここは地獄だ。


 地獄にいる亡者は生前に故意か故意でないかはわからないが、何かしら「

 地上に残された亡者たちはそこに突っ立っている者もいれば、怒り狂って大声をあげている者もいる。


 気球は目標の場所に到着し、用意していた射出式のアンカーを使って気球の籠を天井にぶら下がらせる。


 気球のちょうど真上には穴があり、そこが例の井戸であるようだ。


 気球の乗員の1人がワイヤーをその穴につながるように設置し、この穴を見つけた功績者をトップバッター人柱として送り出す。


「それなりの汚さだが…このさきが現世に繋がってるんなら我慢できるな。

 おーいお前ら!罠とかは無さそうだぞ!」


 それを聞いた他の亡者が我先にと上がってきた。


「早く行け!」

「押すなよ!」

「うっせーブッ殺すぞ!」


 穴の中では罵詈雑言が飛び交い、人を押しのけてでも上に上がろうとするものばかりだ。



「あ?」


 そんな中、一番上にいた亡者がつぶやいた。


 頭に何かがぶつかってもうこれ以上、上にはいくことができないようだ。


「おいやめろ!」

「何すんだゴラァ!」


 一番上にいた亡者がその上を掘り始めると、掘った土が下に落ちる。


 下にいる亡者もどんどん詰めてきて、どんどん狭くなっていく。


「あっ」


 一番上にいた亡者がついうっかり足を滑らせた。


 下にいた亡者も巻き込み、どんどんと下に落ちていく。


 穴の入り口にあった気球も何人もが落ちてくる衝撃には耐えられず、底が抜けて亡者は地面に叩きつけられる。


 天井そらの異変に気づいた鬼たちが近くに来ており、落ちてきた亡者は誰一人逃げ切ることはなかった。




 最近、小野篁が使っていたとされる本物の井戸が見つかった。


 その井戸があったお寺のかつての場所が発掘調査で明らかになり、井戸も一緒に発見されたのだ。


 発見時は井戸の内側は土で塞がれていたが、誰かの手で井戸の底側から掘られた形跡があったとか無かったとか。

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