6.5話② 小さくて大きな決意

「はむっ」


「んっ……!」


「ん~? まだ触れただけじゃぞ~?」


「だ……だってぇ……」


「くふふ~」


 焦らすように少女の耳に唇を軽く当てた神は悪戯な笑みを浮かべた。その様子はまるで親に新しいおもちゃを買ってもらった子供のようだ。


「だって、ではないのじゃ。……続けるぞ?」


「うぅ……」


「はむ……じゅるっ……」


「んっ……ぁ……」


 神の小さい舌が耳の中に入ってくると、少女はそれに応えるように甘い声を漏らす。密着していなければ近くに居ても聞こえないほどの小さな声だったが、神がそれを聞き逃すはずがない。


「なんじゃあ? 身をよじらせるほど感じておるのかぁ……?」


「そ、そんなこと……んぁ……っ!」


「ほれほれ〜、いつもの威勢はどうしたのじゃ~? そういうところは幸人と似ておるの~」


 少女の反応が見ていて楽しいのか、ほんの少しでも隙を見せれば、神はそこをこれでもかというほど突く。よっぽど新しいおもちゃで遊ぶのが楽しいのだろう。


「あ、あんなやつと……っ! 一緒にしな……んぅ」


 弄ばれていることに気づいている少女はなんとか抵抗しようとするが、その甲斐もなく少女の表情は快楽に染まっている。

 そもそも神は姿だけ見れば幼女だが、よわいは軽く四桁を超えているのだ。16歳の少女が太刀打ちできるはずない。


「口ではいくらでも言えるが、体は正直じゃの~」


「ふー……ふーっ……」


「ふふっ、もう声すら出せぬか~? それとも……喘ぐ声をこれ以上我に聞かれるのが堪えられぬから、我慢しておるのか~?」


 下唇を噛んで声が出ないように我慢していた少女だったが、


「あむ……じゅぷっ」


「んぁっ……!」


「まあ、無駄なことじゃ。けーけんが違うからの~」


「うぅ……」


 神はそんな我慢さえ煽るための材料にする。


「では、続けるとするかの」


 舌足らずですらまともに言えていない神が、この時ばかりは妖艶に見えた少女だった。


ーーーーーー




「ふふふ~、今の貴様のとろけきった顔……遥が見たらどう思うんじゃろうな~。はむっ」


「っ……! い、いじわるなこと言わないでくだ……ひゃんっ!」


「ん? にゃはは〜、ここかぁ? ここがよいのか〜?」


「だ……だめっ……」


 私の弱点を見つけた神様を、反射的に私が払い除けようとすると、神様は私の両手を握ってさらに押さえつけようとしてくる。


(この小さい体のどこにこんな力が……)


 一生懸命神様の手を振り解こうとする私とは対照的に、神様は余裕の笑みを浮かべている。


「そこは……ほ、ほんとに……だめです……」


「そうか〜」


「っ……!」


「……今、舐められると思ったじゃろ? ざ~んね~んなのじゃ~」


「んんー! もうやだ~!」


 神様の柔らかい唇が耳に触れた時に咄嗟に体に力が入った私を、神様はにまにましながら煽ってくる。完全に私は神様の掌の上で転がされているみたいだ。


「にゃはは~! さーてと、今日のところはこれくらいで終わっておくかの〜」


 神様はふっと一息入れると、ずっと握っていた私の手を離した。


「え? お……終わるんですか?」


「うむ、貴様が嫌じゃ嫌じゃと申すからの」


 どれだけ「やめてください」と言ってもやめてくれなかった神様の精気搾りは呆気なく終わりを迎えた。

 ただこれは……


「っ……」


「なんじゃぁ? 物欲しそうな顔をしよって」


「……分かってるくせに」


 神様のいじわるに他ならない。あえて自分が引くことで、私が求めてくる姿が見たいんだろう。それが分かっているはずなのに、私の体はうずいてしまう……


「にゃはは〜、すまぬすまぬ。じゃが、おあずけじゃ♡」


「ええ!?」


「前にも言ったであろう? 精気というものは貴様がこーふんすればするほど、どばどばと出てくるのじゃ。こうして焦らすことで貴様が次の時にこーふんするじゃろ?」


(なんか、私料理されてるみたいなんやけど……)


「興奮って……私が変態みたいに言わないでくださいよ……」


「いや、貴様は変態じゃろ」


「は、はぁ!? そ、そんなわけないじゃないですか!」


 神様からの当たり前のような変態扱いに、私は思わず大きな声で否定した。


「たわけが、並の人間が精気を直接吸われて無事なわけなかろう。少なくとも並の人間の5倍は精気がなければ死んでしまうのじゃ」


「つまり……?」


「うむ、貴様や幸人はそこらの人間より5倍はすけべぇなのじゃ」


 必死に否定する私を軽くあしらうように神様は衝撃的な事実を伝えてきた。


「すけべ……? 私が……? あは、あははは……はは」


「どれほどショック受けとるんじゃ貴様は」


 少なくとも、生まれてこの方清楚に生きてきたと自負していた私は、ショックのあまり全身の力が抜けた。


「……傷ついたんで、今日はもう帰りますね……」


「なんじゃ、もう帰るのか?」


 座る筋力すらまともに働かない私は、壁に体を預けながら帰り支度を始めた。神様はまだまだ私で遊びたいのか、少し物寂しいそうだ。


(私からしたら、たまったもんじゃないんやけど)


「仕事の関係で、明日の朝一番早い新幹線で東京に帰らないといけなくて」


 本当はもう少しここに居たいけど、明日は6時の新幹線に乗って9時半には現場入りしないといけない。これ以上ここに居れば、仕事に支障が出る。それだけは、私のプライドが許さない。


「そうかそうか。まあ、また来るとよいのじゃ」


 帰り支度を終えた私を見た神様は、私を出口へと送り出そうと、扉の前に立った。神様だというのに、お見送りをしてくれるなんて、どれだけこの神様はフランクなのだろう。


(こんなに素敵な神様だってことが、たくさんの人に伝われば、信者も増えそうなんやけどな)


「はい、また来ますね~。今日は急に来ちゃったのに、相談に乗ってくれてありがとうございました」


 そう言って、私は扉の前で深々と頭を下げる。

 今日神様に相談したおかげで、決心がついた。


(次に遥ちゃんと会った時は、絶対に私から話しかけてみせる!)


「な〜に、しっかりともいただいたからの~、いいのじゃいいのじゃ」


「あ~! その……対価の話はしないでください……」


 にやにやと私のことを煽ってくる神様は、すごく楽しそうだ。


「にゃはは~」


「もぉ~……じゃあ、行きますね」


 最後の最後まで神様は私にいじわるをしてくるが、特別悪い気はしない。なんなら、少し安心するくらいだ。


(あれ? 私調教されとる!?)


「……瑠璃」


「はい? えーっと、忘れ物でもしてましたか?」


 扉に手をかけた私を、神様が呼び止めた。


「遥のこと……応援しておるぞ」


「っ? あ、ありがとうございます……急にどうしたんですか?」


「なんでもないのじゃ~、じゃあの~」


「え……? あ、はい。さようなら」


 神様からの思いもしない素直なエールに、私はどこかぎこちなさを覚えながら帰路に着いた。


(そういえば、初めて名前で呼ばれた……?)


ーーーーーー




「あやつが帰ると静かじゃの~……」


 少女がやしろを後にすると、神はなんとも言えない寂しさを覚えた。


「あの目……もう我が手を貸すまでもないじゃろうな」


 決意を新たにした少女の目は輝いていた。そこにはもう迷いなど無いだろう。


「ん? うむ、雨は止んだか」


 窓の外を見ると、先ほどから降っていた雨はもう止んでいた。

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のじゃロリ神様はきまぐれで時を転がす すーちょも @METORONN

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