最終話 世界は続いていく

 魔王騒ぎは、世界のあちこちに災害をもたらした。

 だけど、終わってみれば一つのお祭りみたいなものだった。


 世の中がどんどん元に戻っていく。


 俺はすっかりフリーになってしまった。


「俺の力って、結局はあの魔王を倒すためのものだったのかなあ……」


 ボーっとしながら呟く。

 ここは、エルトー商業国にできた、俺とミスティの家。

 今日完成したばかりで、孤児院から戻ってきた俺たちに引き渡しが完了した。


 救世の英雄である俺は、何もしなくても国が養ってくれる……ということになっている。

 だけど、俺は貧乏症なので何もしないというのは落ち着かない。


 かと言って、俺が両替をするとこの国の両替商がみんな失業してしまう。

 これはよくない。


 俺が武器や防具を作ったら、鍛冶屋が失業してしまう。

 これもよくない。


 便利過ぎる能力って、案外使い道がないものなんだな……!


「ウーサー、また悩んでるじゃーん」


 後ろからミスティが抱きついてきた。

 部屋の中なんで薄着なのだけれども……。

 今日はいつにも増して薄着なような……。


 そ、そうか!

 俺と彼女を隔てる理由はもうなくなっているんだ。

 いつでも、その、ミスティと……。


 もしかして彼女も、布一枚しか着てないような上着はそれを期待して……?


 ごくり、とつばを飲んだ。


「あ、あの、ミスティ」


「なあに」


「そろそろ、約束を果たそうか……」


「うん、いいよ……」


 俺たちの距離が近づいていき、一つに……。


『大変ですよー!!』


 扉をバーンと開けてニトリアが飛び込んできたので、俺とミスティは「うわーっ!!」と叫んで離れた。

 な、な、なんてところに来るんだー!


『ハッ! まだ日が高いうちからお二人は本懐を果たそうとされていたんですか。わたくしも空気が読める女……。わたくしは二番目で全然平気ですのでほほほほ』


「ほほほじゃなーい!」


 ミスティが駆け寄ってニトリアをはたこうとする。

 だが、ニトリアがミスティの頭をばしっと押さえて近づかせない。


『ふふふふ、スキル能力を失ったあなたなどもう怖くありません……! 以前だったら都合よく、わたくしのみぞおち辺りが攻撃しやすいところに来ていたと思うのですが……』


「な、なんか悔しいー!!」


 そう。

 もう、ミスティには運命を操るスキルはない。

 全てウーナギが持って行ってしまった。


 完全にスキル能力を消し去ることはできないから、そのスキルは誰かに与えられることになるらしいけれど。

 あのとんでもない力は、どこに行くことになるんだろう。


「それでニトリア、大変って?」


『ああ、そうでした。ここから北に、魔王戦で軍隊を貸してくれたエッチール共和国があったでしょう』


「あったね」


 魔王に一発で軍隊をのされてた。


『そこが、エルトー商業国が専有するこのあたり一帯は、もともとエッチール共和国のものだったから明け渡せと……』


「めちゃくちゃだー」


 俺が頭を抱えた。

 なんでそんなことになってるの。

 ミスティが俺の肩をポンポンと叩いた。


「まだまだ、ウーサーの出番は終わらなそうだねえ。よーし、行こうウーサー! どうせニトリアも、この厄介事にウーサーを引っ張り出しに来たんでしょ。ついでにあたしたちの邪魔をしに……」


『フフフ……』


 意味ありげに笑うニトリアなのだった。


 外にはルーンが待ち構えていて、俺たちを連れて行くための馬車まである。


「ぶもー」


『ひひーん!』


 ライズにナイトもやる気は十分。

 新しい仕事が俺たちを待っている。


 これはどうやら、国にやってくる厄介な仕事を解決する役割になりそうだなあ……。


『そう言えば、元の世界に戻る方法というのはまだ見つかってないみたいですねえ』


「やっぱり? ウーナギが調べてもそうなんだ」


 ニトリアとミスティが馬車に乗り込み、おしゃべりを始める。

 元の世界とは、ミスティが住んでいた別の世界の事だ。


「あたしはもう、こっちにウーサーやみんながいるから帰らなくてもいいんだけど……」


「そっか。ちょっとうれしい」


 俺が笑うと、ミスティも笑った。


 それはそれとして、異世界召喚者が元の世界に戻る方法は、ずっと研究され続けているのだそうだ。

 未だに世界では、ちょこちょことミスティのような異世界召喚者が現れている。


 そして、異世界召喚者を元の世界に送還したという話は一つもない。


「仕事しながら、今度はその、異世界召喚者を戻す方法を探してもいいかもな!」


「ウーサーが厄介事を抱え込んだ。あたしがやらなくても、自分でそういうの見つけてきちゃうんだもんな」


「そ、そうかな……」


「だからあたしが、ウーサーに引き寄せられたんじゃない? それでウーサーはあたしを抱え込んじゃった」


「あ、それは俺、大正解だと思ってる!」


「ほんと!? 嬉しい!」


 馬車の中から、ナイトの上にいる俺に抱きつこうとするミスティ。


「うおーっ!! 動いている馬車の上でイチャつくんじゃねーっ!!」


『やめてください目の毒ですようらやましい!!』


 ルーンとニトリアがわあわあ騒ぐ。

 こうして俺たちは、新たな仕事へと向かっていくのだ。


 魔王がいなくなっても、世界は全然変わっていないようだし、俺たちがやることはたくさんあると思う。

 だから、そういう仕事を進めて行きながら、ミスティとの仲を今までよりももうちょっと深く深くしていけたらな、などと思う俺なのだった。


 俺の気持ちを知ってか知らずか、一番後ろをマイペースについてくるロバのライズ。


 俺とミスティを交互に見やった後、「ぶもー」と呑気に鳴くのだった。



おわり

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外れスキル「両替」が使えないとスラムに追い出された俺が、異世界召喚少女とボーイミーツガールして世界を広げながら強くなる話 あけちともあき @nyankoteacher7

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