第3話 ブロックはそこまで甘くない
数時間後。
薄暗い漫研の部室で、俺は一人目を覚ました。
チクワもイルマもとっくに帰ったのか、人の気配がしない。
つけっぱなしのPCだけが、俺の眼前で光っていた。
映し出されているのは勿論、俺の「アロウ」のマイページ。
「――?」
そこで俺は、ある変化に気づいた。
通知欄には『新着メッセージが1件あります』の文字列が。
何だろう。俺はクソ重い瞼を開きながら、何となくそのメッセージを開いてみた。
すると。
「――あずきさん!?」
重かった瞼が一気に見開かれた。
それは間違いなく、あずき氷湖さんからのメッセージ。
俺をブロックしていた張本人からの、直接のメッセージだ。
タイトルは「大変申し訳ありませんでした!!m(__)m」とある。
一体何事だ。恐る恐る、メッセージを開いてみると――
《天辺様、本当に申し訳ありませんでした!
既に天辺様はお気づきかも知れませんが、私、なんと天辺様をブロックリストに入れておりました……
勿論故意ではありません。当方も気づかないうちに入っていたのです。
たまたまブロックリストを確認したら天辺様のお名前があり、私自身も仰天して――》
俺は信じられない思いで文章をたぐる。
するとあずきさんは、何故そうなったかの理由を事細かに説明してくれていた。
《3か月前、私の活動ノートに天辺様からコメントをいただいた時、私、滅茶苦茶眠くて……
うっかり、コメント横にあるブロック用のボタンを押してしまったらしいのです。スマホだったせいか、確認画面にも気づかずそのまま天辺様をブロックしてしまったらしく――》
そうか。そういうことだったのか!
確かに「アロウ」のブロック機能は、活動ノートにコメントをもらった場合だと、コメントしたユーザー名のすぐ横にブロックやミュート用のボタンが出るシステムになっている。
眠かったり疲れていたりすれば、うっかり押してしまう危険性も十分ある。
スマホならなおさらだ。俺だってスマホ見ながら寝落ちした時、怪しげな掲示板の怪しげなコメントにうっかり空白の返信送っていたことがあるし。
あずきさんのメッセージの後半は、ひたすら謝罪の言葉ばかり。
そこまで謝らなくても……そう思いながら、俺は心の底からほっとしていた。
そうか。嫉妬に狂うあずきさんも、俺の作品を嫌うあずきさんも、いなかったんだ。
ただ彼女は、活動ノートのイメージと同じように、楽しく創作活動をする。そんな女性で――
――
「――センパイ。天センパイ! 起きてください!」
「天ちゃん。起きなよ、風邪ひくよ!」
「ん……
ん、んあっ!?」
イルマとチクワの声で、俺は飛び起きた。
気が付けば朝。窓からは陽光が射し込んでいる。
おい。ひょっとして今のは、まさか――
俺は慌てて身を起こし、再びあずきさんのページへと行ってみた。嫌な予感しかしない。
恐る恐る、お気に入り登録用のボタンを押してみる。するとやはり
『貴方は何らかの理由で、このユーザーからブロックされています』
なる、無機質な文言が。
勿論、さっき受け取ったはずのあずきさんのメッセージなど、影も形もない。
思い切り椅子に崩れ落ちてしまった俺に、慌てて声をかけるチクワとイルマ。
「だ、だだ、大丈夫天ちゃん!?」
「顔色、昨日より青いですよ!? 何があったんですか?」
「いや……何もなかった……
何もなかったんだよ……残念ながら」
そう言いながら、俺は再び机に顔を突っ伏してしまった。
そう。さっきのあずきさんのメッセージは、ただの俺の夢。
意図しないブロックだったと思いたい、俺の願望が夢になっただけにすぎない。
俺自身が悪くないのは勿論、彼女が嫉妬にかられたわけでも、悪意に満ちた行動でもなかったと
――俺が勝手に、そう思いたかっただけだ。
ブロックされる理由なんて、そこまで甘いものじゃない。
ブロックされる理由なんて、そう簡単に分かるものじゃない。
なのに俺は、わずかな希望を抱いてしまった。誰も悪くなかったという、都合の良すぎる妄想を。
――だが、これだけは言わせてくれ。
「二人とも……頼む。
「アロウ」を使う時は……どうか一度、自分のブロックリストを確認してみてくれ……
もしかしたら、自分が意図せず、うっかりでブロックしてしまったユーザーがいるかも知れない……
自分が何も気づかないまま、そのユーザーを悩ませていることも、あるかも知れないんだ……
これが……俺が言える……唯一の……グフッ」
「て、天ちゃーん!!?」
Fin
無言ブロックを喰らった kayako @kayako001
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