第13話

ミネルバ女史による説明が終わった後、ふと清和ちゃんが何かに気が付き呟いた。

「あれ、それならコイツらに特攻入るって事っスか?先代のナンタラとか言ってたし」

それだ!!!( ゚д゚)ハッ

清和ちゃんの言葉に全員が盲点だったとなった。

「黒玉様、出来ますか?」

『運良クテ5人ガ限界ダロウナ』

最高5人…、上位神官は15人だから半分以上が掛からない可能性の方が高いのか( ´-`).。oO

「そういえばクロスケ、肝心な信仰者の条件って何?」

悩んでいると弥生君がクロスケを抱き上げながら質問した。

『分カリ易イノハ【神】ト聞イタラ俺様ヲ真ッ先ニ思イ付ク事ダナ。シカシ、ソンナコトヲ聞イテドウスル』

「う〜ん、少し気になっただけだよ」

神と聞いて真っ先に思い付けばいいのか、簡単じゃん!!…いや、女神がいるからそうでは無いか。

そもそも神とか天使なんて実際見なきゃ信じられないわ(by天使と悪魔のハーフ兼最高峰の神の主)

ん、“実際に見なきゃ信じられない”?

「や…兄様、神になろう!!」

「何だって?!」


阻害魔法で隠していた子ども達を魔法陣の外へ運び、神官達は部屋の隅に寄せて子ども達の死角に、念の為にミネルバ女史に部屋全体に隠蔽魔法を掛けて貰って準備は整った。

合図を送るとミネルバ女史は起床用の楽器を取り出し思い切り吹き鳴らした。

「皆さん、起床の時間です。起きてください」

ミネルバ女史は綺麗な一拍子でブブゼラを吹き鳴らす。いや、ずっと思っていたけどなんでだよ!!なんで教会の起床音がトランペット通り越してブブゼラなんだよ!!

道理で何か聞いた事ある音だと思ったよ!!

「なに〜…」「どうしたの?…」「眠ィ」

しばらくすると子ども達は目元を擦りながら目を覚ました。

コホン…気を取り直して計画通りに。

「【光:投影】」

清和ちゃんの光魔法で先程の神官とのやり取りが映し出される。まるで神官たちが悪役のように巧妙に切り取られた映像に子ども達の不信感は募っていくのが分かる。ちなみにミネルバ女史に関しては被害者のような感じにしてあるからむしろ庇ってくれたって子ども達の好感度は高めよ。

「女神に代わり、黒玉様が私たちを悪魔に取り憑かれた神官達から守ってくれたのです」

胸の前で指を組みながらミネルバ女史がそう嘯くと子ども達も真似て密かに映像に出てきた黒い神に感謝を述べ始める。

おぉ!!なんか子ども達の身体からモヤが出てきてクロスケに吸い込まれていってる、これが信仰心なのかね。


ヨシ、信仰集め完了!!

クロスケもいつか夢の中で見た人型になっていた。

「主ども、信仰集めご苦労だったな。不完全だが、そこにいる人間全員に魔法を掛けることが出来るぜ!!」

おぉ、腹に響くバリトンボイス。重厚感が半端ねぇ(*´Д`*)ハァハァ

「起きろ、過ぎ去りし栄光という名の呪縛に縋る者共よ『黒玉の名において固有魔法の使用を宣言する―――仔羊共よ、汝を過去に縛るその呪縛、今解き外そう【黒玉:忘却】』」

クロスケ否、黒玉が隅に積み上がっている上位神官達に左手を掲げながら詠唱すると彼らの耳や目、身体の穴という穴から黒い液体が流れ出て黒玉の左手に集まり一塊になってゆく。黒い液体を出し切った神官達は先程よりどこかスッキリとした表情をして眠っている。

これが固有魔法の効果か、いや思っていたよりグロッ( ・ ω ・)キッショ……

黒玉は飴玉サイズに凝縮された黒い液体をパクリと飲み込んだ。

『個体名:クロスケから【信仰魔法】を取得しました。』

何これ、頭の中に文章浮かび上がったんだけど。もしかして、さっきの神官達から抽出した黒い液体がクロスケ経由で主である私たちに受け渡されたとか?後で影の中で練習してみよ。

そう思っているとミネルバ女史が腰から下げた懐中時計を見て、就寝時間だからと子ども達を連れて儀式の間から出ていった。しっかり気絶中の神官共に氷水ぶっかけて起こす事も忘れずに。コッソリと死なない程度に冷風が当たるように調節したのは秘密だぜ☆


翌日、通報を受けた騎士団に神官共(風邪気味)はしょっぴかれ、捕まっていた貴族の子息・令嬢は保護された。ちなみに孤児院から集められた子ども達は他に身寄りが無いと言うので今回の一件に一切関わっていなかった神官達(not女神信徒)が見習いとして教育する事になった。

ミネルバ女史は事後処理に追われていたが、流石長年幽閉されていたとはいえ司祭、数日で事を納めてしまった。

そんな彼女に呼ばれ教堂に行くと黒衣に身を包んだミネルバ女史改めミネルバ司教が十字架に蛇の巻きついたデザインのロザリオを握りながら祈っていた。なんというか、凄く絵になる!!

「失礼しました、主様方」

こちらに気がついた彼女は服の裾を整えながら立ち上がり、にこやかな笑みを浮かべ振り返った。ステンドグラスから差し込む光も合わさってとても綺麗だと思いました、まる。

やっぱりミネルバ司教ってイエベじゃなくてブルベだったんだ。洗脳されてた時よりも綺麗に見える。いや、そうじゃなくて

「ミネルバ司教、主様だけは辞めて下さい」

「この前みたいに普通に呼んでください」

「ですが、お二人は黒玉様の主ではないでしょうか」

そうなんだけどそうじゃないと言うか、クロスケは弥生君の魔力で召喚して私が名付け親だから二人で主になっているけど、元を辿れば邪神黒玉は母の伯父で悪魔である父の上司兼主だっていうから黒玉にとっては私たちは眷属の子だから…一言で表すならややこしい!!

「嫌なようでしたらせめてティガ様、リマ様、ウムパッ様と呼ばせて下さい。」

3人で百面相をしているとミネルバ司教は何かを察したのかそう提案してくれた。…ティガ、リマ、ウムパッって誰だっけ?

「姉様、拙者達の本来の名前っスよ」

コソッと清和ちゃんが耳打ちしてくれた。あっ、最近ずっと前世名と偽名で呼ばれてたから忘れていたわ。あれ、でも私たちミネルバ女史に名前を教えたっけ?

「何を言っているのですか、ミネルバ司教。自分達の名はティガ、リマ、ウムパッではなく、ノワール、ルージュ、ブランですよ。」

弥生君がやんわりと訂正したがミネルバ司教は笑みを崩さず首を振る。

「実は仮にも司祭でしたので初対面の相手には鑑定魔法を使う様にしているのです。あぁ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ、内容は私しか知らないので。あと、立場は私の方が下なのでこの前みたいに気軽に話してください、流石に少し寂しいです。」

「えぇっと、ありがとう。ミネルバ司教。」

「Don't worryです。」

そう言ってウィンクした彼女はどうやら全て知った上で漆黒教司教になってくれたらしい。

改めて凄い人なんだなって思ったね、ミネルバ司教の事。泣いていた印象が強くて残念な美人枠から外れないけど。

「ところでそろそろ今日呼び出された要件について教えて貰ってもいいか?」

弥生君がソッと手を挙げミネルバ司教に質問した。そうだそうだ、今日は彼女から渡したい物があるって言われて来たんだった。ミネルバ司教もあっ|゚Д゚)))みたいな顔をしていた。…忘れていたのね。

「そうでした。これを貴方達に渡そうと思いまして。」

ミネルバ司教は鍵束と繊細な細工が彫られた箱を取り出した。

鍵束はこの教会の資料室から始まって重要な部屋の司教だけが持つ事の許されるマスターキーで、箱の中には大振りなジェットが3個入っていた。しかもうっすらと魔力を感じる。

「ホォ、俺様ヘノ供物カ」

いつの間にか居たクロスケが尻尾で箱の中のジェットを弾き出し、箱を覗き込んでいた私達の影に落とすと黒い光が溢れ三尾の蛇が影から出てきた。三尾はシュルシュルと各々私たちの足首に巻き付くと蛇を模したアンクレットに変化した。

「影を媒体にした生命と物質の混合創造ですか。中々興味深いですね。」

「マァ、色々ト条件ガ揃ワネェト出来ナイガナ」

ミネルバ司教が感心したようにアンクレットについてクロスケに聞いているけど、ビックリした!!

鑑定を使ってみると以下の情報が表示された。

『【漆黒教御神体 №2】Lv17

effect:

魔力増幅

闇・聖以外の魔法無効

独立行動・魔法操作(弱)

感覚共有

魔法(黒玉)使用可

remarks:

彼らが祀る神である黒玉の魔力が込められたジェットを使用し造られた物質でもあり、生物でもある何か』

恐る恐る触れてみると明らかに金属の様な手触りなのに微かに鼓動を感じる。

(でも目立つな、コレ)

そう思っていると思考を読み取ったかのように擬態していた蛇は頭をズブリと私の脛に食い込ませ、3次元から2次元に、その身を今度は刺青に変化させ皮膚に潜り込ませた。

「す、凄ェ気持ち悪!!」

思わず叫ぶとピクリッと刺青が動いた。

「あぁ、ゴメン。悪い意味じゃなくて本当にいい意味で言ったと言うかなんというか…」

ジワジワと拒絶されたという悲しみが伝わってきたので慌てて刺青を撫でながら誤解を解こうとするが上手く言葉に表せない。傷付けるつもりじゃなくて有能だから凄いと思って、それで気持ち悪いって出たというか…あぁ、もうこんな時に肝心の語彙が無い!!

でも、そんな私の思考を読み取ったのか気にしてないとでも言うようにスルリと蛇は刺青から実体化し私の頬に身を擦り寄せた。か、可愛い((o(。・ω・。)o))

確か爬虫類って人に慣れるだけで懐かないって言われているけど、これはこれで絆されるわ。

「我が教会の奥深くに眠っていた品だったのですが役に立ったようで何よりです。」

ミネルバ司教はホッとしたように胸に手を当て頭を下げた。

「あと、此方も。皆様の名前が書かれた差出人不明の手紙です。」

そして思い出したように懐から手紙を取り出した。その手紙は最初、この教会を調べるようにと書かれた便箋と同じ物で、確かに両親の字だった。

内容はもう大丈夫そうなので手紙の移動用影魔法陣が一週間後に発動すると言うことだった。

あー、うん。もういいのか。

なんと言うか早いな、情報が。

「両親からの手紙でした。」

「一週間後に転移魔法が発動するっス」

「ミネルバ司教、短い間でしたがお世話になりました。」

頭を下げるとミネルバ司教は困惑しながらも納得してくれた。

「はぁ、一週間後ですか。もう少しお礼をしたかったのですが、私が持ち得る知識を全てお渡しするには充分です。」

それから、ミッチリとこの世界の常識と信仰魔法についてミネルバ司教直々に教えて貰った。一週間後、物置部屋にて、手紙を開くと魔法陣が浮かび上がり、私達の身体が自身の影に沈み始めた。

「時間差で発動するなんて凄い高度な技術ですね。黒玉様の眷属であるお2人と一度お話してみたい気持ちと、恐れ多い気持ちで複雑です。」

魔法陣を覗き込みながらミネルバ司教は呟いた。ちなみにこの場にいるのは私達と見送り兼見張りのミネルバ司教だけ。この一週間で両親から教えて貰った知識以外、世間一般の意見を聞けて良かったわ。やっぱり両親は元天使と神の眷属だけあって世間の認識と少しズレてた。

「また何時でも、遊びに来てください。…あ、忘れる所でした。これお土産です。」

沈む影に箱を放り込まれたげどこの世界って何か渡す時って綺麗な箱に入れて投げる習慣でもあるのかね。箱はお洒落だから小物入れにして使っているけど。

こうして教会での騒動は幕を閉じた。

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