幸せな負け――西さんち

西しまこ

第1話

 しまこちゃんは、長男くんに問題を出されました。

「2022を2022乗したときの最後の数は何?」

「……わかんない」

 次男くんは「4!」と即答しました。

「正解!」と長男くんは言いました。


  *


 赤ちゃんだったころ、お世話されるだけだったふたり。

 壊れもののように、そうっと扱いました。だいじにだいじに。

 はいはいをするようになり、歩くようになり、ことばも出るようになり。


「雲のせんろがあるよ」と、長男くんは飛行機雲を指して言いました。

「そうだねえ。雲の線路だね。どんな電車が通るのかなあ」

「しんかんせんかなあ」

 そう言いながら、お散歩をした日々。

 蟻の行列をいっしょにじっと眺めたり、ブランコを押してあげたり。


 次男くんは、長男くんが幼稚園に行くとき、毎日いっしょに行っていたのに、自分が行くというときになったら、なぜか行きたくなくなったりしました。うまく通えるようになっても、夏休み明けにはまた「知らない場所」になったのか、門から入れなくなりました。お友だちと手をつないだら、ようやく入って行くことが出来るようになったのです。

 たぶん、まったく覚えていないだろうけれど。


 絵本を読みながらことばを覚え、二人とも数字が好きだったので、問題を出したり。

 小さいころ、長男くんはなぜかマイナスが出てくる問題にはまっていました。

 次男くんは大きい数の問題にはまっていました。

 よく、口頭で問題を出してあげたものです。


「あめを9個持っていました。4人に3個ずつ配りました。いくつ足りない?」

「一台300万円の車と一台400万円の車を買いました。全部でいくらでしょう?」


 懐かしい想い出です。


 *


「ねえねえ、どうして4なの?」としまこちゃんは聞きました。

「下一桁が、2、4、8、6 になるでしょ? 2022割る4をすると、505あまり2なるよね? だから、答えは4!」

「えーと、なんで4なの?」

「あほじゃん? ぷーくすくす的な?」


 ばかにされました。

 ほんとうに答えが「4」かどうかは、しまこちゃんには検証のしようがありません。でもいいや、と思いました。

 負けです。

 こういう問題で勝てることはないようです。

 でもいいやって思いました。




   了



一話完結です。

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◎「西さんち」

https://kakuyomu.jp/works/16817330652170961272


☆これまでのショートショート☆

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