[ ]

 目が覚めた時、部屋の明かりは点いたまま、ラジオも流れたまま。吉村と酒を飲んでいて、いつの間にか眠ってしまったらしい。仰臥の姿勢のまま、壁に掛けた時計を見る。23時45分。この時刻を、今これを叙している私は、覚えている。

 上体を起こし、あれ、アニキがいないぞと気づいた。ワンルームの狭い室をキョロキョロと見まわし、どこにも吉村の姿を見つけられず、チラと目をやった玄関ドアの鍵が、ちゃんと施錠されて居、復、窓の方もキチっと締められて、こちらも鍵が掛かったままなのを確認し、怪訝に思って……

「うわぁっ」私は悲鳴を上げた。

 部屋中、ヤモリたちの死骸が落ちていた。先般まで、壁や天井へ張りついていたヤモリたち。それが今や、すべて死んで、畳の上に、ヤモリの死骸が、散らばっていた。ヤモリの死骸はすべて、頭が無かった。首元の様子からして、ヤモリたちは、その頭を、明らかに、何者かによって、引きちぎられていた。そして、ヤモリの頭は、室の何処にも、見当たらなかった。

 <これ、アニキがやったのか? アニキは何処に往ったんだ?>

 文机の上、自宅の鍵は置いてあった。つまり、吉村が勝手に鍵を持ち出して、施錠してから出かけたという訳ではなかろう。

 併し、ここまでクドクドと繰り返して来たように、私は狂的な次元の、病疾めいた糞馬鹿だった。

 <判ったぞ! あの腐れヒョロ長馬鹿は、ヒステリーを起こしたんだ! それで、おれの就寝中にヤモリを皆殺しにして、その頭を食いちぎったんだ! あのサイコ野郎! それで、すっかり狂気に飲み込まれたアイツは、部屋を飛び出しやがったんだ! 部屋が密室状態なのも、何てことはない、トリックも糞もなく、野郎がピッキング技術を持っていやがったんだ! やつは発狂状態でありながらも、一度、おれの部屋を出てから、なにかしらの小道具を使って、おれの室の鍵を閉めやがったんだ!>

 度外れの間抜け野郎であった私は、最早てめえの方が余程ヒステリーであり、復、とんだ気狂い野郎じゃねえかとツッコミをされて然るべき、杜漏極まり無い判断を下した。

「あの馬鹿野郎、ブチのめしてやる! 」

 私は怒りに満ち満ちて怒鳴ってから、先ず、ヤモリの死骸を片づけ始めた。それが終わると、台所の包丁を手にし、表へ出た。吉村の部屋を訪うつもりだった。他人様の部屋で、何の断りも無く、狂的残酷なイモリ食べ放題パーティーを開催したイカれ野郎を、罰さねばならぬ!!!

 私はそもそもが小心でありつつ、一方病的な癇癪持ちであり、なんらかの外的要因によってパニックめいた怒りを惹起されたが最後、どうにも制御不能アウト・オブ・コントロール狂戦士バーサーカーめいた振舞いをしてしまう、宿痾めいた悪癖ネヴァー・エンディング・カースを有していた。

 無論、ハナ吉村を殺すつもりなぞ無かった。錯乱まがいの怒りを抱えていながら、頭の隅、どこか離人症めいた冷静な部分があった。つまる処、あくまで包丁は脅しの道具として持ち出したに過ぎぬ。ただ、ここまで馬鹿のひとつ覚えに何度も説明した通り、私はそもそもが度外れの糞馬鹿であったから、包丁を持ち出してしまえば、あっという間に警察沙汰に成り兼ねないし、その段になって、やれ殺意はありませんでしたなぞと弁明した処で、そんな言い訳は通用するハズが無いということに、欠片も思いが及ばなかったのである。


[]

「おうおう、糞サイコ野郎がよぉ! 覚悟はできてんだろうなぁ! 吉村クゥゥン!!!」

 私は、己が室の扉を蹴破るように開け、外へ飛び出し、ハナ在宅しているかも判らぬ吉村に向かって怒声を上げ、階段を下りて往こうと……

 吉村の部屋の前に、誰かがいた。

 アイツは、真っ白であった。

 マオカラースーツのような真っ白の服を着、袖口から飛び出す手も真っ白。頭も剃髪しているのか、ツルリとした真ん丸、真っ白である。色白という次元の白さではなかった。アルビノというのでもない。最早、陶器めいた白さ、決して、生き物が所有できる白さではなかった。

 そいつが吉村の室に向かって、突っ立っている。おかしい。なんで、おれは、アイツの、ことを、視認、できたんだ?、、あの時?


[]

 夙、述べた通り、アパート、人気の無い、木立の裡、建って、た。近く外灯は無く、アパートの廊下電灯は無かった。つまり、夜ば、アパートの周囲、暗黒、、、の世界と、なるのである。併し、私は、吉村の部屋前、アイツが、真白で、頭も剃っ、てうな真ん丸で、


[]

ということを、認識、る。

 ――アイツ自体、あいつが……私はそう思っ


[]

そうだあいつ自体が発光しているとしか考えられねえよ。あの時だって今だって。そんなわけはねえけどさ、だってそうとしか考えられねえだろ。おれは、ひかって、いま書いてるのは何だ?これは何を書いて、いる、だ mmだんだ?


 おれはあいつのことを、階段の上から凝と見ていたんだ。そしたら、あいつは頭をガクガク揺らし始めて、でも、首から下はいっさい動かさねえんだ、微塵も。


 そしたら首だけがぐるり360度回転したんだよ。何度も何度も。胴体はちっとも動かねえんだ。何度も首がグルグルグルグルグルまわってそれがある時、ピタっと、止まって。


[]

私の方を向いて、止まった。


[]

さっきも言ったけど、アイツは吉村の部屋の方を向いて突っ立てて、首は回転しても胴体はそのままだったんだ。それでその姿勢のまま、蟹みてえにおれの方へ走ってきて、かいだんをかけのぼって、その間も首はグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグル

あいつはおれのまえにきておれのかたをガチっとおれの両肩をガチっとつかんで肩をつかんでつかんで肩を

その間も首が頭がグルグルグルグルしてて


ピタっと首が止まっておれのほうを向いたんだ


[]

 アイツには目がなかっ。本来なら、、眼球があるべき その部分には、白一色が広がっていた。    眼窩の裡在ったのは、ただの [   ] 白い空間。その白が、おそらくは私のことを見据えていた。実際、私は真っ白なそこ、

  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]  [  ]

                         [  ]


強烈な視線を感じて。アイツの口が耳元まで裂け、真っ赤な口内が見え。


[]

「いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないで


[]

すか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃない


[]

ですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか。いい話じゃないですか」


[]

 アイツは言った。


[4]

 私は失神した。朝、私は階段で目覚めた。小便を漏らして居、おまけに脱糞までして居た。包丁は消えていた。


[4]

 私は狂乱めいた身の裡、起きて直ぐ、小便と糞に汚れた状態のまま、吉村の室の扉を叩いた。

「アニキ、開けてください! いないんですか? 吉村さん、吉村さん! 吉村! 開けろコラァッ!てめぇ、吉村ァッ!!! 」

 反応は無かった。私は、ドアノブを捻った。扉が開いた。鍵は掛かっていなかった。吉村はいなかった。部屋は綺麗に整頓されていた。だが、空気がえらい生臭かった。私は臭いの発生源を探したが、見つからなかった。部屋の時計を見て、9:45という時刻を確認した。

 私は吉村の部屋を出、自室に戻った。

 先ず、ズボンとパンツを脱いだ。トイレットペーパーでケツを拭いた。新しいパンツを履いた。窓を開いて、糞まみれのパンツを、木立に向かって投げ捨てた。私は動顛した。そして、とりあえずは、体を洗いたいと思った。


[4]

 私は銭湯に往った。私は銭湯の常連であったので、銭湯の店主とも顔なじみだった。

「おう、武座馬ちゃん。早いね」銭湯のジジイが、番台から私に挨拶した。私は無視した。

 体を洗って、浴槽に浸かった。私の頭、空白であった。パニックを起こして、まともな稼働ができなかった。

 風呂を出て体を拭き、ドライヤーで髪を乾かし、服を着、自販機でフルーツ牛乳を購めて飲んだ。その頃には、私は幾分か正気を取り戻した。

 男湯の方には、私の他は誰もいなかった。恐らくは女湯にも、誰もいなかったのだろう。私が椅子に座って呆っとしていると、銭湯のジジイが近づいてきた。

「武座馬ちゃん、識り合いから預かりもんだよ」

「はい?」

「ほれ、これ」

 ジジイは茶封筒を私に手渡してから、番台へと戻った。

 何の変哲も無い、茶封筒。封筒の口は糊付けされていた。開封した。中には便箋が入っていた。それを読んだ。

 

 "" ●●県●●市●●区●●町●●-●● お越しください ""

 

 ひどい金釘文字で、そう書かれていた。

 私は番台へ駆け寄った。

「ねぇ、これをアンタへ預けたのは誰ですか」私はオヤジに訊ねた。

「え、和服を着た、品の好い感じの婆さんだったよ」

「おれには、この辺りに識り合いなんていねえんですよ。特に、そんな和服ババアなんて、心当たりありませんぜ」

「えぇ? だって、""いま湯あみされてる、武座馬さんに渡して下さる? "" って言われたんだぜ」

 私は暫時、黙った。

「そのババアは、どんな面をしてやがったんですか」

「だから、和服姿の品の好さそうなご婦人……」

「身なりのことじゃねえ、面はどんなだって訊いてんだろうが、耄碌ジジイ! おれにはババアの識り合いなぞいやしねえんだよ。てめえは相手の素性も確かめねえでおいて、入浴中の無防備な客の情報を売り渡しやがって!」

「売り渡すって、そんな言い方ないだろ。向こうさんは、武座馬ちゃんの名前を出してきたんだよ。それなりに親しい人だと思うのは、変でもないだろ?」

 読者諸賢には、私が狂的な癇癖持ちである旨、先述した。この時も、なんというか魯鈍なジジイの物言いに腹を立てていたのだが、より正確に、往時の身の裡を検分してみれば、あれは怒りというよりも、恐怖によるヒステリーと評した方が好いだろう。

 私は、言葉にならない絶叫をして、飲みかけのフルーツ牛乳の壜をジジイに向かって投げつけ、靴を下駄箱から出すこともせず、裸足のまま銭湯を飛び出した。


[]

 自分でも、おかしいと思う。叙している、内容が。今、これを書きながら、冒頭から読み直している。どうも、あの、変な、否、あの晩の、あの出来事について、ちがう、アイツらへと、追想が及ぶと、頭が、なんというか、ゾワゾワというか、変な感じになって。変になる。


[]

 少し記憶があいまいになっている。私は銭湯を出て、部屋に戻って。もう一度吉村の部屋を見たら相変わらずいない。階段をのぼって、

私の室のドアに、さくばんおれが持ち出した包丁が突き刺さっていた。私はギョッとし、恐ろしくなって復、失禁した。脱糞もした。


[] 

確か、吉村はあのまま、帰ってこなかったんだ。大家が「どっかに往っちまいやがった」とか言って、親族だって言う人たちが荷物を取りにきたけど、おれは、ろくに口も利けなくて。話しかけたんだぜ。無視されたんだ。


[]

ぜんぶ。


[]

 おれも結局、すぐに部屋を引き払ったんだ。

 そうだ、あの、銭湯で渡された、封筒に、入ってた。あの便箋の、住所を、後になって、ネットカフェで、調べてみたんだ。そうしたら、そんな住所はなかったんだ。なんでだろう、


あのときの封筒を捨てずに、家へ持ち帰って、いたんだね。

[]

それで、

[]

封筒の処理に困って、だって、捨てるのも、破るのも、 燃やすのも、怖かったんだ。

近くに、日蓮宗の、立派な、お寺が、あって、そこの、お賽銭箱に、どうにかしてください、って、お祈り、しながら、入れた、その、便箋と封筒を

そしたら、2週間後くらいに、お寺が、燃えちゃったんだ。


[]

 おれは趣味で、去年の夏に、小説を書き始めたんだ。

そういえば


[]

、こういう、こわい思い出

あるんだって、このまえ、おもいだしたんだな

[]


なんで、忘れていたんだろう。

文章をかこう、せっかくだから、これも小説にしようとおもったんだ

でも、思い出すうちnこわくなっちゃった


[]

ハナ小説のあらすじをかいたり、これはしんかん新感覚のほらーだぞなんて

書き始めて、あらすじもかいちゃって、でもおもいだして うちに、あたまがまとまらなくなってきて

[]

ずっとおかしいし。


吉村さんさようならさようなら、さようなら


[]


あのアパートを去って、私は幾つもの土地を、あちらこちらへと引っ越し。そうです、おれはもともとがフラフラしていた、のである。なので、数年後に、あのアパートの場所に戻ってみた

あれは悪い夢だったんだって確かめるつもりだった。私は、。昼に


アパートは無かったよ


[]

でも、あれがいた。


アパートがなくなった木立に。

おめでとうございます。ってつたえました。

[]


あれが増えて、あれたちになった。

[]

緑色の壜の中に居るような木漏れ日に照らされ、金縛りにあったかのように立ち尽くし

なんでおこしいただけなかったのでしょうか


あれたちがおれを囲んで、あれたちの頭だと思うあれがみんな

グルグルググルグルグルグルグルグルグル


おこられた。あの住所のことですね。だってあの住所存在しねえもん。理不尽


[]

 併し、そもそもが嫉妬深くできている私は、心中、伴侶をむかえた吉村に対し、なんおも。

うらやましいじゃないですか。だって。おそらくは高貴な家の人々とも

評判の塁を摩するであろう、ひとたち、


ひとか?あれ


引きでものを、わたしは、あの人たちから、諸賢に説明すれば、夫婦の代理人たちから恵えられたのであった。

 

[]


 美しい漆器。

開けてみると、たくさんの爪が入っていた。自分の爪と見比べてみると、箱の中に容れてあった爪は、すべて小指のもの

と、私は検討をつけました


[]

おれは私小説をかいてる人だから、嘘じゃないですでもどうかな、もともとは自分のたいけんなんだよ


[]

   つかれたから


[]

叙しながら、先ほど、グーグルストリートビューにて、おれは、アパートの位置を見てみた。

 ディスプレイには、更地。あの人気のない木立。


[]

 さっき、横で、窓をコンコンとノックする音が聞こえていた。叙していた時。


「吉村ですー。吉村ですー。吉村だよ。█████君、吉村―。ですよー。吉村だー。█████くん、吉村だよー」私の本名を呼ぶ。

 カーテンを開くと、磨りガラスの向こうで、人影があって、その、頭の、部分が、

グルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグル


[]

 やはり、いちど黄泉へと下ってしまえば、

いくらもとの世界へもどってきても、それは、

ヒトとは違うものになっているのだ。

そうですよ。おねがいだから、おれのことは放っておいてください。

私は小便を漏らした脱糞もした


「帰れ」怒罵。


 おしあわせにしてください。


[]

失禁と脱糞汚れたから、風呂に入った。風呂場で、鏡で、私の首グルグルグルグル。換気扇から、何か言っていた。「御前に時の花」という

ワードだけは聴き取れたのでしたが。

だれだよ

ずぅぅっと鏡の中でグルグルグルグル。くどい。

私はまた小便漏らしと脱糞した。洗い直し面倒くさかった。ふざけるなよカスが


[]

、もう書かないおわり。おわりです。寝ます。、きっとねむればよくなるしもうだいじょうぶだよ、また忘れる。たのむたすけて


 アニキは帰ったみたいです。うるせえよ。うるさかった。

多分もともと、今のは吉村ではなかったな。いや、吉村だったかな。

そんなのは、もうどうだっていい次元だと思います。おめでとうございます


ケッコンの話だから、おめでたいお話だからです、そもそも。

れかしらには刺さると思うけど、だれか一人でも好きになってくれたらそうだとしたら、、。もともとがお見合いのお話で


おしあわせなお話と存じますから、きっとそれは、それでだれかに好かれれば 、きっとそれはだって

[]


      

  いい話じゃないですか







<了>

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