第二話 王子様の登場
万里に声をかけた彼――マルクは、ちゃんと見えているのかというくらい細く、けれどその隙間から覗いた綺麗な紫色の瞳で彼女を見た後、手をとって歩き始めた。自然、引きずられないように万里も立ち上がって歩く。どうやらあちらに見えるヨーロッパ風のお城へと向かうらしい。
二人は庭園を進んでいく。そこはテレビで見たことのあるヨーロッパのようでもあるが、それにしては薔薇は水色であるし、彼女の目の前にある背中には一つにまとめられた髪がひとふさ流れ揺れている。
万里はそのような髪型の男子を他に見た事がない。服も洋服ではなく本当に有名な映画や絵本に出てくる王子様のそれである。
さらに、お城のような建物は、屋根は円錐型で深い赤、城壁は白く輝く石でできている上そこかしこに銀の装飾が施されている。日本の常識が通らなさそうな雰囲気を感じて、彼女は心細い気持ちになった。
彼は確かな足取りで眼前まで迫ったお城に入っていく。どうやらこの城の人間らしい。赤い絨毯の敷かれた城内を勝手知ったるふうに歩き、ある地点まで行くとドアの前で足を止め、その扉を開けた。目的地に着いたようだ。
「カレン、いるかカレン」
「はいマルク様」
「この者を綺麗にしてくれないか、ついでに適当な服を
「はい、わかりました」
万里は手を離されて軽く前に背中を押され、「カレン」と呼ばれた女の人の方へとやられる。そして良いともやめてとも言えないまま、頭から足の爪の先までぴかぴかにされ、服までも貸してもらったのだった。
「……あり、がとう、ございました。あの、服」
「ああ、服は新品だろうから気にせずもらっておいてください」
「ありがとう、こざいます」
「いえ。それで、あなたは何故我が城の庭に?」
当然のことをきかれ、彼女はなんと言うべきかわからなくて、結局正直に起こったことを話した。
「ふむ……それではその神のような老人に無理矢理ここに連れてこられてしまったのですね。魔法少女……知らない言葉です。どのような人なんでしょう?」
『よくぞきいてくれたあああ! 百聞は一見にしかずぅ! とくと見よ!!』
ボムっという音とともに虹色の
その後、霧が晴れるように煙幕がひくと彼女の着ていたこちらの服は、ミニスカの
「なっ……! 人権侵害!!」
『神は人ではないので適応外ぢゃ』
「いきなり、服が変わった……」
マルクの言葉で彼女はハッとする。
(ここには彼もいたんだった!)
万里は慌ててしゃがんだ。自分が目こそぱっちりだけど鼻もちょっと大きめなくせに唇は薄く、お世辞でも可愛い部類でないのは知っているのだ。
けれど気にしたのは万里だけだったようで、彼らは気にもせず。特にマルクは服が変わったというその事実の方が気になるらしい。彼女のことをしげしげと眺めながら口を開いた。
「これはどういう仕組みなんだい?」
「……さぁ、私にもよくわかりません」
「そうですか。けれどこれで、君がこの世界の人間ではないことは理解できました。結婚してくれないかい?」
「はい?!」
※
彼――この国の王太子、すなわち第一王子にして国の
この国、アンデル王国では今政治を国王と共に行なっている貴族という身分が偉い人の一部が、力を持ち出していて国王に成り代わろうと、王太子の奥さんの座をかけての争いを密かに行っているという。
なぜ直接国王を排してしまわないか。
それは、国王の奥さんの父、として政治へ口を出した方が王を殺して成り代わるより周囲の反感を買いにくいからだ。
そのような訳で、命こそ取られはしないが力関係がとても難しくなっているらしく。長引けば、国が傾きかねないとずっと困っていたそうだ。現に貴族の女の子の中には、精神を病んでしまって家から出て来れなくなった子などが、出てしまっているらしい。
幼馴染の女の子の家も、身分が低いせいで狙われて大変なのだ、とマルクは万里へと説明をした。
こんな状態で、貴族の中からお嫁さん候補を出しても、例えば平民――貴族以外の国民――の中から選んだとしても、成り代わろうとする勢力に食い物にされてしまう。そんなところに、ちょうど現れたのがこの世界となんの関わりもない彼女で。しかも嘘か
ちょうど良かったらしい。
(わかってますよ! 一目惚れされちゃった?! とか、ぬか喜びなんてしてないんだから! 絶対……)
結果的に、神様と、マルクと、万里の利害は一致した。
神様は異世界の危機を魔法少女でもって救いたい。
マルク王子は自分の国を守りたい。
万里はとっとと帰りたいなら、国を守って異世界を救って帰してもらわないといけない。
(私が帰らなきゃ弟がきっとお母さんから叩かれちゃう。それだけは嫌。絶対、帰るんだから)
万里はそう、決意した。
結論からいうと、マルクの手助けは彼女にとってとても助かるものだった。住むところも身分もマルクが用意をしてくれ、困ることがない。住まわせてくれた貴族の大人達はとても親身になってくれるし、その子供であるマルクの幼馴染という
「マリー、このドレスなんてどうかしら?」
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