ディメンション・スライサー

ぺらねこ(゚、 。 7ノ

世界を止めろ。次元を圧縮しろ

 写真を撮るということは、世界を圧縮することだ。自分が撮影したその瞬間だけは、自分のものにできる。

 カメラによって好きな時間を無限に留めることができるとはいえ、撮影された写真には、僅かな時間軸の長さを持つ。つまり、シャッタースピードの間に起きた光景が1枚の写真には含まれているということだ。

 どんなに短い時間であろうと、その時間に長さがある以上、写真というのは動画でもある。たとえ、1/40000秒のシャッタースピードであろうとも、真の瞬間、0秒間を撮影することはできない。

 カメラというのはもどかしい道具であり、そこにある光を通してしか、撮影ができない。

 逆説的に言うと、光によって投影された影で二次元そのものを写し撮る機械なのである。

 写真撮影用のレンズとカメラは、眼の前の三次元を二次元に落としこむ道具だ。撮影された写真から手前と奥行きを判断しているのは、その写真を鑑賞する人間が勝手にやっていることであり、自分の目からカメラとレンズを通してみた世界には、合焦面とその前後だけが存在する。

 合焦面の厚みは常に0である。なぜなら、合焦面は2次元だからだ。実際にはその前後も写真に写るが、その面からの距離が離れれば離れるほど、曖昧模糊としたものになっていく。よく言うピントがあっていない状態だ。

 しかし、合焦している面と、そうではない部分の写り方の違いは、撮影者が現実に介入する手段として利用することもできる。

 写真にストーリーを持たせるため、またはその写真の主人公が誰なのか、もしくは何を撮りたかったのかを明確にするために使うのだ。

 カメラを持った人間は、三次元に対する反逆者だ。もしくは、せっかくの三次元を逸脱するアウトローだ。

 だからこそ、カメラには魅力がある。あらゆる道具の中で一番手早く真の二次元を切り出すことができるからだ。

 俺は二次元から来たモンスターだ。三次元のルールなど知らない。三次元人の決めたルールなど、二次元を見据えている俺の目には不要だ。

 写真には人間同士のルールは写らない。人間の顔は写せても、表情だけで内心を読むことはできない。おまえたちも二次元に落とし込んでやる。時間を切り刻み、色と点と線の集合にしてやるんだ。

 この世で一番破壊的な力を持つ道具はカメラだ。その力でこの世のすべてを二次元にしてやれ。

 二次元の目で三次元を見て、面白そうな光景をみつけたら、すべてペタンコにしてやるんだ。

 二次元に閉じ込められ、時間を極端に制限された三次元の人間ども。俺はお前たちに不死性を与えたとも言える。データであれ、紙焼きの写真であれ、正しく保存すれば人の一生を遥かに超える永さで保存できる。

 これが神の力でなくてなんだというのだ。

 だから、俺はカメラを握る。


 世界を切り刻むために。

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