第8話「漫画に出てくるお料理を作っちゃお!」

 黒睡蓮女学院の漫画研究部の部室に、春の柔らかな日差しが差し込んでいた。壁には新しく貼り替えられたパステルカラーの壁紙が華やかさを添え、整理された本棚には漫画の単行本が整然と並んでいる。窓際には観葉植物が置かれ、部室全体が明るく居心地の良い雰囲気を醸し出していた。


 柚子、瑠璃、鏡花の3人は、新しく寄贈された電子レンジと小型のIHクッキングヒーターを囲んで、興奮気味に話し合っていた。


「ねえねえ、これで部室でお料理できるようになったねぇ~!」柚子が目を輝かせながら言った。


「そうね。でも、あまり騒がしくならないように気をつけないと」瑠璃が少し心配そうに付け加えた。


「まあまあ、たまにはええやろ。せっかくやし、なんか面白いことせえへん?」鏡花がニヤリと笑いながら提案した。


 柚子は突然、何かを思いついたように飛び上がった。


「あ! そうだ! 漫画に出てくるお料理を再現する大会をしようよぅ~!」


 瑠璃と鏡花は驚いた表情で柚子を見つめた。


「漫画の料理?」

「おお、それええな!」


 柚子は嬉しそうに説明を始めた。


「そう! みんなが好きな漫画に出てくるお料理を作って、どれが一番美味しいか競争しようよぅ~」


 瑠璃は少し考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。


「なるほど。確かに面白そうね。でも、審査はどうするの?」


 鏡花が手を挙げた。


「それなら、ウチらで作ったもん持ち寄って、お互いに採点したらええんちゃう?」


 柚子は大きく頷いた。


「うんうん、それいいねぇ~! じゃあ、決まりだね!」


 3人は興奮して、それぞれどの漫画の料理を作るか考え始めた。


「私は絶対『食戟のソーマ』!」柚子が真っ先に宣言した。


「へえ、結構難しそうね」瑠璃が感心したように言った。


「ウチは『ジョジョの奇妙な冒険』や!」鏡花も負けじと言った。


 瑠璃は少し考えてから、「私は『名探偵コナン』の喫茶ポアロのレモンパイを作ってみようかしら」と決めた。


 3人は料理の準備を始めた。柚子はスマートフォンで『食戟のソーマ』の料理レシピを検索し、瑠璃は『名探偵コナン』の原作を読み返してレモンパイのイメージを膨らませ、鏡花は『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくるイタリア料理の本を広げていた。


「ねえねえ、みんな準備できた?」柚子が声をかけた。


「ええ、大丈夫よ」瑠璃が落ち着いた様子で答えた。


「おう、いつでも行けるで!」鏡花も意気込んでいた。


 3人は料理を始めた。部室には様々な香りが漂い始め、にぎやかな雰囲気に包まれた。


 柚子は『食戟のソーマ』から、「変幻自在のめっちゃ美味しい炒飯」を作ることにした。


「えっと、まずは卵を割って……あれ? 殻が入っちゃった!」


 柚子は慌てて卵の殻を取り除こうとするが、うまくいかない。


「もう! なんで漫画みたいにスムーズにいかないのぉ~」


 瑠璃は柚子の様子を見て、くすくすと笑いながらアドバイスした。


「柚子、卵を割るときは力を入れすぎないで。そっと割るのよ」


 鏡花も笑いながら言った。


「ほんまや。漫画みたいにはいかへんで。でも、それがおもろいんちゃう?」


 柚子は頬を膨らませたが、すぐに笑顔に戻った。


「うん、そうだね! 頑張るよぅ~!」


 一方、瑠璃はレモンパイの生地作りに没頭していた。


「ふむ、バターは室温に戻して……よし、これくらいかしら」


 瑠璃の動きは慎重で丁寧だった。まるで実験でも行っているかのように、正確に材料を計量し、手順を踏んでいく。


「瑠璃ちゃん、すごく上手そう!」柚子が感心したように言った。


「ありがとう。でも、まだわからないわ。レモンの風味をどう出すかが難しいのよ」


 鏡花は『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する「モッツァレラチーズのカプレーゼ」を作ることにした。


「よっしゃ、トマトとモッツァレラチーズをスライスして……おっと、ちょっと厚くなってもうた」


 鏡花は少し困った表情を浮かべたが、すぐに気を取り直した。


「まあええか。ジョジョっぽく、派手に盛り付けたろ!」


 3人はそれぞれの料理に没頭しながらも、時々他の2人の様子を窺っては、アドバイスを交換し合う。部室には和やかな雰囲気が漂っていた。


 しばらくすると、柚子の炒飯から香ばしい匂いが立ち込め始めた。


「わぁ~、いい匂い!」柚子が嬉しそうに言った。


 瑠璃と鏡花も顔を上げ、匂いを嗅いだ。


「本当ね。美味しそう」瑠璃が言った。


「おお、なかなかやるやん」鏡花も感心した様子だった。


 柚子は得意げに炒飯を器に盛り付けた。見た目はちょっと不格好だが、香りは確かに食欲をそそるものだった。


「えへへ、どうかなぁ~。漫画みたいに服が吹き飛ぶほどじゃないけど……」


 瑠璃のレモンパイもオーブンから良い香りを漂わせていた。


「ふむ、色づきは理想的ね」瑠璃が満足そうに言った。


 鏡花のカプレーゼは、予想以上に"ジョジョ"らしい派手な盛り付けになっていた。


「どや? ちょっとアバンギャルドやけど、ええ感じやろ?」


 3人の料理が出来上がり、いよいよ試食の時間となった。


「じゃあ、順番に食べてみようか」瑠璃が提案した。


 最初は柚子の炒飯から。3人は緊張した面持ちでスプーンを手に取った。


「いただきまーす!」


 口に入れた瞬間、3人の表情が変わった。


「わぁ! 美味しい!」鏡花が驚いた様子で言った。


「本当ね。卵の風味がしっかりしていて、具材のバランスも良いわ」瑠璃も感心した様子だった。


 柚子は嬉しさのあまり、飛び跳ねそうになった。


「やったぁ~! 漫画みたいにはいかなかったけど、美味しく作れたよぅ~!」


 次は瑠璃のレモンパイ。見た目は完璧で、まるでケーキ屋さんで売っているようだった。


「すごい! 瑠璃ちゃん、プロみたい!」柚子が感嘆の声を上げた。


「ほんまや。見た目だけでよだれ出てきそうや」鏡花も目を輝かせた。


 3人は一斉にフォークを入れ、口に運んだ。


「んん~! すっごく美味しい!」柚子が目を閉じて幸せそうな表情を浮かべた。


「うまっ! レモンの酸味がええ感じや!」鏡花も驚いた様子だった。


 瑠璃は少し照れくさそうに微笑んだ。


「ありがとう。コナンくんも喜んでくれるかしら」


 最後は鏡花のカプレーゼ。見た目は確かに派手だが、トマトとモッツァレラチーズの組み合わせは食欲をそそるものだった。


「おお! なんか芸術作品みたい!」柚子が目を丸くして言った。


「確かに"ジョジョ"らしいわね」瑠璃も感心した様子だった。


 3人は一口食べると、驚いた表情を見せた。


「おいしい! シンプルだけど、素材の味がすごくいいよぅ~」柚子が感動したように言った。


「そうね。トマトの酸味とチーズのまろやかさがよく合っているわ」瑠璃も頷いた。


 鏡花は照れくさそうに頭をかいた。


「まあ、ごっつシンプルやけど、素材の味を生かすんがイタリア料理の真髄やからな」


3人はそれぞれの料理を堪能し、感想を述べ合った。部室には美味しい料理の香りと、和やかな雰囲気が漂っていた。


「ねえねえ、みんなの料理すっごく美味しかったね!」柚子が嬉しそうに言った。


「そうね。それぞれ個性が出ていて面白かったわ」瑠璃も満足そうだった。


「ほんまや。こんなん、毎日やりたいくらいや」鏡花も笑顔で言った。


 3人は一息ついて、ソファに座った。


「でも、勝負はどうするの?」瑠璃が思い出したように言った。


「あ、そうだった!」柚子も思い出した様子だ。


「せやな。でも、みんなうまかったし、決めるの難しいわ」鏡花が首をかしげた。


 3人は少し考え込んだ。そして、ほぼ同時に顔を上げ、笑い合った。


「もしかして、引き分けってことでいい?」柚子が提案した。


「そうね。それぞれ良さがあったし」瑠璃も同意した。


「ほんま、そうしよか。無理に勝負つけんでもええわ」鏡花も頷いた。


 3人は満足そうに笑顔を交わした。しかし、その時、柚子が突然立ち上がった。


「あ! でも、このままじゃちょっともったいないよねぇ~」


「どういうこと?」瑠璃が不思議そうに尋ねた。


「そや、なんか思いついたんか?」鏡花も興味深そうに柚子を見た。


 柚子は目を輝かせながら説明を始めた。


「ねえ、私たちが作った料理、すっごく美味しかったよね? だったら、これをもっと多くの人に食べてもらいたいなって!」


「へえ、面白いアイデアね」瑠璃が感心したように言った。


「ほう、どないするつもりや?」鏡花も興味津々だった。


 柚子は嬉しそうに続けた。


「文化祭で、私たちの漫画研究部が『漫画の料理カフェ』をやるのはどうかなぁ~?」


 瑠璃と鏡花は驚いた表情を見せた。


「文化祭?」

「カフェ?」


 柚子は熱心に説明を続けた。


「そう! 今日作った料理を中心に、もっといろんな漫画の料理を再現して、お客さんに食べてもらうの。きっと面白いと思うんだぁ~」


 瑠璃は少し考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。


「なるほど。確かに面白そうね。でも、準備が大変そうだわ」


 鏡花も興奮気味に言った。


「でも、おもろそうやな! ウチ、やりたいわ!」


 柚子は嬉しそうに飛び跳ねた。


「やったぁ~! じゃあ、決まりだね!」


 3人は興奮して、カフェの計画を立て始めた。


「どんな漫画の料理を出そうか?」瑠璃が尋ねた。


「うーん、『ワンピース』のサンジの料理とか?」柚子が提案した。


「『美味しんぼ』の料理も外せへんな」鏡花が付け加えた。


 瑠璃は冷静に提案した。


「ジャンルを分けて、和食、洋食、デザートなどのカテゴリーを作るのはどうかしら」


 柚子と鏡花は目を輝かせた。


「さすが瑠璃ちゃん! 頭いいねぇ~」

「ええやん、それ!」


 3人は夢中で企画を練り始めた。部室には楽しそうな笑い声が響き、時間が過ぎるのも忘れてしまうほどだった。


 その時、突然柚子が「きゃっ!」と声を上げた。


「どうしたの?」瑠璃が心配そうに尋ねた。


「あ、ごめんね。ちょっと髪が顔にかかって……」


 柚子が髪をかき上げようとしたとき、手が滑って眼鏡が外れてしまった。


「あ、見えないよぅ~」


 柚子が困った様子で眼鏡を探そうとする中、瑠璃が近づいてきた。


「大丈夫? 私が……」


 瑠璃が柚子の顔に近づき、髪をかき上げようとしたその時、誤って二人の唇が一瞬触れ合ってしまった。


「!?」


 瑠璃と柚子は驚いて顔を赤らめ、慌てて離れた。


「ご、ごめんなさい!」瑠璃が真っ赤な顔で謝った。


「い、いや、私こそごめんねぇ~」柚子も顔を真っ赤にしていた。


(ゆ、ゆずと、キ、キス、キスキス……ファーストキス……)


 なぜか瑠璃が目をぐるぐるとさせている。


 鏡花はその様子を見て、くすくすと笑い出した。


「おいおい、なにしとんねん。まだ企画の途中やで?」


 瑠璃と柚子は顔を見合わせ、そして照れくさそうに笑った。


「う、うん。そうだねぇ~」柚子が眼鏡を直しながら言った。


「そうね。続けましょう」瑠璃も冷静さを取り戻そうとした。


 こうして、黒睡蓮女学院の漫画研究部は、思わぬ展開を経ながらも、新しい企画に向けて熱心に話し合いを続けていった。部室には、料理の香りと共に、3人の夢と希望が満ちていくのだった。


 黒睡蓮女学院の漫画研究部は今日も平和です。

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黒睡蓮女学院漫画研究部の日常 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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