第7話「部室模様替え大作戦」

 黒睡蓮女学院の漫画研究部の部室は、長年の使用で少し古びた雰囲気を漂わせていた。壁には歴代の部員たちが描いたイラストや、人気漫画のポスターが所狭しと貼られている。本棚には漫画の単行本やアニメのBlu-rayがびっしりと並び、机の上には描きかけの原稿や画材が散らばっていた。


 柚子、瑠璃、鏡花の3人は、いつものようにそれぞれの定位置でくつろいでいた。柚子は部室の隅にあるビーズクッションに座り、スマートフォンを熱心に操作している。瑠璃は窓際の椅子で、優雅にお茶を飲みながら文庫本を読んでいる。鏡花はソファに寝そべり、ファッション雑誌を読みながらガムを噛んでいる。


 突然、鏡花が声を上げた。


「なあ、みんな。ウチらの部室、ちょっと古くさくなってきてへん?」


 瑠璃は本から目を離し、周囲を見回した。


「そう言われてみれば……確かに少し埃っぽい感じがするわね」


 柚子も顔を上げ、眼鏡を直しながら言った。


「うんうん、私もそう思ってたんだぁ~。なんか新しい感じにしたいよねぇ~」


 鏡花は体を起こし、雑誌を広げながら言った。


「ほんまや。ほら、この雑誌見てみ。今、部屋の模様替えがブームらしいで」


 瑠璃と柚子は興味深そうに鏡花の元に集まった。


「へえ、模様替えねぇ……」瑠璃が言った。


「わぁ~、おしゃれ!」柚子が目を輝かせた。


 鏡花は雑誌のページをめくりながら説明を始めた。


「な、こんな感じやったら、ウチらの部室もめっちゃオシャレになるんちゃう?」


 瑠璃は少し考え込んだ後、頷いた。


「確かに。でも、予算的にどうかしら? 学校に申請を出さないといけないわよね」


 柚子は急に何かを思いついたように飛び上がった。


「あ! そうだ! 私たちで手作りしちゃえばいいんじゃない? お金かからないし、みんなの個性も出せるよぅ~」


 鏡花はニヤリと笑いながら言った。


「ナイスアイデアや! ウチらで協力して、めっちゃ可愛い部室作ったろ!」


 瑠璃もゆっくりと頷いた。


「そうね。みんなで協力すれば、きっと素敵な空間になるわ」


 3人は興奮して、模様替えのプランを立て始めた。


「まずは、壁紙をなんとかせなあかんな」と鏡花が言った。


「そうだねぇ~。でも、壁紙って高そう……」柚子が心配そうに言った。


 瑠璃は少し考えた後、提案した。


「壁紙の代わりに、大きな布を使うのはどうかしら? 100均で安く手に入るし、好きな柄を選べるわ」


 柚子と鏡花は目を輝かせた。


「さすが瑠璃ちゃん! 頭いいねぇ~」

「ええやん、それ!」


 次に、家具の配置について話し合った。


「この本棚、もうちょっと使いやすい位置に動かしたいなぁ~」柚子が言った。


「そやな。あと、もうちょっとスペース作れたら、みんなでくつろげるスペースも作れるで」鏡花が付け加えた。


 瑠璃は部室の見取り図を描きながら、効率的な配置を考えていた。


「こうすれば、動線も良くなるし、空間も広く感じられるわ」


 3人は瑠璃の図を見ながら、さらにアイデアを出し合った。


「あ! 私のアニメフィギュアコレクション、飾るスペースも作りたいなぁ~」柚子が目を輝かせながら言った。


「うーん、でもな、あんまりごちゃごちゃしすぎるんもなぁ」鏡花が少し困った表情で言った。


 瑠璃は冷静に提案した。


「そうね。じゃあ、ローテーションで飾るのはどうかしら? 月ごとにテーマを決めて」


 柚子は嬉しそうに頷いた。


「それ、いいアイデアだよぅ~! 今月は『ラブライブ!』月にしようかなぁ~」


 鏡花もニヤリと笑った。


「ほな、来月は『ダンまち』月やな」


 瑠璃はため息をつきながらも、微笑んだ。


「わかったわ。私の番には『文豪ストレイドッグス』月にするわ」


 3人は楽しそうに笑い合った。


「よーし! じゃあ、明日から本格的に模様替え始めようよぅ~」柚子が元気よく言った。


「そやな。放課後に100均寄って、材料集めるで」鏡花が頷いた。


「わかったわ。私は効率的な作業プランを立てておくわ」瑠璃が言った。



 翌日、3人は意気揚々と100均に向かった。


「わぁ~、可愛い布がいっぱい!」柚子が目を輝かせながら言った。


「おお、これええな。ポップな感じで」鏡花が派手な柄の布を手に取った。


 瑠璃は少し困った表情で言った。


「でも、あまり派手すぎると落ち着かないわよ」


 3人は意見を出し合いながら、最終的に淡いパステルカラーの布を選んだ。


「これなら、みんなの好みも反映されてるし、落ち着いた雰囲気も出せるわね」瑠璃が満足そうに言った。


 他にも、装飾用のLEDライトや、手作りの棚を作るための材料なども購入した。


「よーし! これで準備オッケーだねぇ~」柚子が嬉しそうに言った。


◆ 


部室に戻ると、3人は早速作業を始めた。まずは、家具を動かすことから始めた。


「うーんっ! この本棚、思ったより重いよぅ~」柚子が悲鳴を上げた。


「しっかり持ってや! 落としたらあかんで!」鏡花が声を張り上げた。


 瑠璃は冷静に指示を出した。


「そこよ、そこ。あと少し右に……よし、完璧」


 家具の配置が終わると、次は壁の装飾に取り掛かった。


「よいしょ……」柚子が脚立に乗り、布を壁に貼り付けようとしていた。


「大丈夫? 落ちないでよ?」瑠璃が心配そうに見上げた。


「平気平気ぃ~。私、意外と器用なんだぁ……きゃっ!」


 柚子がバランスを崩し、瑠璃の上に落ちてきた。


「きゃあっ!」


 2人は床に倒れ込み、柚子が瑠璃の上に覆いかぶさる形になった。


「いたた……あれ? 瑠璃ちゃん、大丈夫ぅ~?」


 柚子は、自分の胸が瑠璃の顔に押し付けられていることに気づかず、首を傾げた。


「む、むぐっ……」


 瑠璃は真っ赤な顔で身動きが取れずにいた。

 鏡花はその光景を見て、くすくすと笑い出した。


「おいおい、なにしとんねん。まだ作業中やで?」


 柚子はようやく状況に気づき、慌てて飛び起きた。


「ご、ごめんねぇ~、瑠璃ちゃん! 大丈夫だった?」


 瑠璃はなぜか顔を真っ赤にしたまま、ゆっくりと起き上がった。


「だ、大丈夫よ。気をつけてね、柚子」


 作業は続き、3人は協力して壁の装飾を完成させた。パステルカラーの布が部室全体を明るく、柔らかい雰囲気に変えた。


「わぁ~、すっごく可愛くなったぁ~!」


 柚子が目を輝かせながら言った。


「ほんまや。なんか、雑誌みたいな部屋になってもうたな」鏡花も満足そうだった。


 瑠璃はうなずきながら言った。


「そうね。でも、まだ終わりじゃないわ。次は細かい装飾よ」


 3人は、それぞれが持ち寄った小物や装飾品を使って、部室をさらに彩り始めた。


 柚子は自慢のアニメフィギュアを、新しく作った棚に丁寧に並べていく。


「えへへ、やっぱりフィギュアって可愛いよねぇ~。ほら、このれんちゃんの表情、すっごくキュートでしょ?」


 瑠璃は本棚の整理をしながら、クラシック音楽のCDプレイヤーをセッティングした。


「こうすれば、読書しながら音楽も楽しめるわ」


 鏡花は、自分で作ったハンドメイドのアクセサリーを飾るコーナーを作った。


「な、どや? ウチの手作りピアス、めっちゃ可愛いやろ?」


 3人は、それぞれの個性を活かしながら、部室を自分たちらしい空間に変えていった。


 3人は達成感に満ちた表情で、新しくなった部室を眺めていた。


「ねえねえ、すっごく素敵になったよねぇ~!」柚子が嬉しそうに言った。


「ほんまや。なんか、おしゃれカフェみたいになってもうた」鏡花も満足そうだった。


 瑠璃はうなずきながら言った。


「そうね。みんなの個性が出ていて、でも全体的には調和が取れている。理想的な空間になったわ」


 3人は新しい部室の雰囲気に浸りながら、ソファに座った。


「あー、疲れたぁ~」柚子が伸びをしながら言った。


「せやな。でも、やりがいあったわ」鏡花も同意した。


 瑠璃は周りを見回しながら言った。


「そうね。でも、これで終わりじゃないわ。この素敵な空間で、これからどんな活動をしていくか考えないと」


 柚子は目を輝かせながら提案した。


「あ! そうだよぅ~。新しい部室でみんなで漫画を描いてみるのはどうかなぁ~?」


 鏡花もニヤリと笑った。


「ええやん、それ。ウチら3人で合作とか面白そうやな」


 瑠璃も少し考えた後、頷いた。


「そうね。それぞれの得意分野を活かせば、面白い作品ができそうよ」


 3人は興奮して、新しい企画についてアイデアを出し合い始めた。


「私がストーリー考えるぅ~!」

「ほな、ウチがキャラデザインするわ」

「私は背景と仕上げを担当するわ」


 話し合いが盛り上がる中、突然、柚子のスマートフォンが鳴った。


「あれ? こんな時間に誰だろう?」


 柚子が画面を確認すると、驚いた表情を浮かべた。


「えっ!? みんな、大変だよぅ~!」


 瑠璃と鏡花は心配そうに柚子を見つめた。


「どうしたの?」

「なんや?」


 柚子は慌てた様子で説明した。


「あたしたち集中しすぎちゃったみたいですぅ……もう夜の9時だよぅ~!」


 瑠璃と鏡花は驚いて立ち上がった。


「えっ!?」

「マジか!?」


 3人は慌てて窓の外を見た。確かに、外はすっかり暗くなっていた。


「やばい、門限まであと30分やん!」鏡花が焦った様子で言った。


「急いで帰らないと!」瑠璃も慌てて荷物をまとめ始めた。


 3人は急いで身支度を整え、部室を出ようとした。しかし、ドアを開けようとした瑠璃の手が止まった。


「あ、あの……みんな」


 柚子と鏡花は不思議そうに瑠璃を見つめた。


「どうしたの、瑠璃ちゃん?」

「なんや?」


 瑠璃は少し恥ずかしそうに言った。


「私たち、夢中になりすぎて……鍵、職員室に返すの忘れてない?」


 3人は顔を見合わせ、そして大きなため息をついた。


「あーあ、せっかくの素敵な部室なのに、初日から泊まりになっちゃうのかぁ~」柚子が肩を落として言った。


「しゃあないな。ウチらの青春の1ページってことで」鏡花も諦めたように笑った。


 瑠璃はくすくすと笑いながら言った。


「まあ、新しい部室のお披露目を兼ねた女子会、ということで」


 3人は顔を見合わせ、そして大笑いした。こうして、黒睡蓮女学院の漫画研究部の新しい部室は、思わぬ形で初夜を迎えることになったのだった。


 黒睡蓮女学院の漫画研究部は今日も平和です。

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