第37話
未来は、今のその相手との関係を、何よりも気に入っていた。
彼女には、自分でもどうしようもない癖がある。相手もそれを理解してくれていた。なぜなら、相手も同じ癖を持っているからだ。
彼女が、自分のこの体質に気付いたのは、小学校を卒業する間際だった。
(確か、それくらいの時期だった)
未来は、小学校から高校までをミッション系の私立学校で過ごした。女子校だった。
未来は、目の前のケーキをゆっくりと食べる。ガトーショコラの大きさが半分位になったところで、フォークを置き、コーヒーを口に運ぶ。黒い液体の温度は、程よい熱さになってきている。カップをソーサの上に置き、再び外の川を見る。
思い出している。
小学校6年生の時、クラスの女の子達は、交流のある同じミッション系の男子校の生徒の事を話題にしていた。初恋の相手とか、憧れの人とかは、大抵はこの学校の男の子と相場が決まっていた。
そんな中、未来の場合は、初恋の相手は同じクラスの中に居た。
卒業旅行で、その女の子と同じ布団で寝て、手を握り合った時、胸が異常に高鳴ったことを、今でも覚えている。
自分は、女の子が好きなのかも知れない。
この事実に気が付いたのは、この卒業旅行の布団の中だ。
高校1年の時にした初めてのキスも、同じクラスの女の子だった。
ミッション系の学校だったので、校内には大きくて立派な教会があった。夕暮れ時の、誰も居ない薄暗い教会の、オルガンの陰で、高校2年の時にした行為を思い出しては、今でも体の芯が熱くなる。
いい匂いのする可愛らしいその後輩に、我慢できず本能のままにしてしまった行為は、未来が最初から最後まで主導権を握った。
大学に進学して、初めて異性と学生生活を送り、そして何人かの男性と付き合って、男の体も知ってみた。
未来のような体質の女性にありがちな、男性そのものへの嫌悪感や恐怖感は無かったが、心から熱くなれるのは、同性を相手にしている時だけだと、この時確信した。
灯火 藤原 紅 @devl
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