騎士学園の落第生

奔太

第1話 入学

 俺には才能が無かった。

 魔法が使えず、剣術しか取り柄のない不出来な貴族。

 それが周りの俺に対する評価だった。

 親からも魔法が使えないと分かるとまともな教育は諦められていた。

 親の期待はすぐさま二つ下の妹へと移った。

 それでもナイトハルト家の一員という事で最低限の教育は施された。

 放任されて育った俺は唯一認められた剣術の家庭教師との研鑽に打ち込んだ。終ぞ師匠に勝つ事は叶わなかったが一人前と言われ、剣術の修行にますますのめり込んだ。

 そんな俺ももう18歳である。貴族学園への編入をする時期だ。

 近くの地方にある古い貴族学園へと編入が決まっていた。妹は魔法も剣術も才能があった。唯一剣術だけは少し勝っていたが、いずれ剣術でも抜かれる事だろう。それだけの才能と努力が出来る子に育っていた。

 妹は国の中でも大貴族、その中でもエリートのみが編入出来る世界一の学園へと編入が決まっていたが、そこで妹がだだをこねた。俺と一緒じゃないとその学園へは行かないとの事だった。

 ナイトハルト家からその学園へと編入する事はおおいな名誉だった。両親は諦め、護衛枠で俺の入学を決めてしまっていた。

 こうして魔法も使えない俺は世界一の貴族学園へと編入する事になってしまった。

 面倒だと思いつつもこの家から出られる事に少しせいせいしていた。やっと家の呪縛から逃れられると安堵した。

 こうして俺の騎士としての学園生活が始まる。


 *


「お兄さま、どうですかこの制服は」

「別に、いつもと変わらん」

「そうですか・・・・・・」

「アークス様。そこは似合っていると言う所ですよ」

「服を変えたぐらいで中身は変わらない」

「良いのよフローラ。お兄様が冷たいのはいつもの事だから」

「ですが・・・・・・」

「そんな事よりそろそろ時間だ。行くぞ。今日は編入式だ。遅れる訳にはいかん」

「は、はい行きましょう」

 本当なら一人で向かいたい所っだったが、これでも名目上イリアスの護衛役なのだから共に学園へと向かわなければならない。とにかく面倒な事だ。イリアスに護衛なんてそもそもいらないだろうに。

「それではアークス様、イリアス様行ってらっしゃいませ」

「行ってくるわねフローラ」

「それではな」

 学園寮を出ると、既に騎士学園へと向かう大通りには同じ制服を着た同い年の学生がちらほら見えていた。

「学校生活楽しみですねお兄さま」

「楽しみか?普通に勉強するだけだろう」

「楽しみですっ!やっとお兄さまと一緒に学園へ通えるのですから。昼食は一緒に食べましょうね」

「断る」

「なんでですかっ!」

「一人の方が性に合っている。朝だって本当は一人で行きたいんだ。イリアスがどうしてもと譲らないからこうして仕方なく一緒に通学しているが、これでも譲歩しているんだ。帰りは一人で帰る事だ。いいな?」

「お兄さま・・・・・・少しは私に優しくしても良いと思うのですが。たった一人の兄妹なんですし」

「兄妹が皆仲が良い訳じゃない。それを俺に当てはめるな」

「・・・・・・はい」

 それに、俺が近くにいれば。

「そう気を落とすな。お前は他の学生と仲良くしていればいい。ここで沢山コネを作っておけ。きっと将来の役に立つ」

「私は将来よりも、今お兄さまと一緒に過ごしたいです」

「お前はナイトハルトの正統後継者だ。そんな事を無闇に言うものじゃない」

「はい・・・・・・」

「・・・・・・分かった。今日の昼飯は一緒に食べよう。今日だけだぞ」

「お兄さま!ほんとですか?絶対ですよ」

「ああ」

 何故こうも俺に懐いているのか分からないな。イリアスはちゃんと自立心があるから俺に依存している訳でもないだろうに。

 そうこう話してる間に学園へと着いた。

「まずはクラスの確認だな」

「絶対お兄さまと一緒のクラスになれますように」

「それはないだろうな」

「お兄さまも少しは祈ってください!」

「そういう問題じゃない。この学園は実力主義だ。お前は間違いなくAクラスに入るだろう」

 対して俺はおそらく。


 *


 その後は講堂に集められ、学園長とやらのご高説を賜った後、学園の中枢部、魔水晶の部屋へと順番に集められた。ここでクラス分けをする為の格付けを行う。部屋には既に結果に一喜一憂する者もいれば結果を見る為に来た上級生や既に格付けを終えた新入生が野次馬に来ている。

「おい、あれって噂のナイトハルト家のご令嬢じゃないか」

「ほう容姿端麗とは聞いていたがここまでとはな」

「見た目も大事だが俺たちの家内候補なんだ。まずは魔法の才能がどれぐらいあるかだな」

「次、イリアス・フォン・ナイトハルト」

「はい」

 イリアスが水晶に触れる。すると水晶は虹色に光り出した。それに呼応するように野次馬がざわざわと騒ぎ出す。

「ほう、最高クラスの魔法力か」

「今日で一番じゃないか?あの才能は」

「ナイトハルトの魔法力はトップクラスだな。下がって良いぞ」

「はい」

 振り返ったイリアスが俺に手を降ってくる。俺は視線を合わせずに気付かないフリをした。

「なんだあの男」

「ナイトハルト家の付き人かなんかか?」

 だから嫌いなんだ。目立つ事は。

 しばらくすると俺の番が回ってくる。

「お前はナイトハルト家の・・・・・・兄の方か。話は聞いている。クラス分けに関しては免除しても良いが、どうする?」

 ナイトハルト家の兄の方、か。

「いえ。他の方々と同じように」

「そうか。では水晶に触るといい」

「はい」

 俺は水晶に触る。そうするとまたざわめきが聞こえる。ざわざわとした騒音にはやがて笑い声が混じってくる。

「まじかよ・・・・・・無能力かあいつ」

「そんな奴がどうやってこの学園に編入出来たんだ」

「あいつナイトハルト家の嫡男らしいな」

「あの大貴族からこんな出来損ないが生まれるとはな」

 予想はしていたが、案の定水晶は少しも光らなかった。これでいい。色々と説明が省ける。変な噂をされる事もない。

「よし。下がっていいぞ」

「はい」

 こうして俺はこの学園の最底辺、Eクラスへと編入が決まった。


 *

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騎士学園の落第生 奔太 @ponta96

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