五つの難題 〜鉢・枝〜
かぐやを一目でも見ようと残り、想いが絶えることなく通い続けた五人の男がいた。
その名は、石作の皇子、車持の皇子、右大臣阿倍御主人、大納言大伴御行、中納言石上麻呂、この人々だった。
雪が降り、凍えるような寒さの日にも関わらず、かぐやの家の周りにやってきて、立ち止まったり、うろついたりしていたが、どうにもならない。
切ない恋心を詠んだ和歌を贈るが、返事は一向に帰ってくる気配もない。
ある時は、翁を呼び出して、会わせてもらえないか頼んだり、娘を貰いたいと告げたりした。
翁は、弱ってしまって、五人の公達を家の前で待たせ、かぐやにこのことを告げた。
かぐやは、その男達の愛情を知りたいので、部屋に案内するよう翁に言った。
暫くして、五人の公達がかぐやのいる部屋に、我先にと、しかし優雅に入ってきた。
かぐやは、部屋の奥で几帳によって隠されていたが、几帳の布からは姿形が少し透け、近くに居る事がはっきりと分かった。
かぐやは、五人の公達にそれぞれ、ある品物を持ってくるよう言った。
石作の皇子には『仏の御石の鉢』
車持の皇子には『蓬莱の珠の枝』
右大臣阿倍御主人には『火鼠の皮衣』
大納言大伴御行には『竜の頸の珠』
中納言石上麻呂には『燕の子安貝』
五人の公達は、それは無理難題だ、と言って帰ってしまった。
——— 『仏の御石の鉢』———
石作の皇子は、かぐやが難題を示した事に憤って、家に帰った。しかし、どうしても彼女と結婚したいと思い、従者に天竺に行く事は可能かと尋ねた。
石作の皇子は、従者が、幾つもの船が天竺を目指して旅立ったが、辿り着いた者はいなかった、と言うのを聞いて考えを巡らしていると、頭に良い方法が浮かんで来た。
石作の皇子は、早速、従者に船を用意するよう言い、周囲の者達に天竺へ行くと言いふらした。
石作の皇子は、次の日の太陽が高く昇った頃、船に乗り、大勢に見送られながら天竺の方角へ向かった。
石作の皇子は、月が小さく灯る頃、静かに都へと帰り、三年の間、身を隠した。
石作の皇子は、三年後、堂々と天竺から帰ってきた事を装い、山奥の寺にある煤汚れた鉢を錦の袋に入れて、かぐやの元へ向かった。
石作の皇子は、かぐやに天竺へ行った時の苦労話を大袈裟に語った。
石作の皇子は、かぐやとようやく結婚できると思い、浮き足立っていた。
石作の皇子は、話を大きくする中で、つい十年もの間天竺に行っていた事になっていた。
石作の皇子は、かぐやにその事を指摘されると慌てふためき、天竺と大和の国では時の流れが違うのだ、と言うのでかぐやは呆れてしまった。
石作の皇子は、どうしても諦めようとしないので、本物の『仏の御石の鉢』は、淡い光に包まれているのに、どうしてこの鉢は蛍ほどの光さえないのか、と言った。
石作の皇子は、文句を言いながら帰ってしまった。
———『蓬莱の珠の枝』———
車持の皇子は家に帰った後、どうしてもかぐや姫を手に入れたいと思い、一晩中考えを巡らした。
車持の皇子は策略にたけた人であった。かぐやに珠の枝を取りに行きますと言って、都を出発した。
周りの人たちの見送りを断り、六人の顔を隠したお供を連れて、山奥へと消えて行った。
人目につかず、近寄れそうもない所に家を建て、柵で三重に囲み、立派な
そして、六人のお供は顔を隠していた布を取り去った。都でも名高い職人達であった。
車持の皇子は職人達に、この世で最も美しい枝を造る様に命じた。
そうして、車持の皇子は完成した枝をこっそりと持ち出し、かぐやのところへ会いに行き、その枝を得意げにかぐやに見せた。
銀の根が細やかに広がり、金の茎がまっすぐに伸び、大小様々な真珠が成っていた。
かぐやはその枝を本物だと思い、胸のつぶれる様な思いをしていると、六人の職人達が押しかけてきて、車持の皇子に支払いを頼んだ。
車持の皇子は怒りと恥ずかしさで顔が赤くなったかと思うと、料金の書かれた紙を見て顔を青くしてしまった。
かぐやは車持の皇子は大きかったが、作り物で偽物だ、と言って追い返してしまった。
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