月の都のかぐや姫

和音

しきたり


 貴方は月のことを、竹取物語を知っているだろうか。現存する日本最古の物語とされており、かぐや姫のお話として知らない人はいないのでは無いかと思う。


 しかし、今から綴るのは竹取物語に隠された本当のお話。一人の少女を、『かぐや姫』を地球と月が追い求め、手に入れようとする物語。


 今日も、何も知らないうさぎ達が、ただ幸せそうに跳ねている。そして、何も知らない人間達は幸せそうに生きている。



 ———月は美しい、月は穢れてはならない。故に交わらない。ただ一つのしきたりを除いて———



 月には都がある。その都の名前は《  》。水が静かに流れ、花が咲き乱れ、建物が立ち並び、人や兎の様な姿をした月の民が住んでいた。静かに、ひっそりと、しかし堂々と月の都はそこにあった。


 ここ月の都は何もかもがあり、何も無い処。存在したばかりで、無限の時が経った処。月の都の広さは月全体であり、たった一点である。そして、そこに住む月の民はたった一人であり、千を、万をも超える。


 物が、土地が、言葉が穢れていないので、穢れた目では何も捉えられず、穢れた頭では想像にも及ばない。だから地球からは見つけられない、分からない、認知ができない。そこにあるのにも関わらず。


 地球は月の都とは違い、全てが穢れている。そこで産まれるだけで穢れ、育つだけで穢れ、生きるだけで、死ぬだけで穢れていき、そしてそれは罪なのだ。


 そんな地球と月の都が交わる事がある。とある『しきたり』が千年に一度、行われるのだ。


 ———月の民の一部を切り離して、人の『少女』の姿に変え、地球に送る。———


 何故この様なことが行われるのだろうか。このしきたりの目的は地球の情報を得る為では無く、地球の人々を良い方向や悪い方向に誘導する為でもない。無論娯楽や暇つぶしの為でも無い。


 しかし、このしきたりによって、一つの物語、竹取物語が誕生したのだ。 



 分からないところがあるかもしれないが、許して欲しい。月の都について、しきたりについて語るには、この言葉は穢れ過ぎているのだ。


 この物語を綴るには、私は穢れ過ぎているのだ。



——閑話休題。



 しきたりに則って月の民は、身体の一部を三寸ばかり少女の形に変え、願いを込め、手を叩き音を鳴らした。その刹那、少女は姿をぱっと消してしまった。



 ———彼女は穢れた地の、竹の中で目を覚ました。彼女は『しきたり』に選ばれたのだと、すぐに理解した。


 しかし、他のことが全て頭から消えている。眼も見えず、音も聴こえない。声を上げることさえ許されない。


 そんな中、ただ彼女は願った。願いは彼女に応え、甲高い、けれど安心感のある音が鳴り響き、彼女の全身が強く光った。


 それからしばらくして、竹が割れる軽い音と共に、自分が発しているものでは無い、強い光が差し込むのを感じた。


 それは太陽の光だとすぐに分かった。太陽の光を隠し、影を生み出す、竹を割った老人の心が太陽の様に眩く、暖かいことも。

 

 彼女は村のどんな娘よりも成長が早かった。たった三月で成人の女性のように大きくなった。


 彼女が手の平に乗る大きさから、大人の服に袖を通すまで大きくなる間に、彼女は様々な事を知った。


 村から少し外れた古い家に、彼女を見つけた老人が住んでいた事。その老人は翁と呼ばれ、妻がいた事。二人の間には子供が産まれず、ずっと思い悩んでいた事。


 そして、竹の中にいる女の子を見つけ、天からの贈り物だと喜び、『かぐや』と名付け、何よりも大切に育てて来た事。


 かぐやは二人の愛を一身に受け、それはそれは美しく、真っ直ぐ、上品に育った。



 ……このまま話を続けても良いが、その前に、かぐやが翁に育てられてから、二月と少しが経った時の話をしなくてはならない。



 この物語が大きく動き出すのに、必要な出来事なのだから。


———————————————

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 また、この様な雰囲気が好きな人はこちらも読んで見てください。読んでくれたら私が飛び跳ねて喜びます。

https://kakuyomu.jp/works/16817139558138944852

↑この作品は初めて描いた作品で、カクヨム甲子園2022 ショートストーリー部門で最終選考まで残りました。絶対に後悔させない自信のある小説ですし、字数も約2,000字と短く、さくっと読めるので、時間があれば是非どうぞ。


 ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。そして長々と失礼いたしました。



 それでは、次の小説へ行ってらっしゃい。

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